ふれたら消える

明樹

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「青が誘ってくるなんて珍しいよな」
「そうかな」
「もしかして初めてじゃね?どうする?この先に新しくできたカフェ…じゃなくて前からある店に行く?新しい店が混んでるだろうから、そっちは空いてるだろ」
「じゃあそうする」

 俺は頷くと、夏樹と並んで歩き出した。
 夏樹は昊より背が高いけど俺よりは低い。だからといって可愛いとは全く思わない。俺より身長が低くて可愛いと思えるのは昊だけ。昊は今、何をしてるんだろうか。俺の頭の中は、四六時中昊でいっぱいだ。
 最近オープンしたばかりのカフェの前を通り過ぎる。すごい人気だ。行列ができている。ほぼ女子ばかりだけど。外に置いてあるメニューを見ると、数種類の美味そうなパンケーキの写真がある。
 
「ふーん、これ目当てで、みんな並んでるのか。昊が好きそう」

 足を止めた俺の隣に来て、夏樹がメニューを覗き込み俺を見た。
 メニューから視線を外して夏樹と目を合わせる。

「なに?」
「いや…さすが昊の好みをよく知ってるなぁと思ってさ」
「そりゃあ知ってるだろ。何年傍にいると思ってんだよ」
「そうだよな、兄弟だもんな」
「…夏樹だって、昊の好みくらい知ってるだろ」
「まあな。でもおまえほど知らねぇよ」

 当たり前だ。俺より昊のことを知ってるヤツがいたら許さない。という言葉を飲み込んで、「暑いから早く行こう」と足早にカフェから離れた。
 目的の店も、行列はできてないけどほとんどの席が埋まっていた。運良く空いていた窓側の席に向かい合って座る。夏樹がアイスコーヒーを頼み、俺はアイスカフェオレを頼んだ。

「なに、青もコーヒー苦手?」
「ブラックは苦手。ミルク入れたら飲める。砂糖はいらない」
「へぇ、昊より大人だな。昊は紅茶しか飲まないよな」
「しかも砂糖入り。甘いものが好きだから」
「それなー。昊って見た目冷たい感じするじゃん?なのに甘いフラペチーノとか飲むじゃん?それを見た女子が騒ぐんだよ」
「なんて?」
「ギャップ萌え!かわいい!ってさ」
「……ふーん」

 思わず舌打ちするところだった。なんだよ、昊のバカ。他のヤツらに可愛い所を見せんなよ。昊が可愛いっていうのは、俺だけが知ってたらいいんだ。

「なに?機嫌悪い?」
「悪いよ」

 俺は素直に今の気持ちを口にした。
 夏樹が腕を組んで、意味ありげに笑って見てくる。
 夏樹が今、何を考えているのかわからない。でもたぶん、昊のことになると感情の起伏が激しくなる俺を、子供みたいだと思ってるのだろうと小さく息を吐いた。
 
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