ダンジョン学園サブカル同好会の日常

くずもち

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第116話なるほどこれは違うな

 最初は全く意識なんてしていなかったのに、他人から指摘されると途端に緊張してくることってあると思います。

 ちなみに僕はある。

 今回はまさにそんな感じだった。

 何とも思っていなかったはずなのに、自分の持っている私服の中で一応それなりに小綺麗に見えるものを選んで待ち合わせの場所に行ってみたり。

 そして確かに約束は有効だったようで私服姿の月読さんが待っていたら、ちょっと動揺してみたり。

 なんなら彼女の制服とは違う雰囲気に驚きがあったりと、まぁ定番の人間らしい感情が湧いたのは、そのせいだと思う。

 ただ、予想外だったのは……私服のクラスメイトはもう一人いたということだった。

「……コンニチハ?」

「こんにちは! 偶然だな!」

 クラスメイトの美形の男子。この男、攻略君一押しの主人公、草薙 彼方君である。

 グラビアの表紙の様な出で立ちの草薙君と、同じくファッション誌の上から下までで選べばバッチリモデルが出来そうな月読さんが並んで立っている様子は、そのまま写真に撮ったら雑誌の表紙を飾れそうだった。

「急にごめんなさい。ばったり会ってしまって」

「いえいえ。大丈夫ですよ?」

 ははーん? なるほど? こいつはいくら何でも僕でもわかるぞ? ……何がとは言わんが―――これは違うな?

 とりあえず―――恥ずかしいから僕を殺してくれ。

 しかし諸々妙な勘違いが発生して混乱していたが、誰かと買い物に来るくらい普通の事だ。

 切り替えれば問題はない。楽しく過ごそうかなって感じである。

 では―――改めて。

「いや! 偶然だね! こんなところで合うとは奇遇奇遇!」

「おう! ほんとだな!」

 なるほど、いや、ほぼほぼ面識はないに等しいがクラスメイトだしもちろん顔は忘れてなかった。

 会話と言えば最初の頃にパーティに誘ってくれた、割かしいい人。

 まぁ草薙君に関してはそんなイメージだ。

 一先ず待ち合わせ場所から移動して、早々にショッピングモールのレストランに入った僕らは、適当な飲み物を頼んでテーブル席で向かい合って座った。

 僕はちなみにコーラフロートを注文させてもらいましたとも。

 そして手元に一先ず運ばれてきた御冷で喉を潤すと、まずはイケメン、草薙君が口を開いた。

「ええっとワタヌキだよな?」

「そうだよ? えっと……草薙……くん?」

「そう! 草薙 彼方だ! なんだかあんまり話す機会がなかったから、今日話せて嬉しいよ!」

「そうなの?」

「うん。ずっと話したいとは思ってたんだ。なにせカノンが一目置く探索者なんだろう?」

 さわやかな笑顔でそう言われたが、何だか意外である。

 月読さんにはトイレ作ってるところしか見せていない気がするが、それでも評価してくれているのなら嬉しいものだ。

 だが今日わざわざついて来たのには、やはり彼なりの理由もあったようだった。

「ええっと実は俺もさ、ワタヌキに聞きたいことがあるんだけど……いいかな?」

「何だろう? ええっと白玉の……」

「違います! その話は別の時に話しましょう!」

 大慌てで割って入った月読さんは、まだ秘密にする気らしい。

 そういう事なら仕方がない。僕はそれ以上余計なことを言わないように黙る。

 今回は精霊の話はなしで、聞き役に徹することにした。

「……そう? じゃあ何だろう?」

 しかし草薙君の切り出した内容は、僕が予想したどんなものとも違っていた。

「ああ。ええっと……そう。ワタヌキはエキスポの怪人って知らないか?」

「何も知りませんね。なんなんです? 新ライダーの敵ですか?」

 おっといけない。

 心の中に引っかかるものはあったのに、咄嗟に否定してしまった。

 いや、だってなんだよエキスポの怪人て? ああ、僕の事だった。

 しかし即答した僕に草薙君は困惑していた。

「知らないかな? 今結構話題になってるんだけどな……。エキスポのエキシビジョンマッチで、レイナさんってうちの学校の生徒と一緒に出場してた二人組なんだ。めちゃくちゃ強くて、海外の有名探索者をあっさり倒してた」

「……へー。エキスポの怪人かぁ。あー……そんなに有名?」

「めっちゃくちゃ有名だよ! 頭が燃えてるからすぐわかる! 着ているものは普通のジャージ何だけどさ。あと片方はガスマスク付けてて、動きが人間じゃない! 速すぎて消えるんだ! 顔を見せないようにしてるから正体不明でさ! 外のプロを雇ったんじゃないかって噂なんだけど!」

「ナルホドナー。ええっと……落ち着いて?」

 ものすごく早口になった草薙君を僕はやんわり止めると草薙君は赤面して頭を掻いていた。

「あっ、ゴメン……つい。あんまりすごかったからすっかり俺ファンになっちゃって」

 ほほーそうなん? ケーキとかいる?

 なんて言わないが正直、悪い気はしなかった。

 なるほど、僕らはそう見えていたか。確かに怪人は、妙にはまっているのかもしれない。

 ただ分からないのはどうしてそれを僕に訊ねたのかという事だった。

「ええっと何で僕にそれを?」

 別にそこをためらう必要はないかと尋ねてみると、草薙君はうーんと唸って、あっけらかんと言った。

「勘?」

「……何それ?」

「いや、ゴメン。でもなんか……ワタヌキってただもんじゃない感じがするんだよな。なんか人が知らないことを知ってそうな雰囲気があるというか? それにちょっと似てるかなって……そのエキスポの怪人に?」

「……顔見えてないのに?」

「そうなんだけどな?」

 おやするどい。

 しかし同時になんだかそのエキスポの怪人?と同一視されるのが途端に恥ずかしくなってきたけど。

 そして怪人について気になっているのは、月読さんも同じらしい。

 なんなら月読さんの方が熱心なようで、今日のお出かけもこの話を聞くのが本題までありそうだった。

「私も自分で探してみたの。それで直接レイナさんにサブカル同好会って何なのか聞いてみたんだけど……」

「それでレイナさんは何て?」

「実はサブカル同好会は存在しないのです!って」

「存在しない?」

 何でそんなことを? と考えて、僕は気がついてしまった。

 あ! 今サブカル同好会じゃなくってっサブカル研究部だったわ!

 ちょうどいいタイミングで確認されたから、ドヤ顔で説明するレイナさんの顔がありありと浮かんでしまった。

「だからチーム名はジョークで、あの二人は助っ人だって思ったんだけど……そう言えばあなたがレイナさんと一緒にいたことを思い出したの。何か知らない? エキスポの怪人について」

「……さーて」

 どうしたもんだろう?

 正直、僕がエキスポの怪人なんですーっなんてトンチキなことを言いたくない!

 とりあえず、人間が二人以上いるところでは勘弁してほしい。

 そして現在は二人以上……実に残念だ。

 しかしこのまま何も知りませんというのも不自然な気がする。

 そこで僕は前振りとして、持っていた適当なレシートの裏にURLを書き込んで渡した。

「これは?」

 きょとんとしている草薙君に僕はそっけなく伝えた。

「……たぶんそのエキスポの怪人がやってるチャンネル」

「「え! そうなの!」」

 驚く二人に、僕は意味ありげに頷いて見せた。

 もちろん大した意味なんてない。

「そう。ネットで動画見るの好きなんだ。更新頻度はそんなに高くないけど、ダンジョンの中を紹介してたりしてた。もちろん頭は燃えてるよ」

「……さすがに偽者じゃないか? ダンジョンの中で録画はできないはずだし」

「……じゃあ私が貰っておく。ありがとう、後で見てみるわ」

「いえいえ。これくらいなら……いつでも」

 何というか、この辺の落としどころでそろそろ勘弁して欲しい。

 合流してからそんなに時間は経っていないが、僕のメンタルが恥ずか死にそうだった。

「うん。なんだかごめんなさい。私達ばかり質問してしまって」

「いや。僕も寮と学校の往復ばっかりであんまり最近は外に出てなかったから、新鮮で楽しいよ」

「そう言えばそうだな! と言うか俺も久々に買い出しに来たんだよ。ここいいよな、いろんな店が揃ってるからいっぺんに色々揃って!」

「……そうね。ショッピングモールはこの辺りじゃここが一番大きいものね。じゃあ、ここからは私のお礼ね。行きましょう」

 そして今度はそう言って席を立った月読さんに連れられ、僕と草薙君はショッピングモールの一角にあるガチャガチャが大量に並んでいるコーナーに連れてこられた。

 月読さんは確かにそこで立ち止まって、僕らを振り返ると大量の百円玉を取り出して僕らに差し出した。

「さぁ。引いて引いて! 弾なら既に準備してきたわ! いいのがあったら交換しましょう!」

 月読さんは今までで一番の笑顔で百円の束を僕らに差す出す。

 なるほど、すっかりガチャにはまってしまったのは、冗談でもなかったみたいだ。

 ものすごく困惑している草薙君を横目で見つつ、僕は100円を受けとる。

「お礼だと言うのならいただきましょう……」

「ええ。好きに使ってちょうだい」

「せっかくだからガチャが終わったらゲームセンターも行ってみない?」

「ゲームセンター?」

 おやおや月読さんご存じない? ではお教えいたしましょう。

 隣に併設されているゲームセンターでUFOキャッチャーでもいかがですか?

 まぁ同級生と遊びに来たのなら、こういう系統の遊びもやってみて損はない。

 自慢ではないが―――僕のゲームセンターの景品ゲット率はプロ級である。



「というわけで、3人で遊んで、ガチャを奢ってもらいました」

 なんでか知らないけど部室に来るなり報告会になってしまって、正直に白状したら非常に優しく浦島先輩は僕の肩を叩いた。

「……そうか。罰ゲーム系だったか。うぇーい、残念俺の彼女ちゃんでしたー? みたいな? うん、君はがんばったよ……今日はゆっくりお休みなさい。気晴らしならいくらでも付き合うからね?」

「違いますよ?」

「じゃあハーレムデートですか!? ハーレムデートですね!? リアルで許されるんですか? 私のために争わないですか?」

「争わないです。ビックリするくらい同級生で遊びに行っただけです」

「なんでガチャガチャだったんでござる?」

「おそらく共通の趣味がそこだったからではないかと……いや、ただ単に交換が目的の可能性があるな」

 とはいえ動画のリスナーがほんの少しでも増えるかもしれないし、僕にもプラスだったに違いない。

 ちなみにUFOキャッチャーはバッチリ好評だったが、橋渡し系のフィギュアを一発でとった時はさすがに二度見されてしまった。

 そして月読さんはガチャガチャに目がチラチラしていて、すっかりガチャガチャの虜の様だった。

 なんというか……すさまじく奇妙な時間だったことは間違いなかった。

 まぁいい夢見させて貰ったってことなんじゃない? 知らんけどね。
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