【完結】侯爵令嬢は破滅を前に笑う

黒塔真実

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第二章「勇気ある者は……」

5、悪魔への貸付

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「あなたと……組む?」

「ああ、そうだ。俺もお前と同じように相手に尽くしてきたぶん、大いに心が傷ついている。
 二人で共に報われなかった恋の恨みをすすがないか?」

 冗談めかした口調で言うカエインの瞳に、一瞬だけ、悲しみの色が浮かぶのを見た気がした。

「つまり対等な関係で協力し合おうと言うのね?」

「もちろん対等な関係だとも。俺の愛人になるかもお前の自由意志だ。
 それならば断る理由はないだろう?」

 ということは見返りなしで、デリアンとエルメティアに思い知らせるための強力な仲間を得ることができるというわけか……。
 ――断わる理由がないどころか、むしろすぐにでも飛びつきたい提案だ――

 しかし現在、心が荒みきっている私は即答を避け、あえて皮肉っぽくこう尋ねる。

「あなたが私を裏切らないという確証はある?」

「そこは素直に信じて貰うしかないな」

 私はカエインの悪魔じみた妖しい美貌を眺め、ふーっと長めの溜め息をつく。

「信じようにもカエイン、あなたの今までの行動を思うとね……。
 我がバーン家には、信用できない者とは決して手を組むなという家訓があるのよ。
 まずは口先ではなく、行動で信用できるところを示して欲しいものね」

「――と、言うと?」

 興味深そうに尋ねるカエインの声に、そこで扉のノック音が重なる。

「カエイン様、いらっしゃいますか?」

「なんだ、レイヴン」

「エルメティア姫とカスター公がお会いになりたいとおいでになっています。
 ただ今、お二人には琥珀の間にてお待ち頂いておりますが、いかがいたしましょうか?」

「分かった、すぐに行こう」

 返事をしてから、カエインは私と顔を見合わせ愉快そうに口元を歪める。

「どうやらお前のことが気になって様子を見に来たらしいな」

 私はふんと鼻を鳴らし、忌々しい思いで吐き捨てる。

「わざわざ二人で連れ立って、私が無事に忘却の水を飲んだか確認しにくるなんて、まったくご苦労なことね!!」

「取りあえず、シア。王族を追い返すわけにはいかないし、この俺にも一応立場というものがある。ここは話の内容に合わせてくれないか?
 お前は二人の前では何もしゃべらず、ただ俺の身体にしがみついているだけでいい」

 カエインの頼みにたいし、私は少し考え込んでから、勿体ぶった口調で答える。

「いいけど、この貸しは高いわよ? カエイン」

「ああ、後で必ず返そう」

 あっさり請け合って、さっそくカエインは漆黒のマントを靡かせて歩き出し、私は守護剣を引っ込めると、お返し目当で哀れな忘却者を演じる舞台へと向かう――

 信じがたいことに、上りはあんなに長かった塔の階段なのに、下りはたった一階分ほどの距離だった。

 下の階の廊下へと出たカエインは、少し進んだ位置の扉の前で立ち止まり、私の腰を抱き寄せると、挨拶しながら扉を押し開く――

「お待たせしたな。エルメティア姫にカスター公」

 また空間が省略されたらしく、目の前に広がったのは、ここに来た時に最初に通ったホールの続きの間だった。
 琥珀色の壁や天井に囲まれた室内では、中央に置かれた長椅子に深く座るエルメティア姫と、その真後ろに立って背もたれに肘をつくデリアンが待ち構えていた。

 私はマントの内側に潜るようにカエインの身体にしがみつき、無意識にでも睨まないようにわざと目の集点をずらして憎き恋人達を眺める。
 すでに二人一緒にいる姿を見ても、腹の底から沸きあがるどす黒い感情が強烈過ぎて、今までのような胸の痛みはほぼ感じられない。

 私達の入室に合わせて立ち上がったエルメティア姫が、ハッとしたように私の頭部に目を止める。

「――シア、その髪――!?」

 カエインが気安く私の髪に触れながら説明する。

「どうも、シアは昨日、俺が命を助けたことを相当に恨んでいたらしく、会いに来た早々、錯乱状態で抗議しながら自ら髪を切ったのだ。
 だが忘却の水を飲ませたあとはこの通り、すっかり大人しくなって可愛いものだ」

「――ずいぶんあなたにべったりなのね、カエイン?」

「ああ、どうやら記憶を無くして最初に出会ったこの俺に懐いてしまったらしい。
 くっついて離れない上に、俺の姿が見えないと狂ったように泣いて暴れるので、落ち着くまでは側についているしかない」

「まあ、カエイン。まさか面倒くさがりのあなたがシアのお守りを、引き受けると言う気じゃないでしょうね?」

「むしろ喜んで引き受けうけるとも。こんなすこぶるいい女は滅多にいないからな」

 積極的なカエインの台詞を聞いて、エルメティア姫が赤い巻き髪を揺らしてケラケラと笑う。

「なーんだ、カエイン! そっち方面でシアを気に入ったのね。
 いいんじゃない? どうせシアのその様子じゃ、どこにも嫁ぐことは出来ないでしょうし、あなたの自由にしてもまったく問題ないわ!
 ――ねぇ、デリアン?」
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