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番外〜前世編〜「東へと続く道」
2、たった一人の王
「……後ろにいるのは、まさかネヴィル?」
灰色のローブとマントを着たアスティーの宮廷魔法使い――ネヴィルも一緒だった。
私はこの髪も瞳も銀色で白蝋のような肌をした、見た目も表情も人間味の薄い人物が苦手だった。
「ああ、ネヴィルが、城内は内通者だらけで、レダの到着にあわせて内側から門が開かれる予定だから、その前にできるだけ遠くへ逃げろと連れ出してくれたんだ」
「あなたがユーリを? どういう風の吹き回し?」
「先代から仕えた王家の世継ぎだ。助けてもおかしくないだろう」
私は疑わしい目で、不気味なほど美しいネヴィルの白皙の顔を凝視する。
「では、ここまででいいわ、ネヴィル。あなたは城へ戻るといい。さあ、行きましょう、ユーリ」
さっさと別れを告げるとネヴィルの返事を待たず、ユーリの手を取って足早に歩き始める。
「行こうって、待ってリオ!」
「待たないわ。あなたを逃がすためにここまで来たんだもの」
「気持ちは嬉しいけど、君を僕の破滅に巻き込むわけにはいかない!」
「なぜ? 私達は親友で、今は婚約者でしょう?」
「いいや、こうなってしまってはそれも無効だ! 君はもう自由だ。
悲しいけど僕が確認した範囲では、アスティーの有力者の多くは姉さん側についているようだ。同盟国もプロメシア以外はリディアへ味方している。どのみち武勇で遙かに姉さんに劣る僕が戦ったとしても、味方してくれた者を破滅へ巻き込むだけだ。だからこうして父の崩御にあわせて城から逃げ出してきた。こんな情けない僕が王になるのは無理だろう」
どうやら危篤だったアスティー王は亡くなったらしい。
ユーリだけではなく、完全に『炎女神の剣』を使いこなすレダの強さは尋常ではなく、デニス以外は私も含め誰一人として相手にすらならない。
戦場で出会った者はことごとく消し炭になるという。
私は苦い思いで強引にユーリの手を引き、出口へ向かって歩き続ける。
「いいえ、今のような強さだけを求められる戦乱ではなく、太平の世なら、誰よりも慈悲深く聡明なあなたは間違いなく素晴らしい王になっていた」
生家の家訓でもある「強さこそ正義」という考えはどうしても私には合わない。
「とにかく、あなたは私にとってたった一人の王よ!
夫になりたくないというなら、臣下としてでもあなたに着いていくわ」
「この僕が、君の夫になりたくないわけないじゃないか……!」
「ならつべこべ言わずに私と逃げて」
「駄目だ、駄目だ! 君を愛しているからこそ、それはできない。お願いだから僕に関わらないで欲しい」
私はいったん立ち止まり、盛大に溜め息をつく。
「いい加減にしてユーリ! はっきり言うけどレダの味方をするぐらいなら、私は舌を噛み切って死んだほうがマシなのよ!」
「それは……デニスがレダを選んだから?」
親友のユーリは私のデニスへの想いを知り尽くしていた。
「……痛いところを平気でつくのね」
「ごめん」
「勿論理由はそれだけじゃないわ」
レダへの嫉妬心以上に、私は今回の事で責任を感じていた。
なぜなら戦は急に起こったりしない。
何ヶ月も準備期間を要していた筈なのに、失恋した悲しみやレダへの嫉妬で頭がいっぱいで、少しもその動きに気づかなかった。
一国の妃になるならもっと国の情勢に気を配るべきだったのに――この体たらくぶりではデニスがレダを選ぶのも当然だ。
「でも、今はこんな風に言い合っている余裕はない。一刻も早く遠くへ逃げなくては――それと」
私はユーリの背後を睨み付ける。
「ネヴィル、なんでついて来ているの! あなたは連れて行けないわ」
「なぜだ? 俺がいなければ、お前らは逃げ延びられない」
「……どういう意味?」
灰色のローブとマントを着たアスティーの宮廷魔法使い――ネヴィルも一緒だった。
私はこの髪も瞳も銀色で白蝋のような肌をした、見た目も表情も人間味の薄い人物が苦手だった。
「ああ、ネヴィルが、城内は内通者だらけで、レダの到着にあわせて内側から門が開かれる予定だから、その前にできるだけ遠くへ逃げろと連れ出してくれたんだ」
「あなたがユーリを? どういう風の吹き回し?」
「先代から仕えた王家の世継ぎだ。助けてもおかしくないだろう」
私は疑わしい目で、不気味なほど美しいネヴィルの白皙の顔を凝視する。
「では、ここまででいいわ、ネヴィル。あなたは城へ戻るといい。さあ、行きましょう、ユーリ」
さっさと別れを告げるとネヴィルの返事を待たず、ユーリの手を取って足早に歩き始める。
「行こうって、待ってリオ!」
「待たないわ。あなたを逃がすためにここまで来たんだもの」
「気持ちは嬉しいけど、君を僕の破滅に巻き込むわけにはいかない!」
「なぜ? 私達は親友で、今は婚約者でしょう?」
「いいや、こうなってしまってはそれも無効だ! 君はもう自由だ。
悲しいけど僕が確認した範囲では、アスティーの有力者の多くは姉さん側についているようだ。同盟国もプロメシア以外はリディアへ味方している。どのみち武勇で遙かに姉さんに劣る僕が戦ったとしても、味方してくれた者を破滅へ巻き込むだけだ。だからこうして父の崩御にあわせて城から逃げ出してきた。こんな情けない僕が王になるのは無理だろう」
どうやら危篤だったアスティー王は亡くなったらしい。
ユーリだけではなく、完全に『炎女神の剣』を使いこなすレダの強さは尋常ではなく、デニス以外は私も含め誰一人として相手にすらならない。
戦場で出会った者はことごとく消し炭になるという。
私は苦い思いで強引にユーリの手を引き、出口へ向かって歩き続ける。
「いいえ、今のような強さだけを求められる戦乱ではなく、太平の世なら、誰よりも慈悲深く聡明なあなたは間違いなく素晴らしい王になっていた」
生家の家訓でもある「強さこそ正義」という考えはどうしても私には合わない。
「とにかく、あなたは私にとってたった一人の王よ!
夫になりたくないというなら、臣下としてでもあなたに着いていくわ」
「この僕が、君の夫になりたくないわけないじゃないか……!」
「ならつべこべ言わずに私と逃げて」
「駄目だ、駄目だ! 君を愛しているからこそ、それはできない。お願いだから僕に関わらないで欲しい」
私はいったん立ち止まり、盛大に溜め息をつく。
「いい加減にしてユーリ! はっきり言うけどレダの味方をするぐらいなら、私は舌を噛み切って死んだほうがマシなのよ!」
「それは……デニスがレダを選んだから?」
親友のユーリは私のデニスへの想いを知り尽くしていた。
「……痛いところを平気でつくのね」
「ごめん」
「勿論理由はそれだけじゃないわ」
レダへの嫉妬心以上に、私は今回の事で責任を感じていた。
なぜなら戦は急に起こったりしない。
何ヶ月も準備期間を要していた筈なのに、失恋した悲しみやレダへの嫉妬で頭がいっぱいで、少しもその動きに気づかなかった。
一国の妃になるならもっと国の情勢に気を配るべきだったのに――この体たらくぶりではデニスがレダを選ぶのも当然だ。
「でも、今はこんな風に言い合っている余裕はない。一刻も早く遠くへ逃げなくては――それと」
私はユーリの背後を睨み付ける。
「ネヴィル、なんでついて来ているの! あなたは連れて行けないわ」
「なぜだ? 俺がいなければ、お前らは逃げ延びられない」
「……どういう意味?」
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