溺れる天使は悪魔をもつかむ

明樹

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 全て無視をして歩いていたが、寮に着くと、ようやくエイルリスは足を止めて振り向いた。

「ここはポインセチア寮だ。おまえはブルースター寮だろ。そっちに行け」
「うん。でも今は人が少ないから、エイルリスの部屋に行きたい。いいだろ?お願い」

 アレンが両手を合わせて上目遣いで見てくる。絶対に自分の顔がいいとわかってやっている。クソ腹の立つ。
 エイルリスは無視して中に入ろうとしたが、例えば蹴飛ばしてもアレンはついて来そうな気がして、諦めの大きな息を吐き出した。

「おい、来てもいいが、勝手に物を触るなよ。触ったら殺す」
「触らないよ。だけどエイルリスに殺されるっていうのも興味あるなぁ」
「変態め」

 オブラートに包むことなく、エイルリスは思いつく悪口を口に出す。
 エイルリスは誰にでも、こういう態度だ。怖い、関わりたくないと誰も近づかなければいいと思っている。とにかく一人でいたいのだ。周りに他人がいると面倒臭くてかなわない。
 それなのに、アレンは全く堪えない。何を言われても、ニコニコとしてエイルリスにまとわりついてくる。鬱陶しいこと、この上ない。
 部屋に着くまでの間に、エイルリスは何度もため息をつき舌打ちをした。それでもアレンは怒ることなくついて来て、部屋に入ると感嘆の声を上げた。

「うわあ…いい匂いがする。エイルリスの匂いだ。それに物が少なくて片付いてる」
「俺の匂いってなに。気持ち悪りぃな」
「知らない?エイルリスはいい匂いがするんだよ。みんなも言ってる」
「はあ?」

 他人の匂いなんてどうでもいいだろ。どいつもこいつも気持ち悪いな。
 エイルリスは盛大なため息をつくと、「そこに座れ」と椅子を指し示した。
 アレンが嬉しそうに椅子に座る。
 その様子を見て、まるで大きな犬みたいだとエイルリスは思った。その犬が、机の上にある何かを、指でつまみ上げている。

「なんだ?」
「おお、キラキラしてる。これ、エイルリスの髪だ。きれいだよな」
「…おい、捨てろ」
「嫌だ、もらう」
「やめろ、ほんとに気持ち悪りぃな。もらってどうするんだよ。呪うのか?」
「はあ?そんなことしないよ。大切に持っておくだけ」
「意味がわからない」
「だって、好きな人の物って、持っていたいだろ?」

 エイルリスは、無言でアレンの前に、冷えた紅茶が入ったグラスを置く。そして向かい側に座り、目を細めてアレンを見つめた。
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