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第七話
しおりを挟む目の前に自分の遺影が飾ってある様は、何というかとても不思議な光景だった。
誰も居ない棺桶の中には、私の私物が入っている。
とはいえ、私の事などほとんど知らない人たちがする葬儀だ。
思い出の物として入っているのは、どれも大して好きじゃない、外面を気にした綺麗で煌びやかな物ばかりだ。
周りの参列者達が、私の事故を悼んでいる。
「まだ随分と若かったのにな……」
「馬車の事故なんですって」
「変わったご令嬢だったよな」
「でも、誰にでも分け隔ての無い良い人でもありましたわ」
所々残念な評価も聞こえてくるが、概ね好意的で嬉しい限りだ。
まぁそれは、おそらく今回の参列者がわざわざこの地に来てまで葬儀に出てくれる人たちだからというのが大きいんだろうけど。
周りにそんな感想を抱いている内に、葬式は進み遺族代表の挨拶の時間になった。
当たり前だが、代表は父だ。
「皆さま、ご参列いただきありがとうございます。娘・ビクティーも喜んでいる事と思います。娘は生前――」
私について、色々と語っている。
先程殿下に言ったように「娘はこの土地を愛していた」とか「政治・経済に興味があるという令嬢としては少し困った子だったけれど、全てはこの領地の民たちの為を考えての事だった」とか。
もし第三者として聞いていたなら「見上げた令嬢だったのだなぁ」と思うような、実に上手い取り繕い方をしている。
この男、そういう事は得意なのだ。
腐っても一応侯爵というだけはある。
周りに「そんなに出来た娘を亡くした侯爵の心中は如何ほどか」などと上手く思わせるその手腕には、私も一部学ぶべきところがある。
が、元が黒いので全く尊敬できる父ではない。
今回だってそうである。
よくもその口でそんな事が言えたものだ。
そう鼻で笑い飛ばすしつつ、私は前を目指し始めた。
周りの人たちが、私に注目してるのが分かる。
まぁ当たり前だ、だって私は遺族挨拶の最中にズカズカとその遺族の元にまっすぐ歩いて行ってるんだから。
が、気にしない。
だって私は父の言う通り、『少し困った子』なのである。
自分の葬式中の粗相くらい、必要であれば普通にする。
「お、おい君! 一体何のつもりで――」
曲がりなりにも自分の晴れの舞台を邪魔された父は、私にそう怒りを向けた。
しかしその声に、私は被せてこう言い放つ。
「皆さん、このようなガッタガタの領地まで足をお運びいただけて、私とても嬉しいですわ」
ちょっと余所行きな言葉遣いをした私に、おそらくこの会場の全員が目を剥いた。
その声に、自分の領地を『ガッタガタ』と言い募るその言い草に、おそらく既視感を抱いたんだろう。
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