離した手の温もり

橘 凛子

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始動

ep.27

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『ご馳走様でした。美味しかったです』
「お粗末様です」

談笑しながらも食事を済ませ、私達は席を移動した。

リビングのL字ソファーに腰を降ろす。

正面にテレビが設置されていて、賑やかな音声と映像が流れている。

時刻は十九時。

窓から見える空は星が煌いている。

そろそろ帰えりたいところ。

だが、少し言い出しづらい。

私は隣に腰掛ける彗くんの服の裾をくいっと引っ張った。

これで察してくれるといいのだが。

「ん?
……あ、帰る?」
『うん』
「え!もう?
ゆっくりしたらいいのに…」
『あはは…
ありがとうございます。また来ます』

彗くんは気づいてくれた。

名残惜しげに絢子さんは引き止めてくれる。

有り難いのだが、あまり長居するのも気が引けた。

どんなに仲良くしてくれたって私はここの家の家族ではない。

家族の団欒を邪魔するほど図々しい人間ではなかった。

「送るよ」
『え、いいよ。
一人で平気』
「そういうわけにはいかない。
外も暗いし」
「そうよ。危ないわ」
『でも…』

いいのだろうか。

彗くんの申し出は有り難い。

夜道を一人、マンションまで歩いて帰るのは少し退屈だ。

話し相手がいるのは嬉しい。

だが、彗くんはまたここへ戻ってこなくちゃではないのだろうか。

「美愛」
『?』
「余計な心配しなくても、俺も帰るよ」
『………。
彗くん、エスパー?』
「は?
んなわけないだろ。馬鹿な事いうなよ」
『だって…』

まるで心を読んだかのような彗くんの言葉。

ここまでくると恐怖まで感じる。

「ほら、行くよ」
『ぁ……ちょ…』
「気をつけてね。またいらっしゃい」
『あ、はい。
お邪魔しました』

リビングから玄関へとスタスタ、と先へ行く彗くん。

私は慌てて彼の両親に会釈をしてからその後を追った。

玄関で脱いだ靴を履いて外へ出る。

「明日仕事?」
『休みだよ』
「散歩がてら公園行く?
この時間なら夜景観れるよ」
『……行く』

彗くんと肩を並べ、帰路を辿ろうとした。

だが、彼は足を止めて少し先に見える坂道に目線を送る。

近所の公園。

坂道の上にあるその公園は夜になるとささやかではあるが、夜景が観れる。

近所の人しか知らない穴場スポットだったりした。

学生の頃はよく観に行っていたが、成人してからはご無沙汰だった。

懐かしい気持ちに駆られて私は彗くんの誘いに乗る。

ここから五分もかからない。

『……ふぅ。
ここの坂こんな緩やかだったんだね』
「子供の頃は急に感じたよな」
『うん』

学校帰りに彗くんに連れられて来ていた公園。

幼かった私達はこの坂が地獄のように長く、急な坂に感じていた。

だが、こうして成人してからこの道を辿ってみると大したことはない。

息も乱れなかった。

あの頃と今じゃ歩幅が違う。
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