ふれたら消える

明樹

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 運ばれてきたアイスコーヒーを一口飲んで、「それで相談って?」と夏樹が俺の目を見た。
 俺はアイスカフェオレの氷をストローでクルクルとかき回して「あのさ…」と口を開く。

「なんだよ、いつもハキハキと言う青が珍しいな」

 確かにそうだ。俺は聞きたいことがあれば堂々と聞く。嫌な返事だったらどうしようとビビりすぎだ。俺もグラスに落としていた目を上げて夏樹に向ける。

「…先週の祭りの帰り、夏樹と颯人と別れてから変なヤツに声かけられたんだ。昊の知り合いっぽい」
「昊の?誰だろ?名前は?」
「知らない。昊はただの隣のクラスのヤツだって言ってたけど…相手は友達だって昊に馴れ馴れしかった。だから夏樹も知ってる人かなと思って」
「どんな人だった?背、高い?」

 夏樹の表情が変わった。心当たりがあるのだ。
 俺は少しだけ身体を前に出す。

「俺くらいの身長がある。外灯の明かりのせいかもしれないけど、明るい茶色の髪だった」
「ああ…あいつか」
「知ってるの?」

 思わず腰を浮かせかけて、夏樹に「落ち着けよ」と止められた。
 俺は腰を落とすと「だれ?」と低く聞く。
 夏樹はアイスコーヒーを半分まで飲んで、小さくため息をついた。

「…ややこしくなりそうだな。あのな青、そいつはたぶん、隣のクラスの柊木ってヤツだ」
「ふーん、隣のクラスって仲良くなる接点あるのかよ」
「いや…うん…うーん…」
「なんだよ、歯切れ悪いな。頼むよ、教えてくれよ」
「おまえ…怒るなよ」
「…話による」
「じゃあ言わねぇ」
「なんでだよっ、わかった…怒らないから、話してほしい」

 夏樹がこちらに顔を近づける。
 俺も夏樹に顔を寄せた。

「あのな、前に篠山が家に来て、昊を連れ出した時あっただろ?」
「あー、あの最悪な日」
「ふっ、なんだそれ。青、よく聞けよ。篠山は昊とつき合ってると言ったらしいが、昊はつき合ってるつもりは無かったようだ。友達のようなつき合いだったって。だけどあの日、もう会わないと言った昊にキレて、篠山が昊に手を出した」
「はあっ?」

 思わず大きな声が出た。声が出たけど立ち上がらなかっただけ、褒めてほしい。
 夏樹が即座に俺の口を手で塞いだ。
 俺は机を殴りたい衝動を抑えて、手を固く握りしめる。
 夏樹の手が離れると、自分でも驚くほどの低い声が出た。

「あいつ、何した?」
「…昊を壁に強く押さえつけたみたいだよ。そこに柊木が通りかかって助けてくれたらしい」
「そう。篠山は?」
「よくわからないけど、柊木が昊から引き剥がして遠くに連れて行ってから、戻って来なかったそうだよ。それ以降、昊は篠山をブロックしたし会うこともないから、昊も篠山がどうしたか知らないってさ」
「次に篠山に会ったら殴ってやる」

 夏樹が椅子にもたれて「そんな怖い顔すんなよ」と苦笑する。

「それに…ほら、昊が心配そうにこっちを見てるぞ」
「えっ、なに言って…」

 驚いて顔を上げ、夏樹の目線をたどって振り返ると、昊と柊木という男が並んで通路に立っていた。
 

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