ふれたら消える

明樹

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 母さんをリビングに残し、俺と青はそれぞれの部屋に入った。青は俺と一緒にいたいと言ったけど、一人で考えたいからとドアを閉めた。
 勢いで正直に母さんに話してしまったけど、早まったかもしれない。ちゃんと高校大学を出て、就職して自分の力で生活できるようになってから、話すべきだったかもしれない。高校生の俺たちには、何の力もない。引き離される未来しか見えない。
 俺はスマホを手に取ると、夏樹にメールを送った。一分も待たずに返信が来た。クローゼットの中からリュックを出し荷物を適当に入れると、部屋を出て青の部屋へ行く。

「青」

 声をかけると、すぐにドアが開く。
 俺のリュックを見て、「どこに行くの」と青が焦った声を出した。

「夏樹の家。今夜は泊めてもらう。おまえは?颯人のところにでも行く?いづらいだろ?」
「俺は…ここにいるよ。本心は昊といたいけど、一緒に行くと母さんがまた怒りそうだし」
「そうだな。大丈夫か?」
「大丈夫だよ」
「何かあれば連絡くれ。すぐに戻ってくる」
「うん」

 青の手が伸びてきて、背中のリュックごと俺を抱きしめた。
 俺も抱きしめ返して、青の匂いを思いっきり吸い込む。大好きな匂いが胸の中に充満して、重苦しい気持ちが、少し楽になった気がした。
 青から離れリビングに行きドアを開ける。
 母さんは、キッチンに立って料理を作っている。

「母さん、今日、夏樹のところに泊まる」
「…そう」
「ごめん…母さんを悲しませたくはなかったのに…」
「…夏樹くんに…よろしく言っておいてね」
「うん…」

 俺と青のことに一切触れない母さんの後ろ姿を見て、また泣きそうになる。俺は「行ってきます」と早口で言うと、リビングのドアを静かに閉めた。


「急に悪かったな。大丈夫?」
「全然いいよ。父さんは出張でいないし、母さんも実家に帰ってるし、一人で退屈だったんだ」
「そうなんだ」
「そ。だから気兼ねしなくていいし。飯は?食べた?」
「まだ。だから弁当買ってきた。夏樹の分もあるけど」
「マジで?助かるぅ。今から買いに行こうと思ってたんだよ」
「そっか。ならよかった」

 夏樹の家の玄関を上がり、リビングに向かいながら持っていたビニール袋を掲げてみせる。
 夏樹が袋を受け取りながら、怪訝な顔をした。

「なあ、何かあった?昊が話し出すの待ってようかと思ってたけど、そんな顔見たら気になって仕方ねぇわ」
「俺…どんな顔してんの」
「泣き出しそうな顔。ていうか泣いただろ」
「…うん」

 夏樹の前で嘘はつかない。夏樹には何でも話せてしまう。俺は素直に頷いて、頷いた瞬間、母さんの姿を思い出してしまい、また目に涙を浮かべた。
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