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第0部-アネクシロア共和国-
003_脱出
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それから半日が過ぎた。太陽が上がって沈み終わってから、リリアは目を覚ます。気だるそうに体を起こし、身支度を整える。
夕食のお時間ですよと呆れた声のサシャに、リリアは驚いてからほんのわずか、どうして起こしてくれなかったのという不満そうな顔をした。それに気づいたのか、驚いたリリアに説明が必要だと思ったのか、サシャは朝はリリアが体調不良だと言って起きなかったと言い添える。
リリアの記憶にはなかったものの、毒を約一日摂取していないせいか空腹こそ感じるものの体は軽い。結果論とはいえ、良い方に動いたとリリアは結論付けてこのまま何とか食べずに済ませられないかと知恵を巡らせる。
「気分が良くなくて」
「では軽いものを用意いたします。食事にはおいでください」
「……わかったわ」
あがいてはみたもののサシャの一声で却下され、リリアはため息を隠してベッドを降りた。
立ち上がって、ふらついた様子で再びベッドに沈み込む。数呼吸分待ってから、もう一度起き上がる。心なしか顔色がよく、リリアは悟られないようさりげなく顔を伏せる。サシャはリリアが倒れこむのを見ていたはずだが、特に何も言うことなく、衣装ケースへと向かい、ドレスを取り出している。寝起きということもあり最低限の身だしなみを整えてもらい、リリアは部屋を出たのだった。
その後は、普段より幾分軽めの夕食を終えると、流石に体調不良のリリアを廊下に放置していくのははばかられたのか、今日に関してはサシャもリリアを部屋まで送り届けた。
リリアはベッドの中からサシャを見送り、足音が遠ざかったのを確認してベッドから抜け出す。屋敷中の人間が、夕食後のリリアは寝ていると知っていた。夜中には屋敷内は侍女たちが、屋敷の外は兵士たちが見張っている。人の出入りがまだあるうちのほうが怪しまれても安全。だからこそ、今が好機だとリリアは判断した。
持っている中で一番簡素な裾の短いドレスに着替え、カーテンを開く。部屋は2階だがシーツを使えば降りられないほどの高さではない。バルコニーに出て見張りの様子を確認する。
――トントン。
リリアは急いでベッドに戻り息を殺す。こんな時間に尋ねてくる心当たりはない。だがその疑問はすぐに解決する。
「リリアお嬢様」
「……ルイ?」
「お加減が良くないとお聞きしましたので」
人目を忍んで訪れてくれたのであろうルイを慌てて招き入れると、ルイは明らかに寝るのに適さないリリアの服装に目を丸くした。
カーテンは閉じたものの、隠す時間がなく床に置きっぱなしになった鞄とリリアの顔とを見比べる。
「これは一体……」
「お願い、見なかったことにして」
「では、わたくしもご一緒します」
まだ毒を盛られはじめた頃は、毎日のようにルイは逃げるようにと進言していたが、既に生きることを諦めていたリリアはそれを聞き入れずに、ずるずるとここまで来ていた。だが安堵した様子のルイを見て、リリアは首を横に振る。
「一緒には行けない。ルイには家族がいるでしょう」
「ですが!」
「今まで助けてくれてありがとう」
「……承知いたしました。せめて屋敷から出るところまではお供します。――窓から飛び降りられては困りますから」
わずかに開いているカーテンを指して、ルイは苦笑する。今なら裏口から出られると言われて、二人は部屋を出た。
初めて通る侍女たちの部屋のある廊下を抜け、ルイが昔着ていたサイズの小さくなった侍女のメイド服に着替えさせてもらう。動きやすく、またこれでぱっと見ではリリアだとばれないだろう。まだ誰も戻ってきていない廊下を抜けて、二人は難なく裏口までたどり着くことができた。
茂みに囲まれた屋敷の出入口は正面の一つっきりしかない。だが、茂み自体は、小さな子供なら屈んで屋敷の外にも出られそうに見える。
「もし行き先が決まってないのでしたら、わたくしの故郷、サンディエルをお訪ねください。旅人が多く行きかう町ですから、きっと逃げることもきっと容易です」
「ありがとう。ルイ、元気でね」
「リリアお嬢様こそどうかご無事で」
名残惜しそうに軽く抱きあい最後の別れを告げてから、リリアは歩き出す。幸い、見張りの兵士たちはしばらく前に通ったばかりで、不安要素はない。多少の無理は承知で、リリアは身をかがめて茂みの中へ体を押し込んだ。枝に引っかからないように気をつけながら進んでいく。茂みは見た目に反して内部にはしっかりと枝が張り巡らされており、まっすぐ進むことはできなかったが、十分もすれば無事茂みを抜け、屋敷をから逃げ出すことに成功する。
せっかく着替えたメイド服はあちこちがびりびりに破けていたが、それも仕方ない。名残惜しそうにボロボロになったメイド服を一瞬見てから、必要な代償だったとあっさりと気持ちを切り替える。
茂みからでてすぐ、屋敷から見えないところで少し休みながら、枝によって引き裂かれたメイド服のエプロン部分を破いていく。たちまちひざ丈のワンピース風になったが、ところどころにメイド服だった面影が残る。とはいえ、ひとまず形が整ったことに満足したリリアは、森へと足を踏み入れた。
目指すはサン・ランジェ港。
常に明かりにが灯されている場所で、屋敷のある山の上からでも遠目に見えた。今いるアネクシロア共和国から目的地のファフニール王国へ向かうには両国の境界線、大河を渡る必要がある。その灯りを目指して、リリアは山を下り始めた。見つからないよう、道なき道を進む。
長い夜になりそうだ。
夕食のお時間ですよと呆れた声のサシャに、リリアは驚いてからほんのわずか、どうして起こしてくれなかったのという不満そうな顔をした。それに気づいたのか、驚いたリリアに説明が必要だと思ったのか、サシャは朝はリリアが体調不良だと言って起きなかったと言い添える。
リリアの記憶にはなかったものの、毒を約一日摂取していないせいか空腹こそ感じるものの体は軽い。結果論とはいえ、良い方に動いたとリリアは結論付けてこのまま何とか食べずに済ませられないかと知恵を巡らせる。
「気分が良くなくて」
「では軽いものを用意いたします。食事にはおいでください」
「……わかったわ」
あがいてはみたもののサシャの一声で却下され、リリアはため息を隠してベッドを降りた。
立ち上がって、ふらついた様子で再びベッドに沈み込む。数呼吸分待ってから、もう一度起き上がる。心なしか顔色がよく、リリアは悟られないようさりげなく顔を伏せる。サシャはリリアが倒れこむのを見ていたはずだが、特に何も言うことなく、衣装ケースへと向かい、ドレスを取り出している。寝起きということもあり最低限の身だしなみを整えてもらい、リリアは部屋を出たのだった。
その後は、普段より幾分軽めの夕食を終えると、流石に体調不良のリリアを廊下に放置していくのははばかられたのか、今日に関してはサシャもリリアを部屋まで送り届けた。
リリアはベッドの中からサシャを見送り、足音が遠ざかったのを確認してベッドから抜け出す。屋敷中の人間が、夕食後のリリアは寝ていると知っていた。夜中には屋敷内は侍女たちが、屋敷の外は兵士たちが見張っている。人の出入りがまだあるうちのほうが怪しまれても安全。だからこそ、今が好機だとリリアは判断した。
持っている中で一番簡素な裾の短いドレスに着替え、カーテンを開く。部屋は2階だがシーツを使えば降りられないほどの高さではない。バルコニーに出て見張りの様子を確認する。
――トントン。
リリアは急いでベッドに戻り息を殺す。こんな時間に尋ねてくる心当たりはない。だがその疑問はすぐに解決する。
「リリアお嬢様」
「……ルイ?」
「お加減が良くないとお聞きしましたので」
人目を忍んで訪れてくれたのであろうルイを慌てて招き入れると、ルイは明らかに寝るのに適さないリリアの服装に目を丸くした。
カーテンは閉じたものの、隠す時間がなく床に置きっぱなしになった鞄とリリアの顔とを見比べる。
「これは一体……」
「お願い、見なかったことにして」
「では、わたくしもご一緒します」
まだ毒を盛られはじめた頃は、毎日のようにルイは逃げるようにと進言していたが、既に生きることを諦めていたリリアはそれを聞き入れずに、ずるずるとここまで来ていた。だが安堵した様子のルイを見て、リリアは首を横に振る。
「一緒には行けない。ルイには家族がいるでしょう」
「ですが!」
「今まで助けてくれてありがとう」
「……承知いたしました。せめて屋敷から出るところまではお供します。――窓から飛び降りられては困りますから」
わずかに開いているカーテンを指して、ルイは苦笑する。今なら裏口から出られると言われて、二人は部屋を出た。
初めて通る侍女たちの部屋のある廊下を抜け、ルイが昔着ていたサイズの小さくなった侍女のメイド服に着替えさせてもらう。動きやすく、またこれでぱっと見ではリリアだとばれないだろう。まだ誰も戻ってきていない廊下を抜けて、二人は難なく裏口までたどり着くことができた。
茂みに囲まれた屋敷の出入口は正面の一つっきりしかない。だが、茂み自体は、小さな子供なら屈んで屋敷の外にも出られそうに見える。
「もし行き先が決まってないのでしたら、わたくしの故郷、サンディエルをお訪ねください。旅人が多く行きかう町ですから、きっと逃げることもきっと容易です」
「ありがとう。ルイ、元気でね」
「リリアお嬢様こそどうかご無事で」
名残惜しそうに軽く抱きあい最後の別れを告げてから、リリアは歩き出す。幸い、見張りの兵士たちはしばらく前に通ったばかりで、不安要素はない。多少の無理は承知で、リリアは身をかがめて茂みの中へ体を押し込んだ。枝に引っかからないように気をつけながら進んでいく。茂みは見た目に反して内部にはしっかりと枝が張り巡らされており、まっすぐ進むことはできなかったが、十分もすれば無事茂みを抜け、屋敷をから逃げ出すことに成功する。
せっかく着替えたメイド服はあちこちがびりびりに破けていたが、それも仕方ない。名残惜しそうにボロボロになったメイド服を一瞬見てから、必要な代償だったとあっさりと気持ちを切り替える。
茂みからでてすぐ、屋敷から見えないところで少し休みながら、枝によって引き裂かれたメイド服のエプロン部分を破いていく。たちまちひざ丈のワンピース風になったが、ところどころにメイド服だった面影が残る。とはいえ、ひとまず形が整ったことに満足したリリアは、森へと足を踏み入れた。
目指すはサン・ランジェ港。
常に明かりにが灯されている場所で、屋敷のある山の上からでも遠目に見えた。今いるアネクシロア共和国から目的地のファフニール王国へ向かうには両国の境界線、大河を渡る必要がある。その灯りを目指して、リリアは山を下り始めた。見つからないよう、道なき道を進む。
長い夜になりそうだ。
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