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第四章「歓喜の瞬間」
4、殺した理由
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そうして深い口づけをしたあとカエインの唇が離れ、呆然としている私を、間近から潤んだ金色の瞳が見つめる。
「さっきの問いの返事だが、シアに尽くす理由は”300年ぶり”に俺が惹かれた相手だからだ」
「300年……?」
「正確に言うと297年前に、俺は初恋の相手を失い、それ以来シアに会うまで、一人たりともこの心を動かす女とは出会えなかった」
私はカエインの言葉に軽い衝撃を受ける。
「あなたはエルメティアのことが、好きだったのではなかったの?」
「いいや、エティーとは縁あって、好きになれるかと僅かに期待していたが……結局、抱いてみても駄目だった……」
遠い目をして少し無言になってから、カエインは気を取り直したように口を開く。
「あとは最後の問いの答えだが、見ての通り、この俺は簡単に死ねことができない。
だからあっさり死んで楽になれるお前に嫉妬して、つい邪魔したくなったのかもしれない……」
「……死ねない……?」
「ああ、俺の命の核は心臓ではなく、臍の部分にある『賢者の珠』だ。
それゆえに俺は滅多な傷では死なず、老いることもない不老不死の身だ」
「――!?」
驚くべき自身の秘密を明かすと、カエインは真剣な表情で私の瞳を見据える。
「さあ、シア、次はお前が俺の質問に答える番だ。もう一度訊く。
どうして俺を殺した?
前王を裏切った俺はどうあっても信じるに値しなかったか?
それとも二度もお前が死ぬのを邪魔した恨みゆえか?」
まっすぐ射貫くようなカエインの眼差しに捕まり、逃げ場のない思いで私は自身の心を直視する。
バーン家の家訓に始まり、脱獄と逃走の邪魔をされたり追っ手となる可能性や、敵に回すと後々の驚異となることなど、カエインを殺す理由は無数にあった。
――しかし私がカエインを手にかけた一番の動機は――
「あなたを信じて、いつか裏切られるのが怖かったからよ……!」
叫んで白状してから、言い訳を続ける。
「デリアンに捨てられた魅力のない私に、あなたのような男が惹かれるわけがない。
今は単に面白がっているだけで、そのうち飽きると分かっていたんだもの……」
カエインは私の両肩を抱く腕に力をこめ、強くかぶりを振った。
「そんなことはない。デリアンが愚かなだけで、シアは俺が今まで出会った中で一番魅力的な女性だ!」
私は近過ぎるカエインの顔から目を反らす。
「それにたとえあなたの告白が真実であっても、私はその気持ちに応えることはできないわ。
愛人にはなれないし、結婚する気も、子供を産むつもりもない。そのことをいつかあなたが恨みに思う日がくるかもしれない」
「そうはならないし、俺はお前を決して裏切らないとこの命に賭けて誓おう! もしも信じられないなら、今ここで俺を殺すがいい。
普通の剣では『賢者の珠』は破壊できないので、必ず守護剣を使い、臍を狙って突き刺せば、確実に俺を殺すことができる」
「カエイン様、止めて下さい!?
アレイシア様なら本気でやりかねませんよ!」
焦ったような声がして、見るといつの間にかレイヴンが近くにいて、セドリックの上に屈み込んでいた。
「別に構わないとも。シアに殺されるなら本望だ」
「あなたが構わなくても、世界中の魔法使いが困ります!」
レイヴンの力いっぱいの忠告を聞き流し、カエインはセドリックに視線を移す。
「さあ、シア、時間がない。俺を信じるか殺すか決めてくれ。
脅すわけではないが、早くしないと、お前の大切な親友が死んでしまう。
俺は数百年生きているので疫病にもかなり詳しいが、黒死病で肺を直接やられた者はもっても、せいぜい二、三日の命だ」
言われた私は、はっとして、セドリックを見下ろす。
レイヴンもカエインに同意するように重く頷く。
「カエイン様のおっしゃるように黒死病であるなら、血液から侵されていくより、肺から病んだほうが症状の進みが早い。
――私が診たところ、セドリック様の心臓はすでに弱って止まりかけています。
そして残念ながら『魔法』では疫病を治すことはできません。
この世界でセドリック様を救えるのは、カエイン様ただお一人です」
「――さあ、長話している間に、そろそろデリアンが駆けつけてくる頃合だ。
そうなればセドリックを助ける暇はない。今すぐどうするか決断してくれシア」
そんなの、選ぶまでもなく、このままセドリックを見殺しにするわけにはいかない。
迷いなく私は懇願の叫びをあげる。
「あなたを信じるわ! だからお願いカエイン、セドリックを助けて!」
「分かった」
カエインは嬉しそうな表情で頷き、私から両腕をほどくと、隣に横たわるセドリックの胸の中央に手を当てる。
――と、触れた箇所からまばゆい光が起こり、薄暗い洞窟内を明るく照らしたあと、おもむろにカエインが手を離した。
「これでセドリックが死ぬことはない……。
しかし二人に生気を分けた今の俺には、アロイスはともかく、デリアンと戦うような余力は残されていない――ここは早めにこの場から退散するのが賢明だろう」
カエインだけではなく、私の身体も重くて本調子とはほど遠い。
「でも、どうやって逃げるの?」
いくらカエインでも三人も抱えて飛べるとは思えない。
疑問に答えるかわりに、カエインはバサッとマントを広げ、刹那、漆黒に渦巻く疾風が起こる。
――数瞬後、目の前に出現したのは、人の身の丈の二倍以上ある、真っ黒で巨大な鳥だった――
「さっきの問いの返事だが、シアに尽くす理由は”300年ぶり”に俺が惹かれた相手だからだ」
「300年……?」
「正確に言うと297年前に、俺は初恋の相手を失い、それ以来シアに会うまで、一人たりともこの心を動かす女とは出会えなかった」
私はカエインの言葉に軽い衝撃を受ける。
「あなたはエルメティアのことが、好きだったのではなかったの?」
「いいや、エティーとは縁あって、好きになれるかと僅かに期待していたが……結局、抱いてみても駄目だった……」
遠い目をして少し無言になってから、カエインは気を取り直したように口を開く。
「あとは最後の問いの答えだが、見ての通り、この俺は簡単に死ねことができない。
だからあっさり死んで楽になれるお前に嫉妬して、つい邪魔したくなったのかもしれない……」
「……死ねない……?」
「ああ、俺の命の核は心臓ではなく、臍の部分にある『賢者の珠』だ。
それゆえに俺は滅多な傷では死なず、老いることもない不老不死の身だ」
「――!?」
驚くべき自身の秘密を明かすと、カエインは真剣な表情で私の瞳を見据える。
「さあ、シア、次はお前が俺の質問に答える番だ。もう一度訊く。
どうして俺を殺した?
前王を裏切った俺はどうあっても信じるに値しなかったか?
それとも二度もお前が死ぬのを邪魔した恨みゆえか?」
まっすぐ射貫くようなカエインの眼差しに捕まり、逃げ場のない思いで私は自身の心を直視する。
バーン家の家訓に始まり、脱獄と逃走の邪魔をされたり追っ手となる可能性や、敵に回すと後々の驚異となることなど、カエインを殺す理由は無数にあった。
――しかし私がカエインを手にかけた一番の動機は――
「あなたを信じて、いつか裏切られるのが怖かったからよ……!」
叫んで白状してから、言い訳を続ける。
「デリアンに捨てられた魅力のない私に、あなたのような男が惹かれるわけがない。
今は単に面白がっているだけで、そのうち飽きると分かっていたんだもの……」
カエインは私の両肩を抱く腕に力をこめ、強くかぶりを振った。
「そんなことはない。デリアンが愚かなだけで、シアは俺が今まで出会った中で一番魅力的な女性だ!」
私は近過ぎるカエインの顔から目を反らす。
「それにたとえあなたの告白が真実であっても、私はその気持ちに応えることはできないわ。
愛人にはなれないし、結婚する気も、子供を産むつもりもない。そのことをいつかあなたが恨みに思う日がくるかもしれない」
「そうはならないし、俺はお前を決して裏切らないとこの命に賭けて誓おう! もしも信じられないなら、今ここで俺を殺すがいい。
普通の剣では『賢者の珠』は破壊できないので、必ず守護剣を使い、臍を狙って突き刺せば、確実に俺を殺すことができる」
「カエイン様、止めて下さい!?
アレイシア様なら本気でやりかねませんよ!」
焦ったような声がして、見るといつの間にかレイヴンが近くにいて、セドリックの上に屈み込んでいた。
「別に構わないとも。シアに殺されるなら本望だ」
「あなたが構わなくても、世界中の魔法使いが困ります!」
レイヴンの力いっぱいの忠告を聞き流し、カエインはセドリックに視線を移す。
「さあ、シア、時間がない。俺を信じるか殺すか決めてくれ。
脅すわけではないが、早くしないと、お前の大切な親友が死んでしまう。
俺は数百年生きているので疫病にもかなり詳しいが、黒死病で肺を直接やられた者はもっても、せいぜい二、三日の命だ」
言われた私は、はっとして、セドリックを見下ろす。
レイヴンもカエインに同意するように重く頷く。
「カエイン様のおっしゃるように黒死病であるなら、血液から侵されていくより、肺から病んだほうが症状の進みが早い。
――私が診たところ、セドリック様の心臓はすでに弱って止まりかけています。
そして残念ながら『魔法』では疫病を治すことはできません。
この世界でセドリック様を救えるのは、カエイン様ただお一人です」
「――さあ、長話している間に、そろそろデリアンが駆けつけてくる頃合だ。
そうなればセドリックを助ける暇はない。今すぐどうするか決断してくれシア」
そんなの、選ぶまでもなく、このままセドリックを見殺しにするわけにはいかない。
迷いなく私は懇願の叫びをあげる。
「あなたを信じるわ! だからお願いカエイン、セドリックを助けて!」
「分かった」
カエインは嬉しそうな表情で頷き、私から両腕をほどくと、隣に横たわるセドリックの胸の中央に手を当てる。
――と、触れた箇所からまばゆい光が起こり、薄暗い洞窟内を明るく照らしたあと、おもむろにカエインが手を離した。
「これでセドリックが死ぬことはない……。
しかし二人に生気を分けた今の俺には、アロイスはともかく、デリアンと戦うような余力は残されていない――ここは早めにこの場から退散するのが賢明だろう」
カエインだけではなく、私の身体も重くて本調子とはほど遠い。
「でも、どうやって逃げるの?」
いくらカエインでも三人も抱えて飛べるとは思えない。
疑問に答えるかわりに、カエインはバサッとマントを広げ、刹那、漆黒に渦巻く疾風が起こる。
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