どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~

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第九話

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 なるほど、父の言う事も一応筋は通っている。
 騎士たちもおそらくそう思ったのだろう。
 とりあえず私の事を捕まえようと動き出し、それを見た父がニヤリと笑みを浮かべた。

 が、私だって何もこんな風にニセモノ扱いされて捕まるために出張って来たわけじゃない。
 葬儀まで2週間。
 その時間で私だって万全を期して色々考え準備をしてきた。
 これくらいの事、想定内だ。
 
「では、これでどうです?」

 そう言って、私は周りにとある指輪を突き出した。
 青い石の嵌ったソレは、この国の者ならばきっと誰もが良く知っている物だ。

 この国では、貴族の子が生まれた時に王から必ず賜る石がある。
 誕生日と家紋が彫られたその指輪を、貴族は生涯絶対に身から離さず持っておく。
 その風習は今も尚、続いていた。
 
 この青い石の指輪が正にそれで、よく見ればこの石にもきちんと私の生まれた日とこの侯爵家の家紋が刻まれている。

「この石は、特殊な加工技術でなければ作れません。そしてその職人の所在や名前の一切を、国が秘匿しています。偽物なんて用意出来ない」
「そ、そんな物、本物から奪い取れば――」
「ビクティー・シークランドだって、曲がりなりにも侯爵令嬢。この証が命より大事な事も、これを無くした時に失うものが何なのかも当然分かっている筈ですが」

 私がそんな風に言えば、これまた友人たちから「そんな貴族としての誇りを捨てるような真似、ビクティー様がする筈が無い!」という声が上がる。
 まったく打ち合わせなんてしてないのに、欲しい所で援護をくれる。
 とってもとってもありがたいし、彼女たちの言う事は正しい。


 この指輪を手放す事は、貴族としての地位を放棄し貴族としての誇りを捨てた事と同義だ。
 昔からこの国の子供たちは全員そう教えられて育つ。

「それを、お父様曰く『領地をとても好いていたからこそ度々王都から帰郷していた』くらいこの土地の統治に熱心だった者が、まさか『最終的には貴族としての誇りよりも自分の命を選ぼうとした』だなんて、そんな恥さらしをする筈がありませんよね?」

 貴族の方便の一つに『自分の命よりも貴族としての誇りが大事』というものが在る。
 先程父がしたスピーチは、「ビクティーは正にソレを為せる人間である」というような物言いだった。
 それを今更覆すなんて恥な事、あの父に出来る筈も無い。


 案の定歯噛みをする父の様子に、騎士たちもとりあえず私を拘束するのはやめたようだ。
 彼等が私に向ける警戒レベルが下がったので、ここですかさず強気に本題へと入っていく。
 
「さて皆さま。先ほど私は『殺された』と言いましたが、実際には少し違います。殺されそうになったのです。誰でもない、この父に!」

 私は両手を大きく広げ、悲痛に聞こえるような叫びでそう告げた。
 その演出は我ながら「大袈裟だな」と思うけど、私の敵は曲がりなりにも社会的地位のある人間だ。
 このくらいしない事には周りの気を引き同情心を集める事は出来ないのである。


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