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第四章「歓喜の瞬間」
3、終わりなき苦しみ
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「……追っ手が来ているの? ……デリアンは……?」
荒い呼吸の合間になんとか声を絞りだす私を、カエインが憐れむような眼差しで見下ろす。
「死にかけていても気にするのはデリアンのことか……俺も他人のことは言えないが、つくづくお前は悲しい女だな、シア」
――息苦しさに言い返せないで見上げていると、急にカエインの手が輝きだし、放たれた光の塊がすーっと私の胸へと吸い込まれていった。
すると、焼けつくようだった肺が楽になり、話す余裕ができた私はさっそく憎まれ口を叩く。
「……わざわざ冥府から……惨めな私を笑いに来たの……?」
「生憎、笑い者にしようにも、俺自身のほうが悲惨さではシアを上回っている。
なにせ信頼を得ようと散々尽した返礼が、冷たい剣での心臓への一刺しだったのだからな」
カエインは苦笑しながら地面に腰を落とすと、溜め息を一つ挟み、話題を最初に戻す。
「安心しろシア。お前の元婚約者なら誰もついてこれない人外の速度で、先頭きってここへ向かっているところだ。あといくらも待たずに再会出来るだろう」
「そう……」
どうやら死ぬ前にデリアンに会えそうだと、ほっと安堵の息をつく私の目尻をぬるい涙が伝う。
そこでカエインはすっと笑いをおさめ、真顔を寄せてきた。
「なあ、教えてくれ、シア。
なぜ俺を殺した?
セドリックを逃がすことでも、何でもお前の願いならば叶えたものを……。
俺の誠意は足りなかったのか?」
カエインの問いに私は苛立ちをこめて返す。
「いいえ、足りないどころか余分だったわよ。
私のほうこそ教え欲しいわ、カエイン。
どうして私にあんなドレスを贈り、わざわざ飾り立てて、パーティー会場では周囲から庇ったりしたの?
どうして私の願いを全て叶え、意志も尊重したうえ、子供が欲しいなんていう個人的な話までしたの?
どうして、デリアンに捨てられた無価値な私を、まるで特別な存在のように扱ったのよ!
そうじゃなければあなたを殺しても心なんて痛まず、つまらないへまだってしなかったのに――
私が今もこんなに苦しいのは全部あなたのせいよ!」
激情に震えて両瞳から涙をこぼす私を、カエインが痛みの表情で見つめる。
「シア……!?」
我ながら酷い八つ当たりだと分かっていても、自らへの情けなさと、デリアンに恨みを晴らせない無念さから暴言が止まらない。
「無理やり私を生かした残酷なあなたに比べ、最後に夢を見せて、気分がいいうちに殺してあげた私は優しかったでしょう?
だって私なら叶いもしない恋や夢を抱えて、退屈な人生を惰性で生きるより、早めに楽になりたいもの……。
そうよ、私はデリアンに愛されているという希望を失わないうちに死にたかったのに!
どうしてあなたは死のうとするのを二度も止めたの?
おかげであれから私はずっと生き地獄よ!
――ああ、カエイン、苦しいわ……きっとこの苦しみは死んでも終わらない……!
ねぇ、どうして、私はデリアンとの結婚を心待ちにしていた幸せな頃に死ねなかったのかしら?
ううん、その前に、生まれ変わってもジークと結ばれることができないなら、永遠にアロイーズ川の底で来世を夢みて眠っていたかった……!」
ひたすら今は、叶わぬ夢を見せたジークと、それを踏みつけにしたデリアンが憎い。
やや錯乱しながら恨めしさに涙した時、がばっ、とカエインが覆いかぶさってきて――
「ああ、悪いのは全部この俺だ!」
想いをこめるように叫んで私の身体をかき抱いた。
その力強い両腕と固い胸の感触に、ようやく私は、彼の存在が幻覚や亡霊でないことを悟る。
「……カエイン……あなた生きているの?」
震える声で、今更ながらの間抜けな質問をする私の顔を、カエインは大きな両手で挟み、
「俺がお前の苦しみを解いてやる」
宣言するように告げると、いきなり熱い唇を重ねてきた。
「……!?」
――と、合わさった口から、温かい波動が身体の中へと流れ込んできて――手足の末端まで生気が伝わってゆくのを感じる。
それは魔法というより、まるで命を分け与えられているような不思議な感覚だった。
荒い呼吸の合間になんとか声を絞りだす私を、カエインが憐れむような眼差しで見下ろす。
「死にかけていても気にするのはデリアンのことか……俺も他人のことは言えないが、つくづくお前は悲しい女だな、シア」
――息苦しさに言い返せないで見上げていると、急にカエインの手が輝きだし、放たれた光の塊がすーっと私の胸へと吸い込まれていった。
すると、焼けつくようだった肺が楽になり、話す余裕ができた私はさっそく憎まれ口を叩く。
「……わざわざ冥府から……惨めな私を笑いに来たの……?」
「生憎、笑い者にしようにも、俺自身のほうが悲惨さではシアを上回っている。
なにせ信頼を得ようと散々尽した返礼が、冷たい剣での心臓への一刺しだったのだからな」
カエインは苦笑しながら地面に腰を落とすと、溜め息を一つ挟み、話題を最初に戻す。
「安心しろシア。お前の元婚約者なら誰もついてこれない人外の速度で、先頭きってここへ向かっているところだ。あといくらも待たずに再会出来るだろう」
「そう……」
どうやら死ぬ前にデリアンに会えそうだと、ほっと安堵の息をつく私の目尻をぬるい涙が伝う。
そこでカエインはすっと笑いをおさめ、真顔を寄せてきた。
「なあ、教えてくれ、シア。
なぜ俺を殺した?
セドリックを逃がすことでも、何でもお前の願いならば叶えたものを……。
俺の誠意は足りなかったのか?」
カエインの問いに私は苛立ちをこめて返す。
「いいえ、足りないどころか余分だったわよ。
私のほうこそ教え欲しいわ、カエイン。
どうして私にあんなドレスを贈り、わざわざ飾り立てて、パーティー会場では周囲から庇ったりしたの?
どうして私の願いを全て叶え、意志も尊重したうえ、子供が欲しいなんていう個人的な話までしたの?
どうして、デリアンに捨てられた無価値な私を、まるで特別な存在のように扱ったのよ!
そうじゃなければあなたを殺しても心なんて痛まず、つまらないへまだってしなかったのに――
私が今もこんなに苦しいのは全部あなたのせいよ!」
激情に震えて両瞳から涙をこぼす私を、カエインが痛みの表情で見つめる。
「シア……!?」
我ながら酷い八つ当たりだと分かっていても、自らへの情けなさと、デリアンに恨みを晴らせない無念さから暴言が止まらない。
「無理やり私を生かした残酷なあなたに比べ、最後に夢を見せて、気分がいいうちに殺してあげた私は優しかったでしょう?
だって私なら叶いもしない恋や夢を抱えて、退屈な人生を惰性で生きるより、早めに楽になりたいもの……。
そうよ、私はデリアンに愛されているという希望を失わないうちに死にたかったのに!
どうしてあなたは死のうとするのを二度も止めたの?
おかげであれから私はずっと生き地獄よ!
――ああ、カエイン、苦しいわ……きっとこの苦しみは死んでも終わらない……!
ねぇ、どうして、私はデリアンとの結婚を心待ちにしていた幸せな頃に死ねなかったのかしら?
ううん、その前に、生まれ変わってもジークと結ばれることができないなら、永遠にアロイーズ川の底で来世を夢みて眠っていたかった……!」
ひたすら今は、叶わぬ夢を見せたジークと、それを踏みつけにしたデリアンが憎い。
やや錯乱しながら恨めしさに涙した時、がばっ、とカエインが覆いかぶさってきて――
「ああ、悪いのは全部この俺だ!」
想いをこめるように叫んで私の身体をかき抱いた。
その力強い両腕と固い胸の感触に、ようやく私は、彼の存在が幻覚や亡霊でないことを悟る。
「……カエイン……あなた生きているの?」
震える声で、今更ながらの間抜けな質問をする私の顔を、カエインは大きな両手で挟み、
「俺がお前の苦しみを解いてやる」
宣言するように告げると、いきなり熱い唇を重ねてきた。
「……!?」
――と、合わさった口から、温かい波動が身体の中へと流れ込んできて――手足の末端まで生気が伝わってゆくのを感じる。
それは魔法というより、まるで命を分け与えられているような不思議な感覚だった。
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