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第六話
しおりを挟む「――殿下、遠路はるばるご足労頂きありがとうございます」
そう言って殿下に頭を下げたのは、初老の男と女だった。
私の両親、その人たちだ。
二人とも喪服に身を包み、少し疲れた様な顔を装ってる。
「貴殿が葬儀を王都で行えば、ここまで来る事も無かったのだがな」
「娘はこの土地を生前とても好いておりました。王都に住んでいながらも度々領地へと帰り、様々な物を見聞きしていたくらいです」
殿下の言葉に控え目に、しかし「だからこそ娘の為を思ってここなのだ」と遠回しに言ってみせる。
私としては「何言ってんの? 事ある毎にいけ好かない私を王都から追い払うために領地経営を押し付けてたくせに」と言いたいところだ。
私が政治・経済に詳しい事に散々嫌味を言っておいて「お前にはそのくらいの利用価値くらいしかない」って堂々と利用してた父親の事は、勿論だけど殿下に何度も愚痴っている。
多分今頃殿下も「何言ってんだ」と思ってるに違いない。
が、私の計画を知っている殿下は余計な事は言わない方針なようで、言うのを堪えてくれてるらしい。
「まぁたとえどんな場所であろうと、私がビクティーの葬儀に参列しないなどという選択肢は微塵も無いがな」
「――ありがとうございます」
素っ気ない殿下の声に、父がまた頭を下げた。
因みに私は今そんな彼等を、茂みに隠れて観察している。
黒い長丈のワンピースにベール付きの黒い帽子、黒いレースの手袋に黒い靴。
そんな喪服に身を包んでいるのは、この後自分の葬儀の中に参列者として紛れ込む予定だからだ。
栗色の長い髪や背格好まではどうしたって隠せないが、多分そこは問題ない。
そんな凡庸な特徴くらいでは、妹ばかりを猫っ可愛がりしていた両親は全く気付きもしないだろう。
しかしそれにしても、だ。
さっきからずっと、殿下が言うのは嫌味ばかり。
普段は絶対にあんな事を言ったりなんてしないのに、何で今日はあんなにも機嫌が悪いんだろう。
……もしかして、私のせいかな。
私が殺されそうになった事や、きちんと安否を確認せずに死んだ事にしようとした事。
もしそれらに怒っているんだとしたら、なんて友達甲斐のある奴なんだ。
やっぱ殿下は、良いヤツだよな。
この通り家族には恵まれなかったけど、どうやら友人には恵まれたらしい。
「それでは、ご案内します」
父にそう言われ、彼は協会の中に入る。
私も少し遅れてから、そんな彼らについて行った。
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