ダンジョン学園サブカル同好会の日常

くずもち

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第115話月読さんは気になっている

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「5階売店開店です!」

 コツコツと作って来た売店5階店、本日オープン! ってことにしておこう。

「がんばるでち!」

「うん。期待してるぞ?」

 もちろんこちらにも天使の店員を配置して、死にかける可能性が高い分1階よりもポーション類を充実させる予定だった。

 フヨーンと周囲を飛んでいるドローンは、晴れの日を順調に撮影中。

 さてなんで浅い階層の動画を撮っているかと言えば、宣伝がしたいってことももちろんあるけど実はちょっとした企みもあった。

 まぁそれは今はいいか。せっかくめでたい日なのに悪だくみだけするのもつまらない。

 実際地道な努力が目に見える成果になるのは嬉しいもので、僕は鼻歌を歌いながら、なんとなく5階を散策していると面白いモンスターを発見して目を見張った。

「あれは……牛、牛じゃないか?」

『牛だね。この階層にはたまに出るよ』

「しかも乳牛っぽくない?」

『乳牛だね。ミルクバッファロー。魔力を回復する栄養満点のお乳を出すよ。でも突進は新品のビルを一撃で廃ビルにする威力を秘めているね』

「おおう。ホルスタインじゃないんだ? ……あと威力の表現がやけに生々しいな。しかしダンジョン産牛乳か、あるとカフェが活気づく気がする」

『活気づいているところは今のところ見たことがないけど……君はキャパシティがきついからもうやめた方がいいね』

「……なに? そうなの?」

 あまり意識していなかったことを攻略君に指摘されたが、考えてみれば制限がありそうな話ではあった。

『うん。天使については君は聖騎士だから余裕はあるんだけど……鉄巨人の腕も何気にコスト高いからね。先輩にお願いしておくといいよ』

「浦島先輩に? やっぱりテイマーはそのキャパシティとやらも多いとか?」

 浦島先輩も結構な数、モンスターをテイムしていると思ったが、攻略君は問題ないという返答だった。

『当然だろう? テイマーなんだから』

 当然ってことはないと思うが、浦島先輩のメインジョブは現在テイマーでモンスターを仲間にする専門職ではあると思う。

 しかし攻略君の口ぶりからすると、浦島先輩は僕らよりはるかに多くのモンスターを仲間に出来そうだった。

「僕らも割りとテイムしているし、実は浦島先輩に不遇ジョブを紹介しちゃったんじゃないかと少し心配してたんだけど。ちゃんと利点があって安心したよ」

『あるとも。テイマーが真価を発揮するのはこれからだよ。なにしろいくらでもモンスターを仲間にできるんだから。しかもモンスターが得た経験値は主も貰える』

「……で、でたらめな性能だねそれ」

 意識していなかったが、それはテイムすればするほど、お得になる仕様なんじゃないだろうか?

 それはそれで不安になるんだけど、攻略君はこういう時に限って、気軽に太鼓判を押して来る。

『だろう? まぁ多くの場合戦いは数だよ。その上ジョブが育てば、モンスターをいつでも召喚して戦える。まぁ管理が大変なんだけどね。何せモンスターだから』

「……なるほどねぇ」

 テイマーの可能性というやつは、僕もこっそりあげたくなるくらいのポテンシャルを秘めているようだった。

『君も、聖属性、天使系のモンスターに限って似たようなことが出来るけどね。ただ仲間に出来る種類の分母が違いすぎるから、効率は段違いだ』

「手当たり次第ってことか。……それで僕は天使に限ってちょっと多めに仲間に出来るってこと?」

『そうだよ。放っておく系のレベリングも出来るから、沢山テイムして相性のいい層でレベルアップしておくように命じておけば、日にいくらか経験値を貰えるはずだね』

「なにそれ便利。そうだねぇ。適当な階層でレベル上げするように言っておくのがいいかもしれないな」

 出来れば生徒がいない階層がいいか。

 幸い悪魔の層で暴れてもらえば嬉々としてレベルアップに励んでくれそうではあった。

 しかしお得情報は大事だが、今はもっと大切なことがある。

「……牛をテイムするかどうかは後で決めるとして、まぁとりあえずサンプルくらいは手に入れておこうか。ドロップアイテムは牛乳かな?」

『牛乳だね。全員分狩っておけばいいんじゃないか?』

「了解だ」

 ではこの階層なら素手で殴れば行けそうだし、ダンジョン産牛乳をサクッとゲットしていこうか。





「……うまい。冷やしたらもっとうまいかも」

『いよいよ冷蔵庫でも用意した方がいいかもね』

「……いけるのか、攻略君?」

『当然だろう? 改造必須だけど』

「……うむむ。手間がかかるねぇ」

『仕方がないね。結局一から作れば手間も時間もかかるものさ』

 僕らが牛乳の味見をしながら帰宅のために引き返していると、珍しくソロで
戦っている探索者を発見して僕は足を止めた。

 その探索者は中々いい動きをしていて、2階のモンスターを光の魔法一発で仕留めていた。

 だがよく見てみると魔法を放ったのは僕らの知ってる顔だった。

「おや、あれは月読さん。いやーいい動きするね。魔法職なのに」

『うん、精霊ともずいぶん打ち解けたようだ。魔力を双方で高め合っているね』

「おお、そういうのわかる感じ?」

 おや、月読さんは精霊と仲良くしてくれているらしい。

 良かった良かったと頷いていると、向こうもこちらに気がついて彼女はすごい勢いで走って来た。

「やぁ月読さん、こんにち……」

「……どういうことなの?」

「……どういう事とは?」

「うちの白玉が強すぎるわ……」

「白玉? お団子はおいしいよね?」

「違うわ。白玉はこの子の名前よ。圧倒的なんだけれど?」

「ああ……かわいい名前を付けてもらったじゃないか」

 僕は突き出された兎を撫でてやると白玉はスンと鼻を鳴らしていた。

 よほど相性が良かったのか、どうやら白玉も現状の満足度は高いみたいだ。

 そしてそれ以上に月読さんは白玉をものすごく気に入ってくれたようだった。

「そうなの。こんなにかわいくて強くて最高の白玉は特別な存在なの」

「……気に入ってくれているならよかった」

「大いに気に入っているわ。ちなみに君の秘密って……これなのよね? あの売店でなにか精霊に関する情報をいろいろと教えてもらっているって考えてもいい?」

「……」

 いや、別にそういうわけではなかったが、精霊をテイムしていない訳でもない。

 説明もめんどくさいから、僕はちょいちょいと手招きすると一番付き合いが長いカメラ君がフワリと飛んできた。

「僕の精霊だよ」

「メカニカルだわ!? これが貴方の精霊?……名前は?」

「カメラ君」

「カメラなの!?」

 月読さんはリアクションがいいなぁ。

 そんなに驚いてくれると、僕の口も多少軽くなると言うものだった。

「ええまぁ。精霊って何か入れ物があるといい感じに動かしてくれるよ」

「……なるほど新事実だわ」

 おおおと感動して目を輝かせる月読さんはやはり面白い娘である。

「調子よさそうだね」

「もちろん。この子を引いてから絶好調よ。というか、ソロでももっと深い層に行けそうなほどだわ」

「おお……じゃあ。パーティも絶好調なんだ」

 しかしパーティの話題になると月読さんの声はしりすぼみに小さくなっていった。

「…………いえ、その。まだこの子の事は秘密にしているわ」

「えぇ……なんで?」

 僕としては大いに宣伝して欲しいところなんだけど、月読さんはもう少し慎重に事を運びたいみたいだった。

「だって……なんて説明したらいいかわからないわ。売店でガチャを引いたら強くなりました……って言えばいいのかしら?」

「あー……うん。うっかりすると馬鹿にされたと思うかも?」

 その前に正気を疑われるかも?

 ダンジョンは迷路だし、広くて売店を見つけられるかはランダムだ。

 証明しようにもうまく売店を発見できるかは運しだいなところもある。

 有益な情報だからといって、必ずしもすんなりと受け入れられるものではないことは僕も日々感じるところだった。

「そうなの。それに私がこの子の事を秘密にしておきたいなっていうのもちょっとあるわ」

「そうなの?」

「……そう。だってこんなにかわいくて強いなら、みんな欲しがってしまうでしょう?」

 当然だと白玉を抱きしめる月読さんはそう信じて疑っていないらしい。

 ただ、白玉が誰かに連れ去られたところでほとんど意味がないのは間違いなかった。

「名前を付けて拒否されてないなら、誰かから盗られるようなことはないよ。名前を呼べばすぐ戻って来る」

「本当?」

「本当。だからそう簡単にはいなくならない」

 精霊というやつはきまぐれだが、絆には真摯な種族だ。

 盗まれようが、何なら消滅しようがそのうち契約した人間の所に復活までする、凄い奴らだった。

「だから。まぁ隠さなくてもいいかなって。魔法の威力も上がったはずだからコソコソやってるだけなのはもったいない」

 だから存分にやってくれとお願いすると、月読さんはためらいがちに頷いていた。

「……そうね。適当なタイミングで密かな特訓で力に目覚めたとか適当なことを言ってみるわ」

「そんなに白玉君を秘密にしたいんだね。……うん、まぁいいと思うよ、今度売店を見つけたらその時にでも精霊については説明すればいいだろうし」

 そして是非とも、我が売店の商品もお買い上げいただきたいところだった。

 話は一段落ついたようで落ち着きを取り戻した月読さんはなぜかまだ僕をじっと見ている。

 何かまだお話が? と不思議に思っていると月読さんは言った。

「……ねぇ。ワタヌキ君。私もっと精霊のこと知りたいわ」

「そう?」

「ええ。良かったら今度ゆっくりと時間を取ってお話しできないかしら?」

「え? いいよ?」

「よかった! じゃあ、今度のお休みにショッピングにでも行きましょう。この子のお礼もしたいし」

「ああうん。わかった」

「それじゃあ」

 月読さんはそう言い残して去っていく。

 彼女の頭の上には、飛び乗った白玉の耳が左右に楽しそうに揺れていた。

 なるほどなぁ。成績優秀な探索者ともなると、やはり勤勉なものらしい。

 確かに精霊は強力だし、気になるのもわかるけど、まさか僕のような変わり者にまで質問したいだなんて意外過ぎる思い付きだった。

「まぁ、ああいう頑張っている人の助けになるなら、僕もどんどん情報を出すべきなんだろうな」

 そういう意味では今後予定している計画は無駄になることはなさそうだと思う。

 何を隠そう売店の企みだって、こういう需要を狙ってのことだ。

 サブカル部の知名度が上がってきて、部としての成果を求められる日がまた来るかもしれない。

 そんな時のためにいよいよ本格的にダンジョンを紹介してゆくネタを準備中である。

 精霊も売店もこの感じだと十分需要はありそうだった。



「……というようなことがあったんだよ」

 そう、桃山君に雑談として話したら、彼の細い目が開眼した。

 桃山君は何かとても重大なことに気がついてしまったらしい。

「それって……デートではござらんか!?」

「?」

 いやまさかそんな、ありえないこと言われても?

 事態は風雲急を告げる。

 休日なんて、ほんのすぐそこであった。
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