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77話
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ある日いつものように、カジャックの家で仕事を手伝いながら他愛ない話をしていると「まさかもう一緒に住んでいるのか」といきなり声が聞こえてきた。その声に聞き覚えしかないサファルは少々顔を青ざめながらも辺りを警戒した。
「警戒しなくとも私だ」
やはりアルゴに間違いなかった。いつものように突然姿を現した美形のエルフに「あんただから警戒したんだよ」とサファルは心の中だけで言い返す。
「いきなり現れるのはやめろ。こんな家でも出入口はあるんだ、そこから入ってこい」
そしてカジャックがため息を吐きながら言う様子に「さすがカジャック」と熱い気持ちやときめきを抑えてそっと思う。
「何故だ。私は昔からこうだろうが」
「俺一人なら構わないが、サファルが驚くだろう」
「カジャック……」
好き、という言葉をサファルは賢明にも飲み込む。
「は。そこのやたら逆上せた顔と表情をした男のためか」
抑えたり飲み込んだはずが、今の言葉で先ほどからひたすら堪えていたはずの感情はどうやらバレバレだったようだとサファルは気づいて微妙な気持ちになった。
「そうだな。言い方は気にくわないが」
「ふん。で? 一緒に住んでいるのか?」
「住んでいない」
「何故だ。好きあっているのだろう?」
「別に一緒に住まなくとも好きは好きだろ」
「何を言っている? 好きならば片時もそばを離れたくないものだろうが」
このやたら偉そうな美形エルフの言葉に、ついサファルはポカンとした。アルゴの言葉とは思えない。いや、別にアルゴを知り尽くしているどころかほぼ知らないが、まさかこんな乙女的なことを言うとは思いもよらなかった。気持ちは分かるが、アルゴが言うとそれなりの破壊力がある。
「なんだ、サファル。そのような頭の悪そうな顔をして」
「……いえ……あの、アルゴさんって、結構ロマンチストというか……」
「何?」
「アルゴさんは好きなら片時もそばを離れたくないんですね」
少し可愛いかもと、口元を綻ばせて言えば「私のことではないわ!」とサファルは睨まれた。慌ててカジャックの後ろへ避難すると、カジャックの肩が少し震えている。
「ロマンチストなアルゴ、か……」
「お前までやめろ、カジャック」
「で、今日は何の用なんだ、アルゴ」
「何の用、だと? 我が子同然のお前に意味もなく会いに来てはならぬと言うのか」
「……そうは言ってない」
「あ、そうだ! あの! そういえばアルゴさんって、アクセサリーを作られます?」
今までカジャックの背後から様子を伺っていたサファルは、ハッとなってまた前へ出ていた。
「別に作らん」
「あー……、そうなんですか……。エルフって魔力を込めたアクセサリーをたまに作るって聞いたことあったんですが……」
「全員が全員ではないし、少なくとも人間ごときのために作るのではない」
「……ですよね」
商売で頼まれていたこともあり、アルゴを見ていると思い浮かんだのだが、確かにアルゴは作らなさそうだとサファルはがっかりした。
「……な、んだその顔……いや、何でもない。人間ごときのためには作らんが、カジャックの嫁なら仕方ない、作ってやらんこともないが?」
「え?」
嫁、とはと思いつつ、今のアルゴが口にした言葉にサファルは首を傾げる。
あのアルゴが譲歩してくれている?
微妙に驚いていると、カジャックの肩がまた少し震えるのが分かった。ただ、今の話に笑いたくなる要素があったようには、サファルとしては思えない。
嫁か?
嫁、で笑っているのか?
だがそんなカジャックに対してムッとした顔をするアルゴを見て「嫁」で笑ったのではないように思える。
「いるのか。いらんのか」
「あ、え、えっと! 欲しい、んですがでもそれは俺が欲しいってより、欲しいお客さんがいるので仕事として欲しいと言います、か……なのである意味人間ごときのために作って欲しい、的な……」
恐る恐る言えばアルゴに舌打ちされた。嘘もさらりと吐ける人間になりたい、とサファルはそっと思う。
「他の人間のために作る気はない。もしくはお前が性別を変えるのなら考えんでもない」
「それほんと無理ですから……! っていうか例え俺が一大決心して女になっても、やるんじゃなくて考えるなんですかっ?」
「ふん。なら自分で作ることだな」
「えぇー……。アクセサリー自体を作るのは大丈夫ですけど、俺は魔力が全くないので込められません……」
「は。魔力がない? 馬鹿を言うな。お前は──」
アルゴは何かを言いかけたところでふと、突然黙ってきた。怪訝に思ってサファルがアルゴを見るも、どこか唖然としたような顔をしている。
「アルゴ……どうした」
カジャックも怪訝に思ったのか、様子を伺うようにアルゴを見ている。
「……」
「アルゴ?」
「……」
「アルゴさん?」
カジャックに倣ってサファルも呼び掛ける。少ししてようやくアルゴが二人に視線を合わせてきた。
「……サファル」
「え? は、はい」
「お前の村はラーザだったか」
「そうです、けど……」
いつもの偉そうでいて達観したような様子とはどこか違うアルゴに、サファルは戸惑いながら頷いた。
「……。……いいか、落ち着いて聞け。今、大量の魔物がラーザ方面へ流れようとしている」
「……、……え?」
「原因はまだよく……いや、……ドラゴン? まさか、何故竜が……」
「アルゴ、一体……」
アルゴの様子や言葉が飲み込めなくて唖然としているサファルに代わって、カジャックがアルゴに聞き返していた。
「警戒しなくとも私だ」
やはりアルゴに間違いなかった。いつものように突然姿を現した美形のエルフに「あんただから警戒したんだよ」とサファルは心の中だけで言い返す。
「いきなり現れるのはやめろ。こんな家でも出入口はあるんだ、そこから入ってこい」
そしてカジャックがため息を吐きながら言う様子に「さすがカジャック」と熱い気持ちやときめきを抑えてそっと思う。
「何故だ。私は昔からこうだろうが」
「俺一人なら構わないが、サファルが驚くだろう」
「カジャック……」
好き、という言葉をサファルは賢明にも飲み込む。
「は。そこのやたら逆上せた顔と表情をした男のためか」
抑えたり飲み込んだはずが、今の言葉で先ほどからひたすら堪えていたはずの感情はどうやらバレバレだったようだとサファルは気づいて微妙な気持ちになった。
「そうだな。言い方は気にくわないが」
「ふん。で? 一緒に住んでいるのか?」
「住んでいない」
「何故だ。好きあっているのだろう?」
「別に一緒に住まなくとも好きは好きだろ」
「何を言っている? 好きならば片時もそばを離れたくないものだろうが」
このやたら偉そうな美形エルフの言葉に、ついサファルはポカンとした。アルゴの言葉とは思えない。いや、別にアルゴを知り尽くしているどころかほぼ知らないが、まさかこんな乙女的なことを言うとは思いもよらなかった。気持ちは分かるが、アルゴが言うとそれなりの破壊力がある。
「なんだ、サファル。そのような頭の悪そうな顔をして」
「……いえ……あの、アルゴさんって、結構ロマンチストというか……」
「何?」
「アルゴさんは好きなら片時もそばを離れたくないんですね」
少し可愛いかもと、口元を綻ばせて言えば「私のことではないわ!」とサファルは睨まれた。慌ててカジャックの後ろへ避難すると、カジャックの肩が少し震えている。
「ロマンチストなアルゴ、か……」
「お前までやめろ、カジャック」
「で、今日は何の用なんだ、アルゴ」
「何の用、だと? 我が子同然のお前に意味もなく会いに来てはならぬと言うのか」
「……そうは言ってない」
「あ、そうだ! あの! そういえばアルゴさんって、アクセサリーを作られます?」
今までカジャックの背後から様子を伺っていたサファルは、ハッとなってまた前へ出ていた。
「別に作らん」
「あー……、そうなんですか……。エルフって魔力を込めたアクセサリーをたまに作るって聞いたことあったんですが……」
「全員が全員ではないし、少なくとも人間ごときのために作るのではない」
「……ですよね」
商売で頼まれていたこともあり、アルゴを見ていると思い浮かんだのだが、確かにアルゴは作らなさそうだとサファルはがっかりした。
「……な、んだその顔……いや、何でもない。人間ごときのためには作らんが、カジャックの嫁なら仕方ない、作ってやらんこともないが?」
「え?」
嫁、とはと思いつつ、今のアルゴが口にした言葉にサファルは首を傾げる。
あのアルゴが譲歩してくれている?
微妙に驚いていると、カジャックの肩がまた少し震えるのが分かった。ただ、今の話に笑いたくなる要素があったようには、サファルとしては思えない。
嫁か?
嫁、で笑っているのか?
だがそんなカジャックに対してムッとした顔をするアルゴを見て「嫁」で笑ったのではないように思える。
「いるのか。いらんのか」
「あ、え、えっと! 欲しい、んですがでもそれは俺が欲しいってより、欲しいお客さんがいるので仕事として欲しいと言います、か……なのである意味人間ごときのために作って欲しい、的な……」
恐る恐る言えばアルゴに舌打ちされた。嘘もさらりと吐ける人間になりたい、とサファルはそっと思う。
「他の人間のために作る気はない。もしくはお前が性別を変えるのなら考えんでもない」
「それほんと無理ですから……! っていうか例え俺が一大決心して女になっても、やるんじゃなくて考えるなんですかっ?」
「ふん。なら自分で作ることだな」
「えぇー……。アクセサリー自体を作るのは大丈夫ですけど、俺は魔力が全くないので込められません……」
「は。魔力がない? 馬鹿を言うな。お前は──」
アルゴは何かを言いかけたところでふと、突然黙ってきた。怪訝に思ってサファルがアルゴを見るも、どこか唖然としたような顔をしている。
「アルゴ……どうした」
カジャックも怪訝に思ったのか、様子を伺うようにアルゴを見ている。
「……」
「アルゴ?」
「……」
「アルゴさん?」
カジャックに倣ってサファルも呼び掛ける。少ししてようやくアルゴが二人に視線を合わせてきた。
「……サファル」
「え? は、はい」
「お前の村はラーザだったか」
「そうです、けど……」
いつもの偉そうでいて達観したような様子とはどこか違うアルゴに、サファルは戸惑いながら頷いた。
「……。……いいか、落ち着いて聞け。今、大量の魔物がラーザ方面へ流れようとしている」
「……、……え?」
「原因はまだよく……いや、……ドラゴン? まさか、何故竜が……」
「アルゴ、一体……」
アルゴの様子や言葉が飲み込めなくて唖然としているサファルに代わって、カジャックがアルゴに聞き返していた。
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