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35 王妃アンジェリカの罪と罰
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不覚です。
そういえば、あの場にはマリセアさんもおられたのでした。
「仲睦まじいご様子で、実によきことかと」
じっくり観察された上、そのようなコメントをいただきました。
「…………」
「…………」
リビングにて、並んでソファに座る私達は傍らに控える彼女に何も言えません。
完全に、マリセアさんの一人勝ち状態です。
「私も――」
と、マリセアさんが改まった様子で口を開かれます。
「私も、旦那様のことは案じておりました。本当に、よかったです」
「マリセア……」
「旦那様の初めての笑顔は、私も永遠に記憶に留めておこうかと思います」
そう言って、マリセアさんはニンマリと明るく笑いました。
これは、何かあるたびに思い出話として持ち出してくるタイプの覚え方ですね。
「……幸せに思っていいんだよな、これは」
ラングリフ様が、半眼になりながら私に質問してきます。
「ええ、間違いなく」
もちろん、そう思っていいに決まっています。
誰かと一緒に笑って過ごせる状況が、悪いことであるはずがありません。
「ラングリフ様こそ、気持ちの整理はついたのですか?」
「いや、まだだ」
神妙な面持ちで、ラングリフ様は首を横に振ります。
「母さん――、母上は俺を愛してくれていた。それを知れたのは嬉しい。だが、やはり急には変われないようだ。嬉しいし、喜ばしい。だが、まだ少し恨めしい」
「恨めしい、ですか……」
「どうしてもっと早くに教えてくれなかったのか、とかな。恨む理由なんて、もうどこにもないはずなのに、心のどこかでそれを探している俺がいる」
「そうやって、乱れた心の均衡を取り戻そうとしているのかもしれませんね」
「子供だな、我ながら」
ラングリフ様が、軽い苦笑をしてみせます。
その苦笑一つとっても、彼にとっては生まれて初めてすることのはずです。
でも、とても自然な笑い方で、そこにぎこちなさはありません。
ラングリフ様は「ああ」と声を弾ませました。
「これが、笑う、ということか。何とも気持ちがいいものだ。俺以外の皆が、これをずっと楽しんできたというのだから、妬ましくもなるじゃないか」
「これからは共に笑っていけるのです。それではいけませんか?」
「いけなくはないよ、人の笑顔だっていいものさ。俺にとっての最高の笑顔は、やっぱり君の笑顔だ、リリエッタ。我が心に燦然と咲き誇る、至上の『花』よ」
そんなことを言って、彼はまた笑いました。
いきなりの不意打ちはやめてください。ドキッとしたじゃないですか。
何というか、笑えるようになって口説き文句にも余裕がにじんでいませんか?
言い返そうにも、嬉しさに顔がゆるんで、何も思いつきません。
「それにしても――」
と、ラングリフ様の目線は、傍らの卓上に置かれた日記帳に注がれます。
「母上の日記だが、よくも今まで残っていたものだ」
ラングリフ様が言っているのは、アンジェリカ様のことなのでしょう。
「ラングリフ様は、アンジェリカ様については……」
「そちらは飲み込めるまで時間がかかりそう、あの方が元凶だったなんて」
それを語る彼の顔は、やはり複雑そうです。
「許せないと、思いますか?」
「……許すべきでは、ないのだろうな」
ラングリフ様が目を伏せます。
彼の言葉通り、アンジェリカ様のされたことは許されざる大罪です。
けれど、あの方はそれを誰よりも実感し、悔やみ、苦しみ続けてきた。
ついには誰にも明かさず、誰からも許しを得られずに天へと召されたのです。
晩年のアンジェリカ様が過ごされた日々は、苦痛に満ちていたことでしょう。
王妃という輝かしい立場にありながら、あまりにも孤独な死に様です。
そしてそれは、同時に咎人の死に方でもありました。
私も彼も、自らその死に方を選んだあの方を責める気になれませんでした。
そういえば、あの場にはマリセアさんもおられたのでした。
「仲睦まじいご様子で、実によきことかと」
じっくり観察された上、そのようなコメントをいただきました。
「…………」
「…………」
リビングにて、並んでソファに座る私達は傍らに控える彼女に何も言えません。
完全に、マリセアさんの一人勝ち状態です。
「私も――」
と、マリセアさんが改まった様子で口を開かれます。
「私も、旦那様のことは案じておりました。本当に、よかったです」
「マリセア……」
「旦那様の初めての笑顔は、私も永遠に記憶に留めておこうかと思います」
そう言って、マリセアさんはニンマリと明るく笑いました。
これは、何かあるたびに思い出話として持ち出してくるタイプの覚え方ですね。
「……幸せに思っていいんだよな、これは」
ラングリフ様が、半眼になりながら私に質問してきます。
「ええ、間違いなく」
もちろん、そう思っていいに決まっています。
誰かと一緒に笑って過ごせる状況が、悪いことであるはずがありません。
「ラングリフ様こそ、気持ちの整理はついたのですか?」
「いや、まだだ」
神妙な面持ちで、ラングリフ様は首を横に振ります。
「母さん――、母上は俺を愛してくれていた。それを知れたのは嬉しい。だが、やはり急には変われないようだ。嬉しいし、喜ばしい。だが、まだ少し恨めしい」
「恨めしい、ですか……」
「どうしてもっと早くに教えてくれなかったのか、とかな。恨む理由なんて、もうどこにもないはずなのに、心のどこかでそれを探している俺がいる」
「そうやって、乱れた心の均衡を取り戻そうとしているのかもしれませんね」
「子供だな、我ながら」
ラングリフ様が、軽い苦笑をしてみせます。
その苦笑一つとっても、彼にとっては生まれて初めてすることのはずです。
でも、とても自然な笑い方で、そこにぎこちなさはありません。
ラングリフ様は「ああ」と声を弾ませました。
「これが、笑う、ということか。何とも気持ちがいいものだ。俺以外の皆が、これをずっと楽しんできたというのだから、妬ましくもなるじゃないか」
「これからは共に笑っていけるのです。それではいけませんか?」
「いけなくはないよ、人の笑顔だっていいものさ。俺にとっての最高の笑顔は、やっぱり君の笑顔だ、リリエッタ。我が心に燦然と咲き誇る、至上の『花』よ」
そんなことを言って、彼はまた笑いました。
いきなりの不意打ちはやめてください。ドキッとしたじゃないですか。
何というか、笑えるようになって口説き文句にも余裕がにじんでいませんか?
言い返そうにも、嬉しさに顔がゆるんで、何も思いつきません。
「それにしても――」
と、ラングリフ様の目線は、傍らの卓上に置かれた日記帳に注がれます。
「母上の日記だが、よくも今まで残っていたものだ」
ラングリフ様が言っているのは、アンジェリカ様のことなのでしょう。
「ラングリフ様は、アンジェリカ様については……」
「そちらは飲み込めるまで時間がかかりそう、あの方が元凶だったなんて」
それを語る彼の顔は、やはり複雑そうです。
「許せないと、思いますか?」
「……許すべきでは、ないのだろうな」
ラングリフ様が目を伏せます。
彼の言葉通り、アンジェリカ様のされたことは許されざる大罪です。
けれど、あの方はそれを誰よりも実感し、悔やみ、苦しみ続けてきた。
ついには誰にも明かさず、誰からも許しを得られずに天へと召されたのです。
晩年のアンジェリカ様が過ごされた日々は、苦痛に満ちていたことでしょう。
王妃という輝かしい立場にありながら、あまりにも孤独な死に様です。
そしてそれは、同時に咎人の死に方でもありました。
私も彼も、自らその死に方を選んだあの方を責める気になれませんでした。
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