5 / 12
第六話
しおりを挟む「――殿下、遠路はるばるご足労頂きありがとうございます」
そう言って殿下に頭を下げたのは、初老の男と女だった。
私の両親、その人たちだ。
二人とも喪服に身を包み、少し疲れた様な顔を装ってる。
「貴殿が葬儀を王都で行えば、ここまで来る事も無かったのだがな」
「娘はこの土地を生前とても好いておりました。王都に住んでいながらも度々領地へと帰り、様々な物を見聞きしていたくらいです」
殿下の言葉に控え目に、しかし「だからこそ娘の為を思ってここなのだ」と遠回しに言ってみせる。
私としては「何言ってんの? 事ある毎にいけ好かない私を王都から追い払うために領地経営を押し付けてたくせに」と言いたいところだ。
私が政治・経済に詳しい事に散々嫌味を言っておいて「お前にはそのくらいの利用価値くらいしかない」って堂々と利用してた父親の事は、勿論だけど殿下に何度も愚痴っている。
多分今頃殿下も「何言ってんだ」と思ってるに違いない。
が、私の計画を知っている殿下は余計な事は言わない方針なようで、言うのを堪えてくれてるらしい。
「まぁたとえどんな場所であろうと、私がビクティーの葬儀に参列しないなどという選択肢は微塵も無いがな」
「――ありがとうございます」
素っ気ない殿下の声に、父がまた頭を下げた。
因みに私は今そんな彼等を、茂みに隠れて観察している。
黒い長丈のワンピースにベール付きの黒い帽子、黒いレースの手袋に黒い靴。
そんな喪服に身を包んでいるのは、この後自分の葬儀の中に参列者として紛れ込む予定だからだ。
栗色の長い髪や背格好まではどうしたって隠せないが、多分そこは問題ない。
そんな凡庸な特徴くらいでは、妹ばかりを猫っ可愛がりしていた両親は全く気付きもしないだろう。
しかしそれにしても、だ。
さっきからずっと、殿下が言うのは嫌味ばかり。
普段は絶対にあんな事を言ったりなんてしないのに、何で今日はあんなにも機嫌が悪いんだろう。
……もしかして、私のせいかな。
私が殺されそうになった事や、きちんと安否を確認せずに死んだ事にしようとした事。
もしそれらに怒っているんだとしたら、なんて友達甲斐のある奴なんだ。
やっぱ殿下は、良いヤツだよな。
この通り家族には恵まれなかったけど、どうやら友人には恵まれたらしい。
「それでは、ご案内します」
父にそう言われ、彼は協会の中に入る。
私も少し遅れてから、そんな彼らについて行った。
40
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢に相応しいエンディング
無色
恋愛
月の光のように美しく気高い、公爵令嬢ルナティア=ミューラー。
ある日彼女は卒業パーティーで、王子アイベックに国外追放を告げられる。
さらには平民上がりの令嬢ナージャと婚約を宣言した。
ナージャはルナティアの悪い評判をアイベックに吹聴し、彼女を貶めたのだ。
だが彼らは愚かにも知らなかった。
ルナティアには、ミューラー家には、貴族の令嬢たちしか知らない裏の顔があるということを。
そして、待ち受けるエンディングを。
悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。
二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。
けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。
ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。
だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。
グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。
そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。
『冷酷な悪役令嬢』と婚約破棄されましたが、追放先の辺境で領地経営を始めたら、いつの間にか伝説の女領主になっていました。
黒崎隼人
ファンタジー
「君のような冷たい女とは、もう一緒にいられない」
政略結婚した王太子に、そう告げられ一方的に離婚された悪役令嬢クラリス。聖女を新たな妃に迎えたいがための、理不尽な追放劇だった。
だが、彼女は涙ひとつ見せない。その胸に宿るのは、屈辱と、そして確固たる決意。
「結構ですわ。ならば見せてあげましょう。あなた方が捨てた女の、本当の価値を」
追放された先は、父亡き後の荒れ果てた辺境領地。腐敗した役人、飢える民、乾いた大地。絶望的な状況から、彼女の真の物語は始まる。
経営学、剣術、リーダーシップ――完璧すぎると疎まれたその才能のすべてを武器に、クラリスは民のため、己の誇りのために立ち上がる。
これは、悪役令嬢の汚名を着せられた一人の女性が、自らの手で運命を切り拓き、やがて伝説の“改革者”と呼ばれるまでの、華麗なる逆転の物語。
悪役令嬢の独壇場
あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。
彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。
自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。
正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。
ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。
そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。
あら?これは、何かがおかしいですね。
真実の愛に婚約破棄を叫ぶ王太子より更に凄い事を言い出した真実の愛の相手
ラララキヲ
ファンタジー
卒業式が終わると突然王太子が婚約破棄を叫んだ。
反論する婚約者の侯爵令嬢。
そんな侯爵令嬢から王太子を守ろうと、自分が悪いと言い出す王太子の真実の愛のお相手の男爵令嬢は、さらにとんでもない事を口にする。
そこへ………
◇テンプレ婚約破棄モノ。
◇ふんわり世界観。
◇なろうにも上げてます。
悪役令嬢らしいのですが、務まらないので途中退場を望みます
水姫
ファンタジー
ある日突然、「悪役令嬢!」って言われたらどうしますか?
私は、逃げます!
えっ?途中退場はなし?
無理です!私には務まりません!
悪役令嬢と言われた少女は虚弱過ぎて途中退場をお望みのようです。
一話一話は短めにして、毎日投稿を目指します。お付き合い頂けると嬉しいです。
転生者だからって無条件に幸せになれると思うな。巻き込まれるこっちは迷惑なんだ、他所でやれ!!
柊
ファンタジー
「ソフィア・グラビーナ!」
卒業パーティの最中、突如響き渡る声に周りは騒めいた。
よくある断罪劇が始まる……筈が。
※小説家になろう、カクヨム、pixivにも同じものを投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる