銀色の魔物

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78話

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 カジャックはあまりに強い魔力のせいで村からも親からも捨てられた。だがそれでも色んな魔法を使いこなせはしない。せいぜい基本的なエレメント系の魔法が主だ。ただ、その一つ一つの能力の高さが一般的な人間と比ではないというだけだし、その中でも水魔法などはどちらかというと苦手なほうだ。特殊属性である光や闇といった魔法も使えない。それを思うと以前にサファルが驚いていたことも分からないでもない。
 カジャックの属性は火だが、他のエレメント系魔法も使える。雷も多少は使える。特殊属性ではないから普通だと思っていたが、カジャックが光や闇魔法を使えない感覚で、基本的に皆は属性以外の魔法は使えないとサファルは言っていたのかもしれない。
 そんなカジャックもアルゴに比べたら高が知れている。
 アルゴはエルフだ。人間とは比べ物にならないくらい、魔力は強い。そして知能も高い。知能に関しては、普段のアルゴを見ていたらとてもそうは思いにくいが、いざとなると知識幅のレベルが違う。それもあって尚更、様々な魔法を使いこなすのだろう。
 今もそうだ。
 突然黙り出したかと思うと、今度はまるでここにいない誰かに耳を傾けているかのような様子を見せながら、カジャックやサファルに話してくる。

「カジャック……アルゴさんは一体何を……」
「多分、アルゴは仲間とテレパシーで話している」
「え? てれ……?」

 以前も見たことがある。使えない者からすれば全く意味の分からない魔法だが、アルゴ曰く、これは魔法ですらないらしい。
 五感を使わないだけで普通のやり取りと大して変わらないと言うのだが、普通はその五感を使わないとやり取りなど出来ないのではとカジャックは思う。
 ただ、今はそれどころではない。とんでもないことがどうやら起きている。サファルも現状を把握しきれていないままではあるが、アルゴの言っていた事柄に顔を青ざめている。
 村のことを聞いたとたんに、詳しい話も聞かずに走り出してしまいそうなイメージのあるサファルだが、実際は案外冷静でしっかりしている。今もすぐにでも走り出したい気持ちを抑えながらなのだろう、じっとアルゴを伺っているようだった。
 少しして一体交信を止めたのか、アルゴがカジャックとサファルを改めてじっと見てきた。

「アルゴ?」
「……ここからかなり北のほうにいた竜が暴れている。最近突然ではあるが、何度かそういった騒ぎはあった。だがあくまでも高い山の奥での話だ」

 サファルから聞いていた話が頭に浮かんだ。サファルも同様だろう。少しハッとしたような顔をしている。
 騒ぎを放置していたのではなく、国の中枢やエルフたちも様子はずっと伺っていたらしい。竜だけに下手に手は出せない。おまけに神を祭っている場所を守るかのように住まっていた竜なのだという。
 今までは発作のように暴れたかと思えば静かになっていた。とはいえいつまた暴れ出すか分からないため、誰も近づくことはなかった。神を祭っているとはいえ、神事は基本的に執り行われていないところなので近づけなくとも特に問題もなかった。よって、とりあえず様子をひたすら伺っていたのだという。

「私は例え神の場を壊す羽目になってでも確認すべきだと言っていたのだ。見ろ……このようなことになったではないか……」

 その竜がまた突然暴れ出したのだが、今回はすぐにおさまることはなかった。そのままどんどん酷く暴れ出し、あろうことかその場を離れ、山すら下りてきたのだという。
 その影響で魔物までもが逃げ出したり暴れ出したりし始めたらしく、その一部とはいえ、かなりの数の魔物が今、ラーザの村方面へなだれ込もうとしているらしいとアルゴは話してきた。

「……状況は分かりました……。俺、村へ戻ります」
「待て、サファル。お前が戻っても何か出来る訳じゃ……」

 カジャックが慌てて止めようとすると、泣きそうな顔をしながらサファルは大きく首を振ってきた。

「リゼがいるんです……! 俺はリゼを守りたい、そばにいたい……何が出来るとか、そんなの分かりません。馬鹿だと言われても、でも俺は」

 そして走り出した。

「待て……! 俺が行く……!」
「カジャック……? お前、人前に……」

 アルゴが驚いたように、サファルの後を追おうとしているカジャックを見てきた。

「そんなことは今どうでもいい!」
「……。サファルだけでなくカジャックまでも馬鹿な人間のようではないか……全く」

 ため息を吐くと、アルゴは既に飛び出していたサファルの方向へ手をかざした。そしてカジャックを見てくる。

「私がお前たちを村まで運んでやろう」
「アル──」

 カジャックが名前を言葉にするよりも早く、気づけば目の前に集落のある木々の中だった。アルゴだけでなくサファルもいる。
 村へ一刻も早く戻ろうと走っているところだったからだろう。サファルは魂を抜かれたようにポカンとした顔をしていた。

「……、……ラーザだ……!」

 だが目の前の集落にようやく思考が追い付くと、また走り出した。

「待て、サファル……!」

 カジャックもつい後を追う。人が怖いだの村へ行きたくないだの、今はどうでもよかった。ただサファルを危険な目に合わせたくなかった。
 体術が使えようが、それでは一般的な人間を倒すことは出来ても魔物どころか訓練された騎士すら倒せないだろう。そして獣を弓で射ることは出来ても、過去の失われた記憶の欠片があるのだろうか、魔物を目の当たりにして弓が射れないなら当然、倒すことなど不可能だ。

「サファル……!」

 サファルを何があっても傷つけたくはなかった。
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