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番外〜前世編〜「東へと続く道」
1、婚約破棄
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「リオノーラ、お前とユーリアン王太子との婚約は今日をもって破棄する」
父に告げられたのは行軍中のこと。
その時私は戦う相手も知らされず、戦なので急げと言われるままに鎧を着て馬に乗っていた。
「やはり、今、アスティーへ向かっているのね?」
方角からして間違いない。
「そうだ。アスティー王の危篤にあわせてな。南から同時にリディアの軍隊も進軍している」
「リディア? デニスが率いているの?」
名前を口にしながら、ズキリと胸に走る痛み。
デニスは私が幼い頃から恋慕ってきた、我がローア国の同盟国リディア国の王。
彼は三ヶ月前の即位にあわせ、アスティー国の王女レダを娶り、私は決定的に失恋した。
「ああ、お前と同じ伝説級の剣の持ち主デニス王とレダ妃の両方が出ると聞いている」
私は頭の中で情報を整理した。
「つまり、お父様は夫であるデニスをそそのかし、実の弟のユーリから王位を奪うために母国に攻め入らせようとするレダに味方しようと言うのね?」
言葉にするだけでも虫酸が走る。
その時、父と反対側の横に馬を並べる者があった。
「あら、そそのかされたってなぜ決めつけるの? デニス王本人の意志かもしれないでしょう?」
姉のカロ――カロラインだ。
「いいえ、違うわ。私は誰よりもデニスを知っている」
一族伝来の「戦女神の剣」に使い手として選ばれながらその力を引き出しれきれない私は、同じく古代から伝わる宝剣「狂戦士の剣」の持ち主であるデニスの元へ11歳から16歳――つい半年前まで修行の為に預けられていた。
「デニスの性格からして妃を娶ったそばからその母国に攻め入るなんて暴挙は有り得ない。
反対にレダは双子の弟のユーリを幼い頃から見下し、長子であるのに女だから王になれないということにずっと不満を抱いていた。これは、力尽くで自分の意志を通すことに慣れたあの女が、いかにもやりそうな蛮行だわ」
私が断言すると、カロが鼻を鳴らす。
「どちらでも関係ないわ。弱い者へつく理由がない」
ユーリをさして言っているのだ。
「カロラインの言うとおりだ。お前も一族の娘なら、強き者につくことが正義だとわかっているはずだ」
この小国が乱立し興っては滅びる動乱の大陸において、我がバーン家がそうして生き残ってきたことは私も理解している。
「それでも、私にはユーリを討つなんてできない」
カロがまた鼻を鳴らす。
「女の嫉妬? それとも弱い者への情け? いずれにしてもバーン家の者には相応しくない感情よ」
姉は私の長年のデニスへの片思いと、ユーリとの仲の良さを知っているのだ。
初めて会った7歳の時から私はデニスに惹かれ、彼の妻になることを夢見て努力を重ねてきた。
ところが夢が叶うどころか16歳になった途端、私はデニスによって有無を言わさず国へ帰された。
そして翌月、彼とレダとの婚約を知らされたのだ。
誰よりも近くにいたにも関わらず自分が選ばれなかったことにショックを受けた私は、知らせを聞くやいなやリディア国へ向かい、血を吐く思いでデニスに迫った。
『国同士の結びつきの婚姻なら、同じ同盟国の王女である私でも良かった筈よ! なぜ私ではいけなかったの?』
しかし、デニスはどんなに問い詰めても理由を教えてくれず、『もう決まった事だ』と冷たく言うのみだった。
そうしてデニスとレダとの挙式を見届け、完全に幼い頃からの夢を打ち砕かれた私は、傷心のままに幼馴染みでアスティーの王太子ユーリ――ユーリアンからの求婚を受けた。
あわよくばデニスの元へ嫁いで欲しいと願っていた父や、ユーリを見くびっている姉は良い顔をしなかったものの、一国の王太子との婚姻を表だって反対はできないことはわかっていた。
その婚約は私にとってデニスへの当てつけと、レダへの対抗心、ユーリへの友情と、複数の意味あいを持つものだった。
だから、姉の指摘は至極的を射ている。
「この戦女神の剣は心に背いて相手を斬れない剣よ。私にはユーリを殺せない」
「そういう台詞はその剣を満足に使いこなせるようになってから言ったらどう?」
私より全てに及んで優秀な姉は、一族の家宝である剣が私を選んだことが不満でたまらないのだ。
「もういいカロライン。戦いたくない者を連れて行っても足手纏いになるだけだ。いいだろう、リオノーラ、お前はここで帰るがいい」
「……わかりました、お父様」
「リオ! この意気地なしが!」
返事をしたそばから馬を翻した私は、姉の罵倒を背に受けながら行軍の流れに逆行していった。
いったん帰るフリをして向かうのは、以前ユーリが教えてくれた城の地下から伸びる『世継ぎのみに知らされる』隠し通路。
アスティー城の北側にある洞窟の入り口だ。
こういう重要な秘密を私に教えるような致命的な甘さが、今ユーリを破滅させようとしている。
万が一にもつけられていないか慎重に確認しつつ、全力で馬を駆り、半日かかってようやく辿りつく。
そこから密かに城に入ってユーリを逃がすつもりだった。
ところが暗い洞窟を一時間も進まないうちに、目的の人物に行き当たる。
「――ユーリ?」
「その声、まさかリオ?」
ランタンを掲げながら近づいてきたのは、流れる白金の髪に澄んだ緑色の瞳をした乙女のように可憐な容姿の私の婚約者ユーリともう一人――
父に告げられたのは行軍中のこと。
その時私は戦う相手も知らされず、戦なので急げと言われるままに鎧を着て馬に乗っていた。
「やはり、今、アスティーへ向かっているのね?」
方角からして間違いない。
「そうだ。アスティー王の危篤にあわせてな。南から同時にリディアの軍隊も進軍している」
「リディア? デニスが率いているの?」
名前を口にしながら、ズキリと胸に走る痛み。
デニスは私が幼い頃から恋慕ってきた、我がローア国の同盟国リディア国の王。
彼は三ヶ月前の即位にあわせ、アスティー国の王女レダを娶り、私は決定的に失恋した。
「ああ、お前と同じ伝説級の剣の持ち主デニス王とレダ妃の両方が出ると聞いている」
私は頭の中で情報を整理した。
「つまり、お父様は夫であるデニスをそそのかし、実の弟のユーリから王位を奪うために母国に攻め入らせようとするレダに味方しようと言うのね?」
言葉にするだけでも虫酸が走る。
その時、父と反対側の横に馬を並べる者があった。
「あら、そそのかされたってなぜ決めつけるの? デニス王本人の意志かもしれないでしょう?」
姉のカロ――カロラインだ。
「いいえ、違うわ。私は誰よりもデニスを知っている」
一族伝来の「戦女神の剣」に使い手として選ばれながらその力を引き出しれきれない私は、同じく古代から伝わる宝剣「狂戦士の剣」の持ち主であるデニスの元へ11歳から16歳――つい半年前まで修行の為に預けられていた。
「デニスの性格からして妃を娶ったそばからその母国に攻め入るなんて暴挙は有り得ない。
反対にレダは双子の弟のユーリを幼い頃から見下し、長子であるのに女だから王になれないということにずっと不満を抱いていた。これは、力尽くで自分の意志を通すことに慣れたあの女が、いかにもやりそうな蛮行だわ」
私が断言すると、カロが鼻を鳴らす。
「どちらでも関係ないわ。弱い者へつく理由がない」
ユーリをさして言っているのだ。
「カロラインの言うとおりだ。お前も一族の娘なら、強き者につくことが正義だとわかっているはずだ」
この小国が乱立し興っては滅びる動乱の大陸において、我がバーン家がそうして生き残ってきたことは私も理解している。
「それでも、私にはユーリを討つなんてできない」
カロがまた鼻を鳴らす。
「女の嫉妬? それとも弱い者への情け? いずれにしてもバーン家の者には相応しくない感情よ」
姉は私の長年のデニスへの片思いと、ユーリとの仲の良さを知っているのだ。
初めて会った7歳の時から私はデニスに惹かれ、彼の妻になることを夢見て努力を重ねてきた。
ところが夢が叶うどころか16歳になった途端、私はデニスによって有無を言わさず国へ帰された。
そして翌月、彼とレダとの婚約を知らされたのだ。
誰よりも近くにいたにも関わらず自分が選ばれなかったことにショックを受けた私は、知らせを聞くやいなやリディア国へ向かい、血を吐く思いでデニスに迫った。
『国同士の結びつきの婚姻なら、同じ同盟国の王女である私でも良かった筈よ! なぜ私ではいけなかったの?』
しかし、デニスはどんなに問い詰めても理由を教えてくれず、『もう決まった事だ』と冷たく言うのみだった。
そうしてデニスとレダとの挙式を見届け、完全に幼い頃からの夢を打ち砕かれた私は、傷心のままに幼馴染みでアスティーの王太子ユーリ――ユーリアンからの求婚を受けた。
あわよくばデニスの元へ嫁いで欲しいと願っていた父や、ユーリを見くびっている姉は良い顔をしなかったものの、一国の王太子との婚姻を表だって反対はできないことはわかっていた。
その婚約は私にとってデニスへの当てつけと、レダへの対抗心、ユーリへの友情と、複数の意味あいを持つものだった。
だから、姉の指摘は至極的を射ている。
「この戦女神の剣は心に背いて相手を斬れない剣よ。私にはユーリを殺せない」
「そういう台詞はその剣を満足に使いこなせるようになってから言ったらどう?」
私より全てに及んで優秀な姉は、一族の家宝である剣が私を選んだことが不満でたまらないのだ。
「もういいカロライン。戦いたくない者を連れて行っても足手纏いになるだけだ。いいだろう、リオノーラ、お前はここで帰るがいい」
「……わかりました、お父様」
「リオ! この意気地なしが!」
返事をしたそばから馬を翻した私は、姉の罵倒を背に受けながら行軍の流れに逆行していった。
いったん帰るフリをして向かうのは、以前ユーリが教えてくれた城の地下から伸びる『世継ぎのみに知らされる』隠し通路。
アスティー城の北側にある洞窟の入り口だ。
こういう重要な秘密を私に教えるような致命的な甘さが、今ユーリを破滅させようとしている。
万が一にもつけられていないか慎重に確認しつつ、全力で馬を駆り、半日かかってようやく辿りつく。
そこから密かに城に入ってユーリを逃がすつもりだった。
ところが暗い洞窟を一時間も進まないうちに、目的の人物に行き当たる。
「――ユーリ?」
「その声、まさかリオ?」
ランタンを掲げながら近づいてきたのは、流れる白金の髪に澄んだ緑色の瞳をした乙女のように可憐な容姿の私の婚約者ユーリともう一人――
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