離した手の温もり

橘 凛子

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始動

ep.26

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「もう!あなたったら!
夕飯時に暗い話しないでくれる?」
「す、すまん…」

絢子さんが食卓テーブルに四人分の料理を並べながら篤さんを叱りつけた。

しゅん、と大の大人が子供のように身体を縮こませてしまう。

彗くんと私は目を一瞬合わせて、笑いあった。

どうやら篤さんは彼女に頭が上がらないらしい。

子供の頃もこの光景、何度か見た記憶がある。

その時も私と彗くんの二人は今日のように笑いあった。

「さ、食べましょ!
美愛ちゃんの好きなオムライスよ!」

絢子さんはキラキラした笑顔で私達を食卓テーブルへ促した。

わざわざ夕飯のメニューを変えたのだろうか。

目の前には好物のオムライスが出されている。

半熟卵のデミグラスソースがかかったそれは昔、彼女が幼い私に振る舞ってくれた料理。

母親からも作ってもらったことがないそれに当時、私は感動した気がする。

家庭的であったかい味。

この間彗くんが作ってくれたのと同じ味だった。

『………』
「美愛ちゃん?
お口に合わなかったかしら?」
『あ…いや…!そうじゃなくて…!』
「?」
『彗くんが作るのと同じ味だなぁと思って…』
「あら、それはそうよ。
私のレシピ、教えたんだもの」
『え…
そうだったんですか…?』

初耳だった。

どうりで彗くんの作るオムライスからは懐かしい味がするわけだ。

彼が作るから懐かしいのではなく、そのレシピが懐かしいかったらしい。

「そうよ。彗ったらね…」
「母さん」

絢子さんが裏話を話し出そうとしたその時。

黙っていた彗くんが少し咎めるように言葉を遮った。

「あら、なに?」
「余計なこと言わないでいいよ」
「……ふーん…?」
『な、なんだよ。
気味悪い顔』

絢子さんは彗くんの顔をニマニマ意味ありげに見返している。

それに彼は眉を顰めて身を引く。

両親の前だからだろうか。

いつもの優しい口調が少し薄まっている。

「美愛ちゃんは彼氏、いないんだっけ?」
『へ?
ぁ…はい。男の人苦手なので…』
「そうだったわね。
彗も苦手?」
『い、いえ…
彗くんは別に』
「ふーん…そうなのね…!」
『?』

絢子さんは探りを入れるような聞き方だった。

なんだろう。

私は意図が分からずに困惑する。

「母さん。
いい加減にしろ。美愛が困らせるなよ」
「はいはい。黙るわよ」
「ったく…」

「…悪い。声荒げて」
『いや、いいけど…
彗くんも怒るんだね。初めて見た』
「それは母さんが…」
『?』
「いや、いい。食べよう」
『うん…?』

彗くんは止めていた手を動かし、オムライスを口に運んだ。

正面に座る絢子さんは目を細めてクスクス、と笑っている。

私だけが理解していないよう。

モヤモヤする。
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