2 / 67
第一章「復讐の序曲」
2、投げ捨てられた恋
しおりを挟む
「本来なら、今夜、君の両親がいる前で正式に告げる予定だったが……当人が望むなら仕方がない。先に話すとしよう。
アレイシア、俺の話とは、正式に君との婚約を解消したいというものだ」
それは予想通りの発言であり、心の準備もしていたつもりだった。
にもかかわらず、言われた瞬間、心臓が止まるほどの激しい衝撃を受けた私は、とっさにデリアンの胸元にすがりつき、息も絶え絶えに懇願する。
「……婚約を解消……? そんなの嘘でしょう? デリアン……お願いだから思い直して……!」
「いいや、俺は本気だ。今日をもって君との婚約を破棄する」
いっそ『君を死刑に処する』と言われたほうがマシだった。
再度、冷然と言い放つデリアンに抵抗して、私は激しくかぶりを振った。
「いやっ、いやっ……! 待って……デリアン……ううん、ジーク! 私との前世の約束を思い出して……!
生まれ変わったら今度こそ一緒になろうって、あなた言ったじゃない!」
麗しい顔に蔑みの色を浮かべ、エルメティア姫が私をあざ笑う。
「シア、妄想癖もその辺にしたら?
小さい頃からその作り話を聞かされ続け、いい加減デリアンはうんざりしているのよ」
私は真実だと訴えるためにデリアンの目の前に左手首を突き出す。
「いいえ、作り話なんかじゃないわ! 証拠にこの左手首の痣とデリアンの右手の痣は繋がっている。
何度も言うように前世で心中にする時に、お互いの腕を紐で縛り合った痕なのよ――」
「もう止せ、アレイシア!」
苛立ったようにデリアンが叫び、精悍な顔に苦みを浮かべ続ける。
「百歩譲って君の話が真実だったとしても、生まれ変わった以上は別の人格と人生だ。
それなのになぜ別人だった頃の誓いを守らないといけない?
かつて幾ら愛し合ってたとしても、一度死んだ時点でそれはもう終わったことだ」
そのデリアンの言葉は正論だからこそ、瞬時に私の目の前を真っ暗にする効力と威力があった。
「終わった……こと?」
私は呆然と、噛みしめるように復唱する。
思えば、この18年間というもの、私はいつか必ずデリアンが――共に死ぬほど愛し合ったジークフリードが――記憶を取り戻す日をひたすら待ちわびてきた。
だけど今ようやく分かった。
デリアンが何一つ前世の記憶を思い出さないのは、それがもう「いらない」物だったからなのだ。
私だけが後生大事に守ってきた、愛も、誓いも、夢も。
がっくりと脱力し、デリアンの胸元から手を離し、膝から地面に崩れた私は、絶望が深いあまり、逆に笑いたくなった。
「……なんて、なんて私は……馬鹿だったのかしら……」
「アレイシア?」
両手の指で地面を掻き毟りながら、血を吐くように想いを吐露する。
「……デリアン……あなたはもう終わったことだと言ったけど、少なくとも内乱が起こる前は私達、とても仲の良い幼馴染みで婚約者同士だったじゃない。
私はただ、幼い頃からずっと、あなたの花嫁になる日だけを夢見て生きてきた……。
だから……この半年間……他の女性と寄り添うあなたとを見るのは……とても、とても、辛かったわ……!」
でもその苦しみもこれでやっと終わる。
私は最後の言葉を言い終えると、素早く胸元に忍ばせておいた短剣を取り出す。
そして、両手に握り込むと、すかさず喉元に向かって一気に振り下ろした。
婚約破棄を言い渡されたその場で死ぬ、これ以上の当てつけ行為があるだろうか?
デリアン、これが私のあなたの心変わりへの――新しい恋への、はなむけよ――
耐え難い苦しみを一刻も早く終わらせるついでに、その万分の一でも返すべく、せめて二人の瞳に私の死に様を焼き付けてやるのだ。
一生忘れられない心の傷になることを祈って――
「止めろ、シア!!」
ところが今となっては元・婚約者となったデリアンは、大声をあげて飛びかかるや、素早く私の手首を掴んで喉元に届く寸前に剣先を止める。
まさに神速の動き。
さすが並び立つ者無き武勇の将デリアンというところか。
腕を捻り上げられ無理矢理地面に押さえつけられた私は、下から恨みをこめてデリアンを睨み上げ、吐き捨てる。
「……死なせてもくれないなんて……ひどい人……!!」
でも幸運なことに、私にはまだ、歯という最後の武器が残されている。
迷いなく舌を噛み切ると、たちまち口中に血が充満し、唇の間からだらーっと零れ出た。
「ちょっと!! 何しているの、シアっ! 誰か来てっ!! カエイン!!」
直後、エルメティア姫のけたたましい声が鳴り響き。
視界が闇に落ちる寸前――私は、鳥のように漆黒のマントを広げて舞い降りる、美しい悪魔の幻影を見た――
アレイシア、俺の話とは、正式に君との婚約を解消したいというものだ」
それは予想通りの発言であり、心の準備もしていたつもりだった。
にもかかわらず、言われた瞬間、心臓が止まるほどの激しい衝撃を受けた私は、とっさにデリアンの胸元にすがりつき、息も絶え絶えに懇願する。
「……婚約を解消……? そんなの嘘でしょう? デリアン……お願いだから思い直して……!」
「いいや、俺は本気だ。今日をもって君との婚約を破棄する」
いっそ『君を死刑に処する』と言われたほうがマシだった。
再度、冷然と言い放つデリアンに抵抗して、私は激しくかぶりを振った。
「いやっ、いやっ……! 待って……デリアン……ううん、ジーク! 私との前世の約束を思い出して……!
生まれ変わったら今度こそ一緒になろうって、あなた言ったじゃない!」
麗しい顔に蔑みの色を浮かべ、エルメティア姫が私をあざ笑う。
「シア、妄想癖もその辺にしたら?
小さい頃からその作り話を聞かされ続け、いい加減デリアンはうんざりしているのよ」
私は真実だと訴えるためにデリアンの目の前に左手首を突き出す。
「いいえ、作り話なんかじゃないわ! 証拠にこの左手首の痣とデリアンの右手の痣は繋がっている。
何度も言うように前世で心中にする時に、お互いの腕を紐で縛り合った痕なのよ――」
「もう止せ、アレイシア!」
苛立ったようにデリアンが叫び、精悍な顔に苦みを浮かべ続ける。
「百歩譲って君の話が真実だったとしても、生まれ変わった以上は別の人格と人生だ。
それなのになぜ別人だった頃の誓いを守らないといけない?
かつて幾ら愛し合ってたとしても、一度死んだ時点でそれはもう終わったことだ」
そのデリアンの言葉は正論だからこそ、瞬時に私の目の前を真っ暗にする効力と威力があった。
「終わった……こと?」
私は呆然と、噛みしめるように復唱する。
思えば、この18年間というもの、私はいつか必ずデリアンが――共に死ぬほど愛し合ったジークフリードが――記憶を取り戻す日をひたすら待ちわびてきた。
だけど今ようやく分かった。
デリアンが何一つ前世の記憶を思い出さないのは、それがもう「いらない」物だったからなのだ。
私だけが後生大事に守ってきた、愛も、誓いも、夢も。
がっくりと脱力し、デリアンの胸元から手を離し、膝から地面に崩れた私は、絶望が深いあまり、逆に笑いたくなった。
「……なんて、なんて私は……馬鹿だったのかしら……」
「アレイシア?」
両手の指で地面を掻き毟りながら、血を吐くように想いを吐露する。
「……デリアン……あなたはもう終わったことだと言ったけど、少なくとも内乱が起こる前は私達、とても仲の良い幼馴染みで婚約者同士だったじゃない。
私はただ、幼い頃からずっと、あなたの花嫁になる日だけを夢見て生きてきた……。
だから……この半年間……他の女性と寄り添うあなたとを見るのは……とても、とても、辛かったわ……!」
でもその苦しみもこれでやっと終わる。
私は最後の言葉を言い終えると、素早く胸元に忍ばせておいた短剣を取り出す。
そして、両手に握り込むと、すかさず喉元に向かって一気に振り下ろした。
婚約破棄を言い渡されたその場で死ぬ、これ以上の当てつけ行為があるだろうか?
デリアン、これが私のあなたの心変わりへの――新しい恋への、はなむけよ――
耐え難い苦しみを一刻も早く終わらせるついでに、その万分の一でも返すべく、せめて二人の瞳に私の死に様を焼き付けてやるのだ。
一生忘れられない心の傷になることを祈って――
「止めろ、シア!!」
ところが今となっては元・婚約者となったデリアンは、大声をあげて飛びかかるや、素早く私の手首を掴んで喉元に届く寸前に剣先を止める。
まさに神速の動き。
さすが並び立つ者無き武勇の将デリアンというところか。
腕を捻り上げられ無理矢理地面に押さえつけられた私は、下から恨みをこめてデリアンを睨み上げ、吐き捨てる。
「……死なせてもくれないなんて……ひどい人……!!」
でも幸運なことに、私にはまだ、歯という最後の武器が残されている。
迷いなく舌を噛み切ると、たちまち口中に血が充満し、唇の間からだらーっと零れ出た。
「ちょっと!! 何しているの、シアっ! 誰か来てっ!! カエイン!!」
直後、エルメティア姫のけたたましい声が鳴り響き。
視界が闇に落ちる寸前――私は、鳥のように漆黒のマントを広げて舞い降りる、美しい悪魔の幻影を見た――
17
あなたにおすすめの小説
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
【完結】時戻り令嬢は復讐する
やまぐちこはる
恋愛
ソイスト侯爵令嬢ユートリーと想いあう婚約者ナイジェルス王子との結婚を楽しみにしていた。
しかしナイジェルスが長期の視察に出た数日後、ナイジェルス一行が襲撃された事を知って倒れたユートリーにも魔の手が。
自分の身に何が起きたかユートリーが理解した直後、ユートリーの命もその灯火を消した・・・と思ったが、まるで悪夢を見ていたように目が覚める。
夢だったのか、それともまさか時を遡ったのか?
迷いながらもユートリーは動き出す。
サスペンス要素ありの作品です。
設定は緩いです。
6時と18時の一日2回更新予定で、全80話です、よろしくお願い致します。
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
【完結】義姉上が悪役令嬢だと!?ふざけるな!姉を貶めたお前達を絶対に許さない!!
つくも茄子
ファンタジー
義姉は王家とこの国に殺された。
冤罪に末に毒杯だ。公爵令嬢である義姉上に対してこの仕打ち。笑顔の王太子夫妻が憎い。嘘の供述をした連中を許さない。我が子可愛さに隠蔽した国王。実の娘を信じなかった義父。
全ての復讐を終えたミゲルは義姉の墓前で報告をした直後に世界が歪む。目を覚ますとそこには亡くなった義姉の姿があった。過去に巻き戻った事を知ったミゲルは今度こそ義姉を守るために行動する。
巻き戻った世界は同じようで違う。その違いは吉とでるか凶とでるか……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる