笑顔の花は孤高の断崖にこそ咲き誇る

はんぺん千代丸

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32 明かされた真実

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 今や、彼の中には疑問が渦巻いているはずです。
 ルリカ様が自分を愛していたならば、どうして解けない呪いなどかけたのか。

 私もそうでした。
 私も、あの日記を読み進めていくうちに同じ疑問にぶつかりました。

 そして、その先に書かれていた答えを知って呆然となりました。
 それが記されている運命の日付は、ラングリフ様の誕生日のわずか三日前。
 日記帳の最終ページの、一つ前です。

「……何だ、急に字が乱れている?」

 ラングリフ様の呟きが、私の耳に届きました。
 ああ、ついに辿り着かれたのですね。全ての真実が記されている、その日付に。

「『アンジェリカ様が私の屋敷にやってきた。頼みごとがあるのだという』」
「……リリエッタ?」

 私は、そこに書かれている内容を語り始めます。
 彼の痛みを少しでも共有したい。そんな浅ましさが、私にそれをさせました。

「『最悪の頼みごとをされた。私の子供を、死産ということにして殺してほしいというのだ。そんなこと、できるはずがない。もうすぐ生まれてくるのに!』」
「ア、アンジェリカ様が……?」

 ラングリフ様の表情は、凍りついていきます。私は、続けました。

「『先週、神官様に診てもらった結果、私の子供が男児であることがわかった。アンジェリカ様が私の子供の死を願ったのはそれが理由だった。サミュエル様以外に男児が生まれれば国が割れるかもしれないというのだ。そんなことはさせないと何度も説得した。でも、ダメだった』」
「……そんな」

 虚ろな呟きをもらす彼の瞳は、何も映していませんでした。
 私は、続けます。

「『陛下が王太子を定めても、法の上で約束しても、アンジェリカ様はどうしても不安を拭うことができないのだという。彼女の中の疑心暗鬼は、もはや彼女自身でもどうにもできないくらいに膨れ上がっていた。だけど、だけど……!』」
「…………」

 もう、ラングリフ様は言葉もないようでした。
 石となったかのような彼の姿を逃げずに直視しながら、私は、さらに続けます。

「『逃げることも考えた、よそに養子に出すことも考えた。でも、きっとダメ。今のアンジェリカ様は、どんなことをしてもこの子を殺そうとするだろう。もう、方法は一つしかなかった。この子を、王になれない状況に追いやるしか……』」

 語りながら、私は息苦しさに死にそうになっていました。
 ルリカ様が感じられていた痛みが、私の魂を切り刻んでいくかのようでした。

「『ごめんなさい、弱い母親でごめんなさい。私はあなたから笑顔を奪う。私はあなたに茨の道を進ませることになる。本当にごめんなさい。それでも私は、あなたに死んでほしくないの。あなたに生きていてほしいの。ごめんね――』」
「……もう、いい」

 かすれた声で、喘ぐようにして、ラングリフ様はそう言いました。
 私は語るのをやめて、改めて彼の方を向きます。

「ラングリフ様……」

 そのお顔にあるのは一切の無で、瞳は塗り潰されたかのように光がありません。
 でも、よく見れば唇が震えておられます。目じりも。
 ラングリフ様は、このような状況でも自らに我慢を強いているのです。

「こんなひどい話があるか、リリエッタ?」

 彼の声は震えていませんでした。ただ、とても硬かったのです。

「俺はずっと、母を恨んできた。俺を呪ったあの女を恨んで、憎んで、そして諦めていた。アンジェリカ様こそが俺の母なのだと、思い込もうとしてきたんだ」
「はい」
「だというのに、これが真実だと? 俺がこれまで信じてきたものと、まるっきり真逆じゃないか。こんなものを知らされて、俺にどうしろというんだ!」

 吐き捨てるかのような、ラングリフ様の叫びでした。それは、悲鳴でした。
 ついに身を震わせ出した彼に、私も胸が張り裂けるかのようです。

「なぁ、リリエッタ。俺は、誰を恨めばいいのだろうな? 誰を信じればいいのだろうな? 母ルリカもアンジェリカ様も、もう、この世にはいないんだ」

 ラングリフ様は、途方に暮れて片手で頭を抱えました。
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