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第六章「結びあう魂」
11、最期の願い
復讐の女神の化身なった私は高く剣を構げ、今こそ渾身の恨みを込めて、巨大な蛇のような黒炎に巻かれた守護剣をデリアンへと振り落とす。
裁き
「ああ、命も、立場も、自分の持てるすべてを投げ捨てても惜しくないほど、盲目的にお前を愛していた。
そんな前世の自分に心が引き戻されるのが怖くて、お前に真実を話せなかったことこそが、俺の最大の弱さで過ちだ、アレイシア――いいや――フローラ!」
――不意打ちのように、前世の名前を呼ばれた瞬間――
ジークフリードと愛し合っていた頃の感情が鮮やかに蘇り、ぎゅっと心臓が掴まれたようになって、無意識に動きが止まってしまう。
その隙を突いてデリアンが守護剣を繰り出し――鋭い一閃が私の腹を刺し貫いた――
「がはっ……!?」
狂戦士の剣で串刺しにされた私は、まるでリューク王の死を再現するように、馬から落下しながら、悟る。
ああ、そうか。
最初から私に勝ち目などなかった。
結局最後は、より愛しているほうが、負けてしまうのだ……。
だけど、こうなってみても少しも悔しくはなく、胸に湧き上がってくるのは安堵感のみだった。
そこでようやく自分の復讐の最終的な望みが、デリアンを殺すことではなく、殺されることだったのだと気がつく。
同時にあまりの己の憐れさ加減に笑いを禁じ得ず、喉から変な声が漏れる。
「ありがとう、デリアン……! これで、ようやく死ねるわ。
なぜ最初から、こうしてくれなかったの……?
そうしたら無駄に苦しまなくて済んだのに……!」
皮肉たっぷりにお礼を言うと、残された力で腹に突き刺さった狂戦士の剣を引き抜く。
すると、栓を抜いたように、盛大に血が吹き出した。
「ああっ……アレイシア、許してくれ……!!」
デリアンは馬から転げ落ちるように降りて、私の身体をかき抱く。
「一緒になれなくても、お前がこの世から消えるのだけは、どうしても耐えられなかった……!?
来世こそ結ばれたいと願ったのも、永遠の愛を誓った心も嘘じゃない。
誰よりも愛しているんだ、シア……!!」
黄金色の髪をふり乱し、両瞳から涙を吹きこぼして咆哮する、デリアンの悲痛な顔を見上げながら、私は満足の笑みを浮かべる。
最期にデリアンの胸を深くえぐって私を刻みつけることができた……。
前世からずっと、ずっと、あなただけを愛し、見つめ、結ばれて幸せになることだけを夢見てきた。
真実のあなたの心を見ようともせずに、自分勝手な夢を押しつけて……。
でも、もうそれも今生でお終いにする。
強くそう決意した私は、渾身の力を振り絞って叫ぶ。
「お願い、カエイン、私を連れて行って!
デリアンの腕の中では死にたくないの!」
直後――漆黒の疾風が走り抜け――
気がつくと、私はいつかのように、カエインの両腕に抱きかかえられていた。
翼を広げて飛ぶカエインに抱かれて、夕闇に染まり始めた上空を飛んでいく。
「最期まで世話かけるわね……カエイン……」
出会ってからそんなに経たないのに、彼との間には驚くほどたくさんの思い出があった。
おかげで最初に自殺を妨害された時と今では、ずいぶん関係が変わっている。
カエインは約束を守って戦闘中いっさい手を出さず、今も私を治療しないで横抱きにしているだけだった。
「シア、お願いだから、俺に助けろと命令してくれ」
カエインの必死の懇願に、私は迷いなくかぶりをふる。
「……それはどうしてもできないわ……あなたには何も返さずに申し訳ないけど……」
母に誓ったように、今から冥府の監獄で犯した罪の償いをしなければならない。
カエインは長い睫毛を伏せて、ふうっと溜め息をつく。
「本気で俺に悪いと思っているなら、今後生まれ変わったら、あんな下らない男に執着するのは止すんだな」
「……止すもなにも、私怨を果たすためだけに実の母を手にかけた私は……間違いなく冥府の監獄行きよ……。
だから、これであなたともさようならね……カエイン……」
力なく笑い、見上げたカエインの顔は、なぜだか涙一粒流していないのに泣いているように見えた。
「シアの口から別れの言葉など聞きたくない」
「……いろいろありがとう……ごめんなさい……」
なんとか最後の気力を使って謝罪と別れの言葉を伝えると、急速に視界と意識が闇に飲まれていった。
薄れゆき、遠ざかる意識の中、切に願う。
他人をも破滅に巻きこんだ、独りよがりで苦しいだけの、私の愛。
どうかこの身から溢れ出る血のように、この魂からすべて流れだし、残らず無くなって欲しいと――
そして、もしもいつか罪の償いが終わり、冥府の監獄から出られる日がきたとして――その時にあなたがまだ一人だったなら……。
今度こそ必ず借りを返すわ。
――私の魔法使い――
裁き
「ああ、命も、立場も、自分の持てるすべてを投げ捨てても惜しくないほど、盲目的にお前を愛していた。
そんな前世の自分に心が引き戻されるのが怖くて、お前に真実を話せなかったことこそが、俺の最大の弱さで過ちだ、アレイシア――いいや――フローラ!」
――不意打ちのように、前世の名前を呼ばれた瞬間――
ジークフリードと愛し合っていた頃の感情が鮮やかに蘇り、ぎゅっと心臓が掴まれたようになって、無意識に動きが止まってしまう。
その隙を突いてデリアンが守護剣を繰り出し――鋭い一閃が私の腹を刺し貫いた――
「がはっ……!?」
狂戦士の剣で串刺しにされた私は、まるでリューク王の死を再現するように、馬から落下しながら、悟る。
ああ、そうか。
最初から私に勝ち目などなかった。
結局最後は、より愛しているほうが、負けてしまうのだ……。
だけど、こうなってみても少しも悔しくはなく、胸に湧き上がってくるのは安堵感のみだった。
そこでようやく自分の復讐の最終的な望みが、デリアンを殺すことではなく、殺されることだったのだと気がつく。
同時にあまりの己の憐れさ加減に笑いを禁じ得ず、喉から変な声が漏れる。
「ありがとう、デリアン……! これで、ようやく死ねるわ。
なぜ最初から、こうしてくれなかったの……?
そうしたら無駄に苦しまなくて済んだのに……!」
皮肉たっぷりにお礼を言うと、残された力で腹に突き刺さった狂戦士の剣を引き抜く。
すると、栓を抜いたように、盛大に血が吹き出した。
「ああっ……アレイシア、許してくれ……!!」
デリアンは馬から転げ落ちるように降りて、私の身体をかき抱く。
「一緒になれなくても、お前がこの世から消えるのだけは、どうしても耐えられなかった……!?
来世こそ結ばれたいと願ったのも、永遠の愛を誓った心も嘘じゃない。
誰よりも愛しているんだ、シア……!!」
黄金色の髪をふり乱し、両瞳から涙を吹きこぼして咆哮する、デリアンの悲痛な顔を見上げながら、私は満足の笑みを浮かべる。
最期にデリアンの胸を深くえぐって私を刻みつけることができた……。
前世からずっと、ずっと、あなただけを愛し、見つめ、結ばれて幸せになることだけを夢見てきた。
真実のあなたの心を見ようともせずに、自分勝手な夢を押しつけて……。
でも、もうそれも今生でお終いにする。
強くそう決意した私は、渾身の力を振り絞って叫ぶ。
「お願い、カエイン、私を連れて行って!
デリアンの腕の中では死にたくないの!」
直後――漆黒の疾風が走り抜け――
気がつくと、私はいつかのように、カエインの両腕に抱きかかえられていた。
翼を広げて飛ぶカエインに抱かれて、夕闇に染まり始めた上空を飛んでいく。
「最期まで世話かけるわね……カエイン……」
出会ってからそんなに経たないのに、彼との間には驚くほどたくさんの思い出があった。
おかげで最初に自殺を妨害された時と今では、ずいぶん関係が変わっている。
カエインは約束を守って戦闘中いっさい手を出さず、今も私を治療しないで横抱きにしているだけだった。
「シア、お願いだから、俺に助けろと命令してくれ」
カエインの必死の懇願に、私は迷いなくかぶりをふる。
「……それはどうしてもできないわ……あなたには何も返さずに申し訳ないけど……」
母に誓ったように、今から冥府の監獄で犯した罪の償いをしなければならない。
カエインは長い睫毛を伏せて、ふうっと溜め息をつく。
「本気で俺に悪いと思っているなら、今後生まれ変わったら、あんな下らない男に執着するのは止すんだな」
「……止すもなにも、私怨を果たすためだけに実の母を手にかけた私は……間違いなく冥府の監獄行きよ……。
だから、これであなたともさようならね……カエイン……」
力なく笑い、見上げたカエインの顔は、なぜだか涙一粒流していないのに泣いているように見えた。
「シアの口から別れの言葉など聞きたくない」
「……いろいろありがとう……ごめんなさい……」
なんとか最後の気力を使って謝罪と別れの言葉を伝えると、急速に視界と意識が闇に飲まれていった。
薄れゆき、遠ざかる意識の中、切に願う。
他人をも破滅に巻きこんだ、独りよがりで苦しいだけの、私の愛。
どうかこの身から溢れ出る血のように、この魂からすべて流れだし、残らず無くなって欲しいと――
そして、もしもいつか罪の償いが終わり、冥府の監獄から出られる日がきたとして――その時にあなたがまだ一人だったなら……。
今度こそ必ず借りを返すわ。
――私の魔法使い――
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