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第六章「結びあう魂」
10、デリアン
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「いい加減にして、デリアン!
私の苦しみがいまだに続いているのは生きているせいなのよ?
この世に生き地獄より辛いものはない。
あなたはあの時、私を死なせて、楽にさせてくれるべきだったんだわ!」
深い恨みを込め、デリアンに先制して復讐の女神の剣を振り下ろす。
「止せ、聞くんだ、アレイシア!」
制止の声に重なり、ガキィィン、と鋭い金属音が鳴った刹那、ぶつかった黄金の光と黒炎の炎の力が反発しあい、派手な爆風が起こる。
「くっ……」
目を細めて風圧をやり過ごしていると、唸りをあげた狂戦士の剣が迫ってきた。
すんでで復讐の女神の剣をぶつけて弾き返すも、これまでやり合った相手とは段違いの攻撃力に、反動で体勢を崩してしまう。
「あっ」
ところが、デリアンは追撃をせず、苦悩に満ちた表情を浮かべて呟く。
「強さを選ぶ者は、この剣を取れ」
「え?」
何を言ってるのかと一瞬思いかけてから、守護剣の覚醒条件の話を思いだす。
「俺はずっとこの狂戦士の剣の柄に刻まれた言葉の意味が分からなかった。
だが、先の内乱で、レスター王子に刺されて深手を負い、死の淵をさまよった際――俺は前世の記憶を思い出すとともに悟ったのだ。
狂戦士の剣を極めるためには、最も大切な物を、お前への愛を捨てて、強さを選ばなければならないのだと――」
「――っ!?」
初めてデリアンの口から明かされた、すでに記憶を思い出していたという驚愕の事実よりも、生まれて初めて告げられた「愛」という言葉が、私の心を強く揺さぶる。
「――そう確信して、決意したとたん、かつてないほどの力が狂戦士の剣に満ち、柄に刻まれた文字が『最強の者は孤独』というものに変わっていた……」
まさに私の復讐の前提がすべてひっくり返る、デリアンの衝撃の告白に、全身が動揺で震え、頭が混乱してしまう。
『心配するな。必ずシアの元へ戻ってくる。
戦いが終わったら、すぐに結婚しよう』
では、デリアンは約束通り、レスター王子の剣を受けて生死の境をさまようまで、私の元へ戻ってくるつもりだったのだ。
『どうしても僕には理解できない……エティーは分かるけど、デリアンはなぜ君にここまでの惨い仕打ちを?
間違いなく彼は君に好意を抱いていたはずなのに……いったい何があって急に豹変したんだ?』
いつだかセドリックが言っていた疑問の答え――デリアンの心変わりの転機が今こそ明らかになる――
守護剣の覚醒条件の問いの答えが分かり、文字どおり強さか愛を選んだときだったのだ……。
――しばらく絶句したのち、血を吐く思いで問う。
「つまり、私を捨てたのも、エルメティアを選んだのも、すべては強くなるためだったというわけ?」
恋ゆえの盲目でデリアンはエルメティアに夢中なのだとすっかり思いこんでいたが、目の曇が晴れた今ようやく真実が見える。
彼の胸に燃えるのは、恋ではなく野心の炎だったのだと。
「もちろんそれだけではない、生まれ変わる前の記憶を思い出したからこそ、絶対に同じ過ちを繰り返すわけにはいかなかった」
「過ち?」
「そうだ、アレイシア。お前も知っているだろう?
俺達が死んだすぐあとに、ラキュア王国がどうなったのか?
世継ぎの王子の立場と、嫉妬深く復讐心の強い父の性格を思えば、王妃であるお前は決して手折ってはいけない花だと、そう分かっていたのに……。
その色香に惑い、初めての恋に目がくらみ、求める感情と欲望にあらがえなかった結果、大きく道を踏み外してしまった。
お前の愛ゆえに、俺は破滅した!!」
魂の底から絞り出すようなデリアンの叫びが、その時、私の心に激しい嵐を巻き起こす。
なんという運命の皮肉。あれほど私が待ち望んでいたジークフリードの記憶を取り戻すことが、決定的にデリアンの心を遠ざけた理由だったなんて――
「だからこそ俺は今生こそ王となり、この手で愛する国を守ると決めたのだ。
無駄な争いを生み出した災厄の種であるお前には、とうてい理解できないだろうな!」
私への非難で締めくくられたデリアンの弁明を聞き、納得するどころか却ってこれまでよりも深く絶望的な、新たな恨みの感情に心が飲み込まれてゆく。
「長々言い訳を語ってくれたけど、いったい何なの?
自分の弱さも何もかもを私のせいにして……!
だったら前世、一緒に死ぬ時に恨み言を言ってくれたら良かったじゃない!?」
「……それは……!?」
ジークフリードとしての記憶が戻っていたということは、つまりデリアンは今生の私だけではなく、前世の愛も誓いも一緒に捨てたということだ。
私の唯一の心の拠り所だった、ジークフリードの愛までもが、今完全に否定された。
逆恨みだと分かっていても、憎悪と悲しみが溢れて止まらない。
「ねぇ、教えてよ!! なぜ、もっと早く、私がこうなる前に、事情を話してくれなかったの?
最初に教えてくれていれば、あなたに復讐しようなんて絶対に思わなかった。
私一人がこの世から消えるだけで終わる話だったのよ……!
母を殺し、親友を死なせ、幼馴染を葬る必要などなかったのに!!」
よりにもよって、何もかもが取り返しのつかない段階になってから、初めて告白したデリアンがどうしても許せない!!
すべての真実を知った今だからこそ、かつてないほどの大きな怒りの炎が心に燃えたぎる。
『魂を燃やす魔法剣の力は、使い手の『想い』の強さに比例する』
いつだかセドリックが言っていた言葉を証明するように、激情が業火となって復讐の剣を芯にぶわっと燃え盛り、狂戦士の剣から放たれる黄金の光を圧倒して暗く覆ってゆく。
「あなたの話はよーく、分かったわ、デリアン!!
もう充分だから、死んで黙ってちょうだい……!!」
私の苦しみがいまだに続いているのは生きているせいなのよ?
この世に生き地獄より辛いものはない。
あなたはあの時、私を死なせて、楽にさせてくれるべきだったんだわ!」
深い恨みを込め、デリアンに先制して復讐の女神の剣を振り下ろす。
「止せ、聞くんだ、アレイシア!」
制止の声に重なり、ガキィィン、と鋭い金属音が鳴った刹那、ぶつかった黄金の光と黒炎の炎の力が反発しあい、派手な爆風が起こる。
「くっ……」
目を細めて風圧をやり過ごしていると、唸りをあげた狂戦士の剣が迫ってきた。
すんでで復讐の女神の剣をぶつけて弾き返すも、これまでやり合った相手とは段違いの攻撃力に、反動で体勢を崩してしまう。
「あっ」
ところが、デリアンは追撃をせず、苦悩に満ちた表情を浮かべて呟く。
「強さを選ぶ者は、この剣を取れ」
「え?」
何を言ってるのかと一瞬思いかけてから、守護剣の覚醒条件の話を思いだす。
「俺はずっとこの狂戦士の剣の柄に刻まれた言葉の意味が分からなかった。
だが、先の内乱で、レスター王子に刺されて深手を負い、死の淵をさまよった際――俺は前世の記憶を思い出すとともに悟ったのだ。
狂戦士の剣を極めるためには、最も大切な物を、お前への愛を捨てて、強さを選ばなければならないのだと――」
「――っ!?」
初めてデリアンの口から明かされた、すでに記憶を思い出していたという驚愕の事実よりも、生まれて初めて告げられた「愛」という言葉が、私の心を強く揺さぶる。
「――そう確信して、決意したとたん、かつてないほどの力が狂戦士の剣に満ち、柄に刻まれた文字が『最強の者は孤独』というものに変わっていた……」
まさに私の復讐の前提がすべてひっくり返る、デリアンの衝撃の告白に、全身が動揺で震え、頭が混乱してしまう。
『心配するな。必ずシアの元へ戻ってくる。
戦いが終わったら、すぐに結婚しよう』
では、デリアンは約束通り、レスター王子の剣を受けて生死の境をさまようまで、私の元へ戻ってくるつもりだったのだ。
『どうしても僕には理解できない……エティーは分かるけど、デリアンはなぜ君にここまでの惨い仕打ちを?
間違いなく彼は君に好意を抱いていたはずなのに……いったい何があって急に豹変したんだ?』
いつだかセドリックが言っていた疑問の答え――デリアンの心変わりの転機が今こそ明らかになる――
守護剣の覚醒条件の問いの答えが分かり、文字どおり強さか愛を選んだときだったのだ……。
――しばらく絶句したのち、血を吐く思いで問う。
「つまり、私を捨てたのも、エルメティアを選んだのも、すべては強くなるためだったというわけ?」
恋ゆえの盲目でデリアンはエルメティアに夢中なのだとすっかり思いこんでいたが、目の曇が晴れた今ようやく真実が見える。
彼の胸に燃えるのは、恋ではなく野心の炎だったのだと。
「もちろんそれだけではない、生まれ変わる前の記憶を思い出したからこそ、絶対に同じ過ちを繰り返すわけにはいかなかった」
「過ち?」
「そうだ、アレイシア。お前も知っているだろう?
俺達が死んだすぐあとに、ラキュア王国がどうなったのか?
世継ぎの王子の立場と、嫉妬深く復讐心の強い父の性格を思えば、王妃であるお前は決して手折ってはいけない花だと、そう分かっていたのに……。
その色香に惑い、初めての恋に目がくらみ、求める感情と欲望にあらがえなかった結果、大きく道を踏み外してしまった。
お前の愛ゆえに、俺は破滅した!!」
魂の底から絞り出すようなデリアンの叫びが、その時、私の心に激しい嵐を巻き起こす。
なんという運命の皮肉。あれほど私が待ち望んでいたジークフリードの記憶を取り戻すことが、決定的にデリアンの心を遠ざけた理由だったなんて――
「だからこそ俺は今生こそ王となり、この手で愛する国を守ると決めたのだ。
無駄な争いを生み出した災厄の種であるお前には、とうてい理解できないだろうな!」
私への非難で締めくくられたデリアンの弁明を聞き、納得するどころか却ってこれまでよりも深く絶望的な、新たな恨みの感情に心が飲み込まれてゆく。
「長々言い訳を語ってくれたけど、いったい何なの?
自分の弱さも何もかもを私のせいにして……!
だったら前世、一緒に死ぬ時に恨み言を言ってくれたら良かったじゃない!?」
「……それは……!?」
ジークフリードとしての記憶が戻っていたということは、つまりデリアンは今生の私だけではなく、前世の愛も誓いも一緒に捨てたということだ。
私の唯一の心の拠り所だった、ジークフリードの愛までもが、今完全に否定された。
逆恨みだと分かっていても、憎悪と悲しみが溢れて止まらない。
「ねぇ、教えてよ!! なぜ、もっと早く、私がこうなる前に、事情を話してくれなかったの?
最初に教えてくれていれば、あなたに復讐しようなんて絶対に思わなかった。
私一人がこの世から消えるだけで終わる話だったのよ……!
母を殺し、親友を死なせ、幼馴染を葬る必要などなかったのに!!」
よりにもよって、何もかもが取り返しのつかない段階になってから、初めて告白したデリアンがどうしても許せない!!
すべての真実を知った今だからこそ、かつてないほどの大きな怒りの炎が心に燃えたぎる。
『魂を燃やす魔法剣の力は、使い手の『想い』の強さに比例する』
いつだかセドリックが言っていた言葉を証明するように、激情が業火となって復讐の剣を芯にぶわっと燃え盛り、狂戦士の剣から放たれる黄金の光を圧倒して暗く覆ってゆく。
「あなたの話はよーく、分かったわ、デリアン!!
もう充分だから、死んで黙ってちょうだい……!!」
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