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50話
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ルーカスとの手合わせをサファルから持ちかけられ、カジャックはもちろん構わない、と了承していた。リゼが来ないなら森の中であっても問題はなさそうだ。
当日、待ち合わせの場所にまたもや早めに着いたが、前回ルーカスたちと初めて会った時とは違い、フードも被らず穏やかな気分で待っていられた。ただ、サファルたちがやってくるのに気づくと少し微妙な気持ちになった。
気配には敏いため、向こうがまだ全然気づいてなくともカジャックはすぐに気づいていた。そしてサファルとルーカスの仲のよいやりとりに、ほんの少し穏やかな気持ちが揺れた。
もちろん彼らはお互い兄弟のように思い合った上で仲がいいのは知っている。仲良くするなとも思わない。むしろ、温かい家族のような彼らの関係はとても好きではある。ただそれとは別に、もやついてしまう。ああ、俺もちゃんと雄なんだなとカジャックは他人事のように思った。この感情は恐らく雄の本能だろう、と。
本能なら仕方がないが、出来ればあの二人に関しては心穏やかな気持ちでいたいものだなと思う。
「カジャック!」
サファルがカジャックに気づくと、ない尻尾をちぎれんばかりに振り倒すがごとく満面の笑みで駆けてきた。そんなサファルをカジャックは、好きだと思うようになった以前よりも更に可愛く思うし、ほんのり微妙だった気持ちも一気に吹き飛んだ。
ルーカスとの剣術稽古は楽しかった。ちなみにカジャックは短剣しか持っていなかったが、事前にサファルから聞いていたルーカスが用意してくれていた。
サファルが力一杯ルーカスの剣術を褒めていたのだが、それも納得する能力だとカジャックは思った。魔力もそこそこ強いようで、実際に戦う時は剣にその魔力を乗せたりもするらしい。だが今はそれはなしで、ひたすらお互い打ち合った。
体術なら俺も、とニコニコ言っていたサファルはいつの間にか夢の世界に旅立ったようだ。その様子に気づいてカジャックが苦笑していると、ルーカスが「俺たちも少し休憩するか」と言ってきた。
バスケットに入っていた、リゼが持たせてくれたという黒パンのサンドイッチを食べる。サファルを起こそうとも思ったが、あまりにも気持ちよさそうに眠っているため、二人は苦笑しながらとりあえずそっとしておくことにした。
「そういえばルーカス。俺とどうやって連絡を取ればいいかと言っていたそうだが」
「ああ、うん」
「この場所は魔物も恐らく基本的には来ないし万が一来ても雑魚だ。それなりに安全な場所だと思う。この大きな木の……」
一旦立ち上がるとカジャックは木に近づいた。そして樹洞を指し示す。
「この樹皮が剥がれ中に空洞が出来ているところ、あるだろう?」
「ああ」
「何か連絡がある場合はサファルを通してくれてもいいし、もしくはここに手紙なり入れてくれ。ここなら俺も定期的に来る」
「なるほど、分かったよ」
「面倒をかけてすまない」
「これくらい、面倒な訳あるか。了解した」
ははは、とルーカスは楽しげに笑う。カジャックもありがたく思いつつ戻ってきて、またパンを口にした。麦で出来た白パンと違い、ライ麦のパンは固くて下手をすれば美味くないのだが、これは固いながらも食べごたえのある美味しいサンドイッチだった。
「黒パンでも美味いな。リゼは本当に料理が上手なんだな」
「ああ、リゼは上手いぞ。ずっと小さな頃から頑張って作ってきてるからなぁ」
ルーカスの目が慈しむように光る。
「……お前がリゼと一緒になればサファルも安心なんじゃないのか?」
余計なお世話かもしれないが、とカジャックが言うとルーカスは少しポカンとした顔でカジャックを見てきた。
「どうした。整った顔が台無しだぞ」
「いや、びっくりするようなことを言われて……」
「何故? わりと自然なことだと俺は思うが」
「ずっと小さな頃から知っていて妹のように思っている子だから、かな」
「妹のように、であって妹だとは思っていないんだろう? お前自身、無意識にそこは理解しているようだが。……それにお前がリゼと一緒になればサファルもきっとホッとすると思うぞ。妹が大切過ぎてなまじその辺の男だと安心してリゼをやれないって前に言っていた。そんなサファルもルーカス、お前のことはとても信頼している」
我ながら珍しくよく喋るなとは思うが、今は口にするべきという気がしていた。
「……サファルにしてみたら俺は兄みたいに思ってるだろうし、兄が妹を、っていうのは……」
「サファルがそんな風に考えるとお前は思うのか?」
「いえ……、あ、いや……」
なんとなくルーカスが動揺しているように見える。
「俺は余計なことを言ってしまったのだろうか」
サファル以外の人と触れ合うことがないくせについ、と反省しているとルーカスが「とんでもない」と首を振ってきた。
「ありがとう、カジャック」
「何の礼だ?」
「サファルだけでなく俺やリゼのことも気にかけてくれて」
「礼を言われる筋合いはないが、それを言うならお前らも俺のことを気にかけてくれているように思う。ありがとう」
「はは。……あー、心配と言えば……」
ふと、思い出したようにルーカスが少し困惑した顔で話してきた。
当日、待ち合わせの場所にまたもや早めに着いたが、前回ルーカスたちと初めて会った時とは違い、フードも被らず穏やかな気分で待っていられた。ただ、サファルたちがやってくるのに気づくと少し微妙な気持ちになった。
気配には敏いため、向こうがまだ全然気づいてなくともカジャックはすぐに気づいていた。そしてサファルとルーカスの仲のよいやりとりに、ほんの少し穏やかな気持ちが揺れた。
もちろん彼らはお互い兄弟のように思い合った上で仲がいいのは知っている。仲良くするなとも思わない。むしろ、温かい家族のような彼らの関係はとても好きではある。ただそれとは別に、もやついてしまう。ああ、俺もちゃんと雄なんだなとカジャックは他人事のように思った。この感情は恐らく雄の本能だろう、と。
本能なら仕方がないが、出来ればあの二人に関しては心穏やかな気持ちでいたいものだなと思う。
「カジャック!」
サファルがカジャックに気づくと、ない尻尾をちぎれんばかりに振り倒すがごとく満面の笑みで駆けてきた。そんなサファルをカジャックは、好きだと思うようになった以前よりも更に可愛く思うし、ほんのり微妙だった気持ちも一気に吹き飛んだ。
ルーカスとの剣術稽古は楽しかった。ちなみにカジャックは短剣しか持っていなかったが、事前にサファルから聞いていたルーカスが用意してくれていた。
サファルが力一杯ルーカスの剣術を褒めていたのだが、それも納得する能力だとカジャックは思った。魔力もそこそこ強いようで、実際に戦う時は剣にその魔力を乗せたりもするらしい。だが今はそれはなしで、ひたすらお互い打ち合った。
体術なら俺も、とニコニコ言っていたサファルはいつの間にか夢の世界に旅立ったようだ。その様子に気づいてカジャックが苦笑していると、ルーカスが「俺たちも少し休憩するか」と言ってきた。
バスケットに入っていた、リゼが持たせてくれたという黒パンのサンドイッチを食べる。サファルを起こそうとも思ったが、あまりにも気持ちよさそうに眠っているため、二人は苦笑しながらとりあえずそっとしておくことにした。
「そういえばルーカス。俺とどうやって連絡を取ればいいかと言っていたそうだが」
「ああ、うん」
「この場所は魔物も恐らく基本的には来ないし万が一来ても雑魚だ。それなりに安全な場所だと思う。この大きな木の……」
一旦立ち上がるとカジャックは木に近づいた。そして樹洞を指し示す。
「この樹皮が剥がれ中に空洞が出来ているところ、あるだろう?」
「ああ」
「何か連絡がある場合はサファルを通してくれてもいいし、もしくはここに手紙なり入れてくれ。ここなら俺も定期的に来る」
「なるほど、分かったよ」
「面倒をかけてすまない」
「これくらい、面倒な訳あるか。了解した」
ははは、とルーカスは楽しげに笑う。カジャックもありがたく思いつつ戻ってきて、またパンを口にした。麦で出来た白パンと違い、ライ麦のパンは固くて下手をすれば美味くないのだが、これは固いながらも食べごたえのある美味しいサンドイッチだった。
「黒パンでも美味いな。リゼは本当に料理が上手なんだな」
「ああ、リゼは上手いぞ。ずっと小さな頃から頑張って作ってきてるからなぁ」
ルーカスの目が慈しむように光る。
「……お前がリゼと一緒になればサファルも安心なんじゃないのか?」
余計なお世話かもしれないが、とカジャックが言うとルーカスは少しポカンとした顔でカジャックを見てきた。
「どうした。整った顔が台無しだぞ」
「いや、びっくりするようなことを言われて……」
「何故? わりと自然なことだと俺は思うが」
「ずっと小さな頃から知っていて妹のように思っている子だから、かな」
「妹のように、であって妹だとは思っていないんだろう? お前自身、無意識にそこは理解しているようだが。……それにお前がリゼと一緒になればサファルもきっとホッとすると思うぞ。妹が大切過ぎてなまじその辺の男だと安心してリゼをやれないって前に言っていた。そんなサファルもルーカス、お前のことはとても信頼している」
我ながら珍しくよく喋るなとは思うが、今は口にするべきという気がしていた。
「……サファルにしてみたら俺は兄みたいに思ってるだろうし、兄が妹を、っていうのは……」
「サファルがそんな風に考えるとお前は思うのか?」
「いえ……、あ、いや……」
なんとなくルーカスが動揺しているように見える。
「俺は余計なことを言ってしまったのだろうか」
サファル以外の人と触れ合うことがないくせについ、と反省しているとルーカスが「とんでもない」と首を振ってきた。
「ありがとう、カジャック」
「何の礼だ?」
「サファルだけでなく俺やリゼのことも気にかけてくれて」
「礼を言われる筋合いはないが、それを言うならお前らも俺のことを気にかけてくれているように思う。ありがとう」
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ふと、思い出したようにルーカスが少し困惑した顔で話してきた。
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