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伯爵令嬢レイシアの護衛騎士を務め、祖国では近衛騎士だった男ウィグは、隣で魘される新妻の身体を抱きしめた。
「レイシア」
名を呼び、背中を撫でてやると次第に落ち着いていく。
国を離れた今でも、魘されることがある。
この国の王族には希に『血清』という能力を持つ者が生まれる。
レイシアがそれだった。
血清は万病の薬と呼ばれ、一滴口にすれば立ちどころに病を直したと伝わっている。
ウィグはその力で過去にレイシアに命を助けてもらったことがあった。
それ故、彼女に救われた命は彼女の為に使うと決めた。
『血清』は誰もが手中に収めたいと願う能力であり、身の安全のために彼女の父親である国王が隣国の縁者に娘を預けた。
ウィグはレイシアの護衛として隣国に付いて行った。
しかし、レイシアが些細な怪我をした際に訪れた診療所にて珍しい血の型だと報告された為、隣国の王族の目に止まり、レイシアは王都に連れて行かれることになった。
ウィグが祖国に急ぎ報告をしている間に、王太子と婚約までされてしまい、救い出すことが困難となってしまった。
祖国もまだごたついていたせいで、ウィグが単身でレイシアが連れて行かれた王宮に潜入するしかなかった。
伯爵の協力を得て身分を偽り、騎士団に潜り込むと、人目を避けてレイシアに接触した。
レイシアが連れ去られてから、ウィグが王宮に入り込めるまで二年かかった。
その間にレイシアの見た目は変貌していた。
血色は悪く、フラつきもあり健康体だったはずの彼女は見る影もなく、死人のようであった。
腕には無数の針の跡。
数滴で回復する『血清』をこの国は搾取し続け、王子に与え続けた。
少量では良薬でも大量になれば害になる。
王子の持病が回復したことに気づかず、医師たちはレイシアの血を与え続け、結果、王太子は血清依存体質になっていた。
しかも、王子自身にその自覚はない。
幻聴や幻覚を見始めれば、王子を眠らせ、睡眠中に血を与え、本人の知らぬところで全てを終結させていた。
国王も王妃もレイシアを息子の餌程度にしか認識していない。
せめて、王子がレイシアを大事にしてくれたら。
ウィグがレイシアの為にできたことなど殆ど無い。
痛みで苦しむ、レイシアの側で背中を撫でるしかできなかった。
レイシアを救うチャンスがあれば逃さない。
王子は王太子となり、病人のようなのレイシアを遠ざける。
何も知らない王太子故に、レイシアに対する執着がない。
うまく行くかは賭けだった。
王太子に聞こえるような場所でウィグは同僚との世間話のように、国王と王妃の出国の日程を口にし、どうしてあのような令嬢が王太子の婚約者なのだ?と問う。
そして見目の良い高貴な令嬢の名を挙げ連ねていく。
横目で、死角に身を潜める王太子が何かを考える素振りをするのを確認して、ひたすら祈った。
国王夫婦が不在の隙をついての、【婚約破棄】。
王太子殿下の命令が有効な内に国を出て、母国に戻ってきた。
レイシアの両親は泣いて帰国を喜んだ。
ウィグもその働きを認められ、レイシアの伴侶に選ばれた。
レイシアの希望とあり、ウィグは素直に受け入れた。
『血清』は争いの火種になる。
レイシアの父はウィグと早々に籍を入れさせ、夫婦となるように命じた。
純潔で無くなれば、『血清』の能力は失う。
レイシアは普通の令嬢になる。
未練も残さずレイシアはウィグに愛されることを選んだ。
ウィグの妻になったレイシアの血には特別な力はなくなった。
レイシアが狙われる理由もなくなった。
レイシアはずっと側に居たウィグと幸せに暮らしている。
「レイシア」
名を呼び、背中を撫でてやると次第に落ち着いていく。
国を離れた今でも、魘されることがある。
この国の王族には希に『血清』という能力を持つ者が生まれる。
レイシアがそれだった。
血清は万病の薬と呼ばれ、一滴口にすれば立ちどころに病を直したと伝わっている。
ウィグはその力で過去にレイシアに命を助けてもらったことがあった。
それ故、彼女に救われた命は彼女の為に使うと決めた。
『血清』は誰もが手中に収めたいと願う能力であり、身の安全のために彼女の父親である国王が隣国の縁者に娘を預けた。
ウィグはレイシアの護衛として隣国に付いて行った。
しかし、レイシアが些細な怪我をした際に訪れた診療所にて珍しい血の型だと報告された為、隣国の王族の目に止まり、レイシアは王都に連れて行かれることになった。
ウィグが祖国に急ぎ報告をしている間に、王太子と婚約までされてしまい、救い出すことが困難となってしまった。
祖国もまだごたついていたせいで、ウィグが単身でレイシアが連れて行かれた王宮に潜入するしかなかった。
伯爵の協力を得て身分を偽り、騎士団に潜り込むと、人目を避けてレイシアに接触した。
レイシアが連れ去られてから、ウィグが王宮に入り込めるまで二年かかった。
その間にレイシアの見た目は変貌していた。
血色は悪く、フラつきもあり健康体だったはずの彼女は見る影もなく、死人のようであった。
腕には無数の針の跡。
数滴で回復する『血清』をこの国は搾取し続け、王子に与え続けた。
少量では良薬でも大量になれば害になる。
王子の持病が回復したことに気づかず、医師たちはレイシアの血を与え続け、結果、王太子は血清依存体質になっていた。
しかも、王子自身にその自覚はない。
幻聴や幻覚を見始めれば、王子を眠らせ、睡眠中に血を与え、本人の知らぬところで全てを終結させていた。
国王も王妃もレイシアを息子の餌程度にしか認識していない。
せめて、王子がレイシアを大事にしてくれたら。
ウィグがレイシアの為にできたことなど殆ど無い。
痛みで苦しむ、レイシアの側で背中を撫でるしかできなかった。
レイシアを救うチャンスがあれば逃さない。
王子は王太子となり、病人のようなのレイシアを遠ざける。
何も知らない王太子故に、レイシアに対する執着がない。
うまく行くかは賭けだった。
王太子に聞こえるような場所でウィグは同僚との世間話のように、国王と王妃の出国の日程を口にし、どうしてあのような令嬢が王太子の婚約者なのだ?と問う。
そして見目の良い高貴な令嬢の名を挙げ連ねていく。
横目で、死角に身を潜める王太子が何かを考える素振りをするのを確認して、ひたすら祈った。
国王夫婦が不在の隙をついての、【婚約破棄】。
王太子殿下の命令が有効な内に国を出て、母国に戻ってきた。
レイシアの両親は泣いて帰国を喜んだ。
ウィグもその働きを認められ、レイシアの伴侶に選ばれた。
レイシアの希望とあり、ウィグは素直に受け入れた。
『血清』は争いの火種になる。
レイシアの父はウィグと早々に籍を入れさせ、夫婦となるように命じた。
純潔で無くなれば、『血清』の能力は失う。
レイシアは普通の令嬢になる。
未練も残さずレイシアはウィグに愛されることを選んだ。
ウィグの妻になったレイシアの血には特別な力はなくなった。
レイシアが狙われる理由もなくなった。
レイシアはずっと側に居たウィグと幸せに暮らしている。
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