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第二章「勇気ある者は……」
4、勇気ある者は……
切れ長の金色に輝く瞳と通った鼻筋を一瞥すると、私は瞼を閉じて冷たい唇を唇で受け止め、口中にカエインの舌を迎え入れてから――力いっぱい歯を噛みしめる!
――と、残念なことに舌を噛み切る前にカエインは身を起こして離れてしまう。
「……なんだ? あの二人に仕返しするために、やっと俺を受け入れる気になったのかと思ったら、違ったのか?
まさか先刻の会話を聞いても、まだデリアンに操を立てるつもりではないだろうな?」
カエインは唇から鮮血を垂らしながらも、からかうように笑った。
この男には人の痛みも心もないのだろうか?
「デリアンに操を立てる? 冗談でしょう?」
たしかに私が前世の頃、あんなにも王である夫に身を許すのが辛かったのは、恋仲だったジークフリードを深く愛していたからこそ。
復讐の手段を蹴り、塔から飛び降りてまでカエインを拒否したのも、結局のところ、デリアンへの愛を捨て切れなかったからだ――
――でも今は違う。愛した分だけデリアンが憎い!!――
私は瞑目し、今は愛のかわりにドロドロした怒りが煮えたぎり、憎しみのどす黒い炎が渦巻いている、自身の心の中を見つめた。
カエインに抱かれてデリアンへの復讐に協力させる?
気持ちが悪い!!
想像するだけで胸糞が悪くなって吐きそうになった私は、カッと瞳を見開くと噛みつくように叫ぶ。
「デリアンなど関係ない、嫌なものは嫌なのよ!!」
カエインはいったんペッと血の固まりを床に吐くと、あざ笑うような口調で問いかける。
「だが、嫌だからと言ってどうするのだ? 舌を噛んでも喉を短剣で突いても、窓から飛び降りても無駄なのはすでにお前も知っているだろう?」
「ええ、そうね」
私は一度頷いて言葉を受け止めてから、注意深くカエインを見つめたまま、素早く背後に下がって床へと降りる。
カエインの言うとおり、無力な小娘が武器もなしに、伝説級の魔法使いに逆らったところで無駄だろう。
――緊張しながら考える私の脳裏に母の声が蘇る――
『シア、お前が守護剣を呼べないのは、技量ではなく覚悟が足りないからよ!』
ことあるごとに母がそう指摘したのは、『戦女神アストレイシアの剣』と呼ばれる私の守護剣の柄に彫られている「勇気ある者はこの剣を取れ」という文言のせいだろう。
所詮、母が言うように『恋に負けてあの世に逃げる』意気無しでは、戦女神の名を冠した剣の使い手としては認められなかったのだ。
でも私はもうあの世になんかには逃げないし、いかなる理由があろうと、二度と男なんかのために自分で自分を「殺し」たりはしない!
「どうするって、そんなの決まっているでしょう――」
低く呟き、私はすっと真横に手を差し出す。
すると、まるでこの心に渦巻く憎しみのような黒炎が、私の右腕を取り巻き、やがて手の平に熱い柄の感触が触れる。
「バーン家の女子たるもの、この命尽きるまで全力で戦うのみよ!
失恋して自死するよりも、悪魔に身を汚されるのに抵抗して殺されるほうがずっと聞こえもいいし、家族も誇りに思ってくれるでしょうよ!!」
二度も自ら命を捨てて、本来ならとっくに死んでいたこの身には、もう怖いものなど何もない。
私は禍々しい黒い気を放つ白銀色の長剣を握り、剣先をカエインへと向けて構える。
カエインも床へと降りてベッドを挟んで私と向かい合った。
「驚いたな、シア、エティーの話と違って、お前も己の守護剣を呼び出すことができたのか」
正しく言うと今この瞬間に、初めて呼び寄せられるようになったのだが、この男に説明してやる義理もない。
かわりに言いたいことを遠慮なく吐き連ねてやる。
「大体普通は逆でしょう? 先に惚れさせてから抱きなさいよ!
まあエルメティアにもいいように利用されているだけで、まるで相手にされていないあなたじゃ、400年経っても無理でしょうけど!」
腕組みして立つカエインの眉がピクッと動く。
初めて少しは効いたのだろうか?
「本当にお前はゾクゾクするぐらい気性が荒く生意気な女だな」
「光栄な褒め言葉ね!」
「女に罵られるのは158年ぶりぐらいだ」
「長生きはするものでしょう?」
「そうだな。おかげで新しい趣味に目覚めそうだ」
カエインは笑いまじりに大きな溜め息をつくと、降参するように両手を上げた。
「シア、この部屋には俺の歴史といえるような大事なものが詰まっている。
頼むから短気を起こさず、その剣を下ろしてくれないか?」
言われてチラッと見回してみれば、部屋の壁を埋めている棚にはびっしりと物が並べられている。
「悪いけど、バーン家の教えでは、信用できない相手の前では、剣を下げずに会話することになってるの!」
「……そうか、分かった、ではこのままで会話することにしよう。
今日、庭で話を聞いていて分かったと思うが、あの二人に馬鹿にされているのは、何もお前だけじゃない。
エティーは俺に散々擦り寄って身を捧げてまで、父親に王位を取らせる協力をさせておきながら、戦いが終わったあとはお前も知っての通り、新しい男に一日中べったりだ」
私は眉をひそめて、カエインの台詞の一部を抜き出して復唱する。
「身を捧げる?」
エルメティアは父親を王にするために、この悪魔にその身を売った?
「デリアンはそのことを知ってるの?」
「さあ、知らんな。そこまで二人の会話を盗み聞きする趣味はない。
何にしても俺はお前の仲間だ――捨てられた哀れな者同士、あの二人に仕返しするために組まないか? シア」
――と、残念なことに舌を噛み切る前にカエインは身を起こして離れてしまう。
「……なんだ? あの二人に仕返しするために、やっと俺を受け入れる気になったのかと思ったら、違ったのか?
まさか先刻の会話を聞いても、まだデリアンに操を立てるつもりではないだろうな?」
カエインは唇から鮮血を垂らしながらも、からかうように笑った。
この男には人の痛みも心もないのだろうか?
「デリアンに操を立てる? 冗談でしょう?」
たしかに私が前世の頃、あんなにも王である夫に身を許すのが辛かったのは、恋仲だったジークフリードを深く愛していたからこそ。
復讐の手段を蹴り、塔から飛び降りてまでカエインを拒否したのも、結局のところ、デリアンへの愛を捨て切れなかったからだ――
――でも今は違う。愛した分だけデリアンが憎い!!――
私は瞑目し、今は愛のかわりにドロドロした怒りが煮えたぎり、憎しみのどす黒い炎が渦巻いている、自身の心の中を見つめた。
カエインに抱かれてデリアンへの復讐に協力させる?
気持ちが悪い!!
想像するだけで胸糞が悪くなって吐きそうになった私は、カッと瞳を見開くと噛みつくように叫ぶ。
「デリアンなど関係ない、嫌なものは嫌なのよ!!」
カエインはいったんペッと血の固まりを床に吐くと、あざ笑うような口調で問いかける。
「だが、嫌だからと言ってどうするのだ? 舌を噛んでも喉を短剣で突いても、窓から飛び降りても無駄なのはすでにお前も知っているだろう?」
「ええ、そうね」
私は一度頷いて言葉を受け止めてから、注意深くカエインを見つめたまま、素早く背後に下がって床へと降りる。
カエインの言うとおり、無力な小娘が武器もなしに、伝説級の魔法使いに逆らったところで無駄だろう。
――緊張しながら考える私の脳裏に母の声が蘇る――
『シア、お前が守護剣を呼べないのは、技量ではなく覚悟が足りないからよ!』
ことあるごとに母がそう指摘したのは、『戦女神アストレイシアの剣』と呼ばれる私の守護剣の柄に彫られている「勇気ある者はこの剣を取れ」という文言のせいだろう。
所詮、母が言うように『恋に負けてあの世に逃げる』意気無しでは、戦女神の名を冠した剣の使い手としては認められなかったのだ。
でも私はもうあの世になんかには逃げないし、いかなる理由があろうと、二度と男なんかのために自分で自分を「殺し」たりはしない!
「どうするって、そんなの決まっているでしょう――」
低く呟き、私はすっと真横に手を差し出す。
すると、まるでこの心に渦巻く憎しみのような黒炎が、私の右腕を取り巻き、やがて手の平に熱い柄の感触が触れる。
「バーン家の女子たるもの、この命尽きるまで全力で戦うのみよ!
失恋して自死するよりも、悪魔に身を汚されるのに抵抗して殺されるほうがずっと聞こえもいいし、家族も誇りに思ってくれるでしょうよ!!」
二度も自ら命を捨てて、本来ならとっくに死んでいたこの身には、もう怖いものなど何もない。
私は禍々しい黒い気を放つ白銀色の長剣を握り、剣先をカエインへと向けて構える。
カエインも床へと降りてベッドを挟んで私と向かい合った。
「驚いたな、シア、エティーの話と違って、お前も己の守護剣を呼び出すことができたのか」
正しく言うと今この瞬間に、初めて呼び寄せられるようになったのだが、この男に説明してやる義理もない。
かわりに言いたいことを遠慮なく吐き連ねてやる。
「大体普通は逆でしょう? 先に惚れさせてから抱きなさいよ!
まあエルメティアにもいいように利用されているだけで、まるで相手にされていないあなたじゃ、400年経っても無理でしょうけど!」
腕組みして立つカエインの眉がピクッと動く。
初めて少しは効いたのだろうか?
「本当にお前はゾクゾクするぐらい気性が荒く生意気な女だな」
「光栄な褒め言葉ね!」
「女に罵られるのは158年ぶりぐらいだ」
「長生きはするものでしょう?」
「そうだな。おかげで新しい趣味に目覚めそうだ」
カエインは笑いまじりに大きな溜め息をつくと、降参するように両手を上げた。
「シア、この部屋には俺の歴史といえるような大事なものが詰まっている。
頼むから短気を起こさず、その剣を下ろしてくれないか?」
言われてチラッと見回してみれば、部屋の壁を埋めている棚にはびっしりと物が並べられている。
「悪いけど、バーン家の教えでは、信用できない相手の前では、剣を下げずに会話することになってるの!」
「……そうか、分かった、ではこのままで会話することにしよう。
今日、庭で話を聞いていて分かったと思うが、あの二人に馬鹿にされているのは、何もお前だけじゃない。
エティーは俺に散々擦り寄って身を捧げてまで、父親に王位を取らせる協力をさせておきながら、戦いが終わったあとはお前も知っての通り、新しい男に一日中べったりだ」
私は眉をひそめて、カエインの台詞の一部を抜き出して復唱する。
「身を捧げる?」
エルメティアは父親を王にするために、この悪魔にその身を売った?
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