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第十話
しおりを挟むこの言葉を受けて、周りはまた大きく揺れた。
それはそうだろう。
突然亡くなった若い娘の葬式に行ってみたらなんと娘は生きていて、その彼女が『殺されそうになったのだ』と主張した上にその犯人が父親だと言う。
先程あんなに良いスピーチをしただけに尚、驚いた事だろう。
私のコレには流石に父も慌てたのか、遂に外面を作る事もすっかり忘れて「なっ、何を言っているんだ貴様はっ!」と大きく叫ぶ。
「あらお父様、そんなに慌てた様子では、自分がやりましたと言っているようなものですよ?」
「貴様……!」
ついつい弾んだからかい口調になってしまったところ、鋭く睨みつけられた。
その目は少なくとも、娘に向けるべきものじゃない。
きっと妹には永遠に向けられる事は無いんだろうなと思うと私は少し寂しく――なるどころか苦笑した。
――あんな甘ったるい目を向けられたら、鳥肌立ちすぎてきっと死ねる。
「あの日私が乗った馬車はいつもは決して通る事のない険しい道を走っていました。私が度々領地と王都を行き来していたのは皆さまも知るところでしょう? それなのに今回だけそんな道を選択したのです。不思議ですね?」
「それは御者の落ち度だろう! 私がお前を落とそうとしたという証拠にはならない!」
「あらお父様、誰かの故意だったという言には疑問を挟まないのですね」
「ぐっ」
かなり焦っているようだ。
お陰で仕事がやり易くていい。
「車軸にはあらかじめ切り込みが入っていました。現場は特に悪路でしたから、その用意だけで十分あのポイントで意図的に馬車を壊す事は可能だったでしょう」
そして案の定、例のポイントで馬車はきちんと壊れてくれた。
私が助かったのは、ただ運が良かっただけだ。
事前に馬車の傾きを不自然に思い、タッチの差で思い切って馬車から飛び降りたこのファインプレーを称賛したい。
「物的証拠は」
「ありません」
「ふんっ、それじゃぁ意味など無いな。私を陥れるためのお前の偽証だという可能性の方が高い。それにそもそも動機が無いしな」
口の端をクイッとあげてそう言った彼からは、深い安堵と驕りが感じられた。
おそらく私が屋敷で集めて隠し持っていた数々の『証拠』は、既に処分済みなんだろう。
が、侮らないで頂きたい。
「動機なら沢山あるでしょう。私が殿下と仲良くさせていただいていた事。それが貴方の最愛の末娘を差し置いた行為だった事。そして、お父様」
これが最も致命的で確定的。
おそらくこれが無ければ流石の父も人殺しまではしなかっただろうその要因。
「貴方が行っていたとある不正の証拠を、私が握ってしまった事」
そう告げた瞬間、周りが「不正?」「何の話だ?」「侯爵様が?」と騒ぎだした。
良いぞ周りよ、もっと盛り上がれ。
「それこそ証拠がない事だ! 変な言いがかりをつけるのは止め――」
「実は私、殿下からとあるものをお借りしておりまして。これを仕掛けておいたところ、偶然面白い会話が撮れたのですよ」
父の言葉を遮って、私はとあるキューブを取り出した。
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