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第0部-アネクシロア共和国-
002_決意
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真夜中、リリアはふと目を覚まし時刻を確認すると、ゆっくりと起き上がった。眩暈が落ち着いてからベッドを降りると、テーブルの読み終わった本を手に取って、誰もいない真っ暗な廊下へ出た。
部屋以外の生活すべてにおいて行動を監視されているリリアだが、こうして真夜中だけは、自由に部屋の外に行くことができた。とはいえ、体力がないことには変わりなく、少し歩いては座り込んで休憩してを繰り返し書庫へと向かう。暗闇しかない廊下も、慣れてしまえば案外不自由なく歩くことができた。
書庫につくと、備え付けられている蝋燭に火をつけて本を探す。まだ読んだことのない本を、背表紙に書かれているタイトルを読み探す。
「『川辺の野生植物』、『木の実の効用』、『葉と根-薬と毒-』それからあとは……」
いくつかの本を抜き出して腕へと重ねていく。食事に混ぜられている毒を摂取しているものの、リリアは心の底から屈しているわけではなかった。手に取った本はどれも毒について調べるためのもの。ぱらぱらとめくって内容を確かめてから、五冊ほど選ぶ。床に本を置いて一息つき、動悸が収まったのを確認してから廊下に出た。
まだ仕事が終わらないのか遠くからは話し声と足音が響いていて、リリアは人に会わないよう手近な部屋で休みながら自室を目指した。何度めかに隠れた部屋で人が通り過ぎるのを待っている間、暇つぶしがてら普段訪れないこの部屋はなんなのだろうとリリアは見渡していた。
荘厳な作りのテーブルに、暖炉の上には二振りの剣。どうやらスウィフト公爵の書斎らしい。壁には彼の絵画コレクションがずらりと並んでいた。リリアは興味津々で普段近づくことすら許されないテーブルに備え付けられた引き出しに手を伸ばす。何か見つかれば、滅多に言葉を交わすことのない父親の気持ちがわかるかもしれないという期待半分、どんな仕事をしているのだろうという興味も半分。
中に入っていた書類を順番に見ていくが、どれも領地の統治についての施策の資料や提案で、興味はそそられるものの、リリアの望むようなものはありそうにない。がっかりしてリリアが部屋に帰ろうと、引き出しを戻したとき奥のほうにある何かが引っ掛かり、もう一度開いて書類を片付けなおす。引っかかっていたのは崩れた資料の奥の奥に押し込まれた小さな袋。隠すように入ってた袋を開いてみると、中には真っ赤な石が付いた黒いチョーカー。
「レオ……」
大切な思い出がつまったリリアの宝物だった。リリアが幼少期を過ごしたファフニール王国で出会った友人からもらったとても大切なもの。何年も前、スウィフト公爵に取り上げられ、もう二度と戻ってこないと覚悟していたリリアだったが、予期せぬタイミングで手にした宝物に、目から涙が零れる。
リリアがレオと呼んでいた友人が、少し乱暴な口調で『お前がお前でいられるように』と言われてもらったチョーカー。諦めるなとそう怒られたようにさえ感じて、リリアは涙をぬぐって顔をあげる。
「――思い通りにはならない」
誰も助けてくれないのなら死んでもいいと思っていた気持ちはすっかりなくなっていた。今まで何もせず成り行きに身を任せて諦めていた。
だが、諦めるのはまだ早い。生きている。リリアの中で奥底に閉じ込められていた気持ちが動き出す。それと同時に、突然の別れとなってしまった友人にもう一度会いたい、そんな気持ちが湧き出てきて想いは留まることを知らなかった。
普段の生活に支障が出ている今となっては、今逃げるのが最後のチャンスだとリリアもわかっていた。それでも会いたい。まだ死にたくない。
リリアは廊下に出ると再び自室へ向かって歩き出す。その歩みは頼りないものの、しっかりと地面を踏みしめていた。
部屋に戻ってすぐ、リリアは物をまとめだす。だがすぐに荷物の少なさに自嘲した。この屋敷で過ごした10年はなんだったのか。私物と言えば先ほど取り返したばかりのチョーカーが一つっきり。あとは、逃げ出した後の資金にする宝飾と着替えのドレス。念のためと、ルイから受け取った解毒剤も入れたが、手で持てる小さめのバッグすら空きがあるほどの荷物だった。
形ばかりの荷物の準備を終えると、ベッドの下に念入りに押し込んで、再び寝るためにベッドに入る。普段動かすことのない体を動かしたせいで、疲れ切っていた。
朝の支度に備えて起きだした侍女たちの物音を聞きながら、リリアは再び眠る。
部屋以外の生活すべてにおいて行動を監視されているリリアだが、こうして真夜中だけは、自由に部屋の外に行くことができた。とはいえ、体力がないことには変わりなく、少し歩いては座り込んで休憩してを繰り返し書庫へと向かう。暗闇しかない廊下も、慣れてしまえば案外不自由なく歩くことができた。
書庫につくと、備え付けられている蝋燭に火をつけて本を探す。まだ読んだことのない本を、背表紙に書かれているタイトルを読み探す。
「『川辺の野生植物』、『木の実の効用』、『葉と根-薬と毒-』それからあとは……」
いくつかの本を抜き出して腕へと重ねていく。食事に混ぜられている毒を摂取しているものの、リリアは心の底から屈しているわけではなかった。手に取った本はどれも毒について調べるためのもの。ぱらぱらとめくって内容を確かめてから、五冊ほど選ぶ。床に本を置いて一息つき、動悸が収まったのを確認してから廊下に出た。
まだ仕事が終わらないのか遠くからは話し声と足音が響いていて、リリアは人に会わないよう手近な部屋で休みながら自室を目指した。何度めかに隠れた部屋で人が通り過ぎるのを待っている間、暇つぶしがてら普段訪れないこの部屋はなんなのだろうとリリアは見渡していた。
荘厳な作りのテーブルに、暖炉の上には二振りの剣。どうやらスウィフト公爵の書斎らしい。壁には彼の絵画コレクションがずらりと並んでいた。リリアは興味津々で普段近づくことすら許されないテーブルに備え付けられた引き出しに手を伸ばす。何か見つかれば、滅多に言葉を交わすことのない父親の気持ちがわかるかもしれないという期待半分、どんな仕事をしているのだろうという興味も半分。
中に入っていた書類を順番に見ていくが、どれも領地の統治についての施策の資料や提案で、興味はそそられるものの、リリアの望むようなものはありそうにない。がっかりしてリリアが部屋に帰ろうと、引き出しを戻したとき奥のほうにある何かが引っ掛かり、もう一度開いて書類を片付けなおす。引っかかっていたのは崩れた資料の奥の奥に押し込まれた小さな袋。隠すように入ってた袋を開いてみると、中には真っ赤な石が付いた黒いチョーカー。
「レオ……」
大切な思い出がつまったリリアの宝物だった。リリアが幼少期を過ごしたファフニール王国で出会った友人からもらったとても大切なもの。何年も前、スウィフト公爵に取り上げられ、もう二度と戻ってこないと覚悟していたリリアだったが、予期せぬタイミングで手にした宝物に、目から涙が零れる。
リリアがレオと呼んでいた友人が、少し乱暴な口調で『お前がお前でいられるように』と言われてもらったチョーカー。諦めるなとそう怒られたようにさえ感じて、リリアは涙をぬぐって顔をあげる。
「――思い通りにはならない」
誰も助けてくれないのなら死んでもいいと思っていた気持ちはすっかりなくなっていた。今まで何もせず成り行きに身を任せて諦めていた。
だが、諦めるのはまだ早い。生きている。リリアの中で奥底に閉じ込められていた気持ちが動き出す。それと同時に、突然の別れとなってしまった友人にもう一度会いたい、そんな気持ちが湧き出てきて想いは留まることを知らなかった。
普段の生活に支障が出ている今となっては、今逃げるのが最後のチャンスだとリリアもわかっていた。それでも会いたい。まだ死にたくない。
リリアは廊下に出ると再び自室へ向かって歩き出す。その歩みは頼りないものの、しっかりと地面を踏みしめていた。
部屋に戻ってすぐ、リリアは物をまとめだす。だがすぐに荷物の少なさに自嘲した。この屋敷で過ごした10年はなんだったのか。私物と言えば先ほど取り返したばかりのチョーカーが一つっきり。あとは、逃げ出した後の資金にする宝飾と着替えのドレス。念のためと、ルイから受け取った解毒剤も入れたが、手で持てる小さめのバッグすら空きがあるほどの荷物だった。
形ばかりの荷物の準備を終えると、ベッドの下に念入りに押し込んで、再び寝るためにベッドに入る。普段動かすことのない体を動かしたせいで、疲れ切っていた。
朝の支度に備えて起きだした侍女たちの物音を聞きながら、リリアは再び眠る。
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