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76話
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リゼの話を聞いてからも、既に何度かクラフォンの町へカジャックは同行していた。同行する元となった竜の噂は、カジャックも一度だけは耳にした。だがその程度であり、特に変わった様子はない。
カジャック自体は、建物の中へ入る時以外はフードをいつも被ったままではあるが、それでもずいぶん慣れてはきたように思う。
サファルが言うように、ここは色んな人間がいるからか、たまたまカジャックの顔を見ても怯える人は少ない。人が周りにたくさんいるというのもあるのかもしれない。カジャックにとっては人が多いのは落ち着かないだけだが、基本的には安心するのだろう。あとは皆がそうではないが裏のある者ほど、後ろめたいことがあるからか人混みの中でもカジャックの目付きに動揺する率が高めかもしれない。
「確かにそうかもしれないですね」
今日も無事商売を終え、いつもの酒場で食事をしている時にサファルが頷いてきた。
「そういうものなのだろうか」
カジャックは小さな頃を思い出してみる。あの頃の大人は確かに、幼児であるカジャックに対して毛嫌いをするというある意味後ろめたさがあったかもしれない。だがカジャックと同じ子どもたちからも顔を怖がられていたからよく分からない。
「うーん。町でもいきなり二人きりとかで対面したらつい構えちゃうかもだけど……あ、俺の村とかはやっぱり小さな集落ですから見慣れない人ってだけでも目立ちますし、目付きが怖いと尚更、結構警戒しちゃうかもです」
「……そうか」
さすがに見知らぬ一般人と二人きりで対面することはないだろうが、それでもやはりフードは被ったままがよさそうだし、サファルのラーザ村へは絶対立ち寄らないようにしよう。
カジャックが改めてそう心に誓っていると、サファルは慌てて続けてきた。
「……で、でもカジャックなら皆、すぐに慣れてむしろモテモテになってしまいます」
「何だそれは……無理に取り繕わなくても」
苦笑していると「ほんとですって!」とムキになられた。
「カジャックは確かに目付きはきついけど、イケメンの男前なんですから……その、もし言い寄られても……あの、浮気しないでください、ね」
サファルは顔を赤らめながら言いにくそうに言ってきた。普段から素直に気持ちを言葉にするサファルではあるが、カジャックとの関係に関しては何故かほんのり懐疑的なところがある。なので二人の関係を肯定した上での言葉であろう「浮気」という表現をしてくることは珍しく思えた。まさか酔っているのだろうかとカジャックはサファルを見るも、いつものように酒には相当強そうな様子だ。
「な、何で黙ってるんです」
視線に気づいたサファルは困惑したように顔を逸らしてきた。もしかすると結構勇気を出しての言葉なのかもしれない。
「浮気なんてしない。お前だけだしお前しか見えてない」
やはり「愛してる」といった言葉はカジャックにとってどうにも気恥ずかしくて使えないが、今の無骨であろう返答でも問題はなかったようだ。サファルはこれ以上ないくらい真っ赤になっていた。
「こんなとこで二人の世界作ってんじゃねーよ」
酒場の店主が微妙な顔で近づいてくる。いつもサファルはカウンター席を選んでいた。一人ならまだしも、カジャックと一緒でもカウンターを選ぶのは、少しでも他の人間から離れるためだろうとカジャックは思っている。ありがたいし、カジャックからすればサファルこそさりげない気配りなどが男前だ。
「ど、どこで作ったっていいだろ」
「部屋で絡み合う時にすりゃあいいだろが」
「かっ、から」
「だいたいどうせ一つのベッドしか使わないだろうに何でツインがいいんだよ」
「マリ、ちょっと黙って」
顔を手で覆いながらサファルが絞り出すように言っている。人が苦手であるカジャックも子どもではないので店主が何を言っているのかくらい分かったが黙っていた。
だが、サファルもここでさらりとかわせるようだったなら店主にしても他の知り合いにしてもあまりからかってこないだろうし、こちらとしても手が出しやすいだろうにと内心苦笑する。サファルの体術には驚かされたが、相変わらずどこか危なっかしいことには変わらない。そこが可愛いし楽しくもあるが、あまり他の人間には見せたくない。今は相手が店主のマリだからカジャックも黙っているが、これが他の見知らぬ男だったならサファルを可愛が──からかうのが許せなくて横やりを入れてしまいそうだ。
「というか、何か用なのか」
「情報が知りたい時はそっちからすり寄ってくるくせに、勝手なやつ」
「すり寄ってないし!」
「ベンヤミンたちが商品仕入れや取引の情報といったやり取りをあそこのテーブルでやってる。これから本格的に冬に入ってくしな。お前も加わってきたらどうだ」
「ほんと? ありがとうマリ。あ、っと……カジャック」
「構わない。行ってくるといい。俺はここでゆっくり食事をしながら待とう」
「うん、ありがとうございます、カジャック!」
サファルは満面の笑みを浮かべると、言われたテーブルへ向かって行った。見ていると、何やら言葉を何人かと交わした後、元々そこにいたかのように席について溶け込んでいる。
「あいつぁ、ほんと明るいやつだと思うよ。誰とでもすぐに親しくなれるしな」
店主が苦笑しながら言っている。カジャックはただ頷いた。
「でもあれでも結構苦労してきてんだよな、あれでも」
あれでも、と二回繰り返してはきたが、今の表情は至って真面目そうだ。それにサファルは店主に体術を教わったと言っていた。恐らく何かがあって、そういう経緯になったのだろう。そういった流れは人との接触がほぼなかったカジャックにも何となく想像はつく。
「ああ」
カジャックはまた頷いた。
「あんたとはどういう繋がりかは知らんし詮索はしねえけどな、大切にしてやってくれ」
「もちろんだ」
既にサファルからはとても大事に思われている。それに返すのではないが、それ以上大切にしたいとカジャックは思っていた。
カジャック自体は、建物の中へ入る時以外はフードをいつも被ったままではあるが、それでもずいぶん慣れてはきたように思う。
サファルが言うように、ここは色んな人間がいるからか、たまたまカジャックの顔を見ても怯える人は少ない。人が周りにたくさんいるというのもあるのかもしれない。カジャックにとっては人が多いのは落ち着かないだけだが、基本的には安心するのだろう。あとは皆がそうではないが裏のある者ほど、後ろめたいことがあるからか人混みの中でもカジャックの目付きに動揺する率が高めかもしれない。
「確かにそうかもしれないですね」
今日も無事商売を終え、いつもの酒場で食事をしている時にサファルが頷いてきた。
「そういうものなのだろうか」
カジャックは小さな頃を思い出してみる。あの頃の大人は確かに、幼児であるカジャックに対して毛嫌いをするというある意味後ろめたさがあったかもしれない。だがカジャックと同じ子どもたちからも顔を怖がられていたからよく分からない。
「うーん。町でもいきなり二人きりとかで対面したらつい構えちゃうかもだけど……あ、俺の村とかはやっぱり小さな集落ですから見慣れない人ってだけでも目立ちますし、目付きが怖いと尚更、結構警戒しちゃうかもです」
「……そうか」
さすがに見知らぬ一般人と二人きりで対面することはないだろうが、それでもやはりフードは被ったままがよさそうだし、サファルのラーザ村へは絶対立ち寄らないようにしよう。
カジャックが改めてそう心に誓っていると、サファルは慌てて続けてきた。
「……で、でもカジャックなら皆、すぐに慣れてむしろモテモテになってしまいます」
「何だそれは……無理に取り繕わなくても」
苦笑していると「ほんとですって!」とムキになられた。
「カジャックは確かに目付きはきついけど、イケメンの男前なんですから……その、もし言い寄られても……あの、浮気しないでください、ね」
サファルは顔を赤らめながら言いにくそうに言ってきた。普段から素直に気持ちを言葉にするサファルではあるが、カジャックとの関係に関しては何故かほんのり懐疑的なところがある。なので二人の関係を肯定した上での言葉であろう「浮気」という表現をしてくることは珍しく思えた。まさか酔っているのだろうかとカジャックはサファルを見るも、いつものように酒には相当強そうな様子だ。
「な、何で黙ってるんです」
視線に気づいたサファルは困惑したように顔を逸らしてきた。もしかすると結構勇気を出しての言葉なのかもしれない。
「浮気なんてしない。お前だけだしお前しか見えてない」
やはり「愛してる」といった言葉はカジャックにとってどうにも気恥ずかしくて使えないが、今の無骨であろう返答でも問題はなかったようだ。サファルはこれ以上ないくらい真っ赤になっていた。
「こんなとこで二人の世界作ってんじゃねーよ」
酒場の店主が微妙な顔で近づいてくる。いつもサファルはカウンター席を選んでいた。一人ならまだしも、カジャックと一緒でもカウンターを選ぶのは、少しでも他の人間から離れるためだろうとカジャックは思っている。ありがたいし、カジャックからすればサファルこそさりげない気配りなどが男前だ。
「ど、どこで作ったっていいだろ」
「部屋で絡み合う時にすりゃあいいだろが」
「かっ、から」
「だいたいどうせ一つのベッドしか使わないだろうに何でツインがいいんだよ」
「マリ、ちょっと黙って」
顔を手で覆いながらサファルが絞り出すように言っている。人が苦手であるカジャックも子どもではないので店主が何を言っているのかくらい分かったが黙っていた。
だが、サファルもここでさらりとかわせるようだったなら店主にしても他の知り合いにしてもあまりからかってこないだろうし、こちらとしても手が出しやすいだろうにと内心苦笑する。サファルの体術には驚かされたが、相変わらずどこか危なっかしいことには変わらない。そこが可愛いし楽しくもあるが、あまり他の人間には見せたくない。今は相手が店主のマリだからカジャックも黙っているが、これが他の見知らぬ男だったならサファルを可愛が──からかうのが許せなくて横やりを入れてしまいそうだ。
「というか、何か用なのか」
「情報が知りたい時はそっちからすり寄ってくるくせに、勝手なやつ」
「すり寄ってないし!」
「ベンヤミンたちが商品仕入れや取引の情報といったやり取りをあそこのテーブルでやってる。これから本格的に冬に入ってくしな。お前も加わってきたらどうだ」
「ほんと? ありがとうマリ。あ、っと……カジャック」
「構わない。行ってくるといい。俺はここでゆっくり食事をしながら待とう」
「うん、ありがとうございます、カジャック!」
サファルは満面の笑みを浮かべると、言われたテーブルへ向かって行った。見ていると、何やら言葉を何人かと交わした後、元々そこにいたかのように席について溶け込んでいる。
「あいつぁ、ほんと明るいやつだと思うよ。誰とでもすぐに親しくなれるしな」
店主が苦笑しながら言っている。カジャックはただ頷いた。
「でもあれでも結構苦労してきてんだよな、あれでも」
あれでも、と二回繰り返してはきたが、今の表情は至って真面目そうだ。それにサファルは店主に体術を教わったと言っていた。恐らく何かがあって、そういう経緯になったのだろう。そういった流れは人との接触がほぼなかったカジャックにも何となく想像はつく。
「ああ」
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「あんたとはどういう繋がりかは知らんし詮索はしねえけどな、大切にしてやってくれ」
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