ダンジョン学園サブカル同好会の日常

くずもち

文字の大きさ
114 / 255

第114話思わぬ副作用

「そうだね、色々と感想はあるけれど……ひとつ忠告しておく」

 龍宮院先生は、到着早々自分の前に僕らを座らせた。

「な、何かありましたか?」

 龍宮院先生の真剣な表情に僕はゴクリと生唾を飲み込んで質問すると、先生は大きく、そして深く頷いて言った。

「ああ……ここはヤバい。本当にヤバい」

「そんなに……ですか?」

「そんなにだよ。なんたって…………なんにもしなくてもご飯もお酒も飲み放題なんだ」

「え?」

 一瞬何を言われたかわからなかったが、他のメンバーはすんなり受け入れ、深刻な表情で頷いていた。

「ヤバイですね。それはヤバイ……」

「ヤバイです……」

「うむむ、ヤバイでござる」

 そして更に龍宮院先生は、悩ましく頭を振って絞り出すように語り始めた。

「その上。ここで数日過ごしたって、現実じゃほとんど時間が経っていないっていうのがまたヤバい。土日が2年になるとか……もうすべてを捨て去りたくなってくる」

「……ヤバすぎますね」

「……とんでもないヤバさです」

「……想像を絶するヤバさでござる」

「いやいやいや、確かにそうだけど! もっと他に注目すべきことがありそうじゃない?」

 言わんとしていることは理解し始めたが、頑張って作ったので出来れば有効に使ってもらいたい。

 だけど龍宮院先生はあくまで切なげな表情のままだった。

「いや、ワタヌキ君? ……地味なことほど根本的にヤバいんだよ。この安定感を見たまえ。中々帰ってこないなーと思っていたら、ああそうだ、時間の流れが違うんだーとなってマッタリやっていたわけなんだけど、あっという間にこのありさまさ……。もはや実家のような安心感だよ」

 ほとんど寝間着に近い格好の龍宮院先生を見ると、強力な説得力があった。

「ううむ……確かに、作家が旅館に泊まるみたいな使い方が出来ればなって思ってましたけど」

「ああ、探索中に温泉も発見した。海の中なのにね。かけ流しだよ」

「……やばいなぁ」

 この特性を理解しつつ次にここに来る時があったら、僕ならジャージやらマイ枕でも持ち込むかもしれない。

 そうなったらもう抜け出せる気はしなかった。

 しかも、まぁみんなある意味メリットとも言える部分に注目しているみたいだけれど、もっと根本的にまずいところもある。

 僕は念のためそこの所にも言及しておいた。

「でも使い過ぎたらシンプルにまずいですからねここ? 締め切りある人には便利ですけど……結局すごい勢いで歳をとる部屋ですから」

「うぐぅ! ……確かにそれは……そう言われるとゾッとするなぁ」

 そこのところ取り扱い注意だと念を押しておくと、龍宮院先生が一番動揺していた。

 だけど浦島先輩とレイナさんは首をかしげていたが。

「そんなに問題? 別に毎回フルでいるわけじゃないんだから大したことないでしょ?」

「そうですよ。ちょっとくらいいいんじゃないですか?」

 その発言に再びショックを受けたのは龍宮院先生で、先生は今までで一番切ないとても渋い顔をしていた。

「ぐぅ……さすがティーンエイジャー……これが若さかぁ」

「何言ってるんです。先生も若いじゃないですか」

「いや……言っても20代も後半だからなぁ」

 色々と、考えちゃうことはあるんだと遠い目をする龍宮院先生の認識の方がたぶん正しい。

 1年の変化というのは目に見えなくても大きいものだろうと思う。

 だが当初の予定通り、効果に嘘偽りは微塵もない物を作ったつもりだった。

 そしてここには締め切りに追われて絶望している女子がいた。

「とはいえ……時間さえあればどうにかなります。まぁやり遂げて見せますよ!」

 ドヤ顔の浦島先輩は、もうすでに勝利を確信しているみたいである。

 経緯を知っている龍宮院先生も、使用を止めるつもりはないようだった。

「……まぁわかった。でも……まずは1週間くらいで様子を見る事をお勧めするよ」

「了解です! まぁそれだけあれば相当進んでしまうと思いますけどね!」

「……そうだといいけどね」

 ただ最後に呟くように言った龍宮院先生の言葉は、僕の耳に妙に残った。



 この城さえあれば手伝いすら必要ないと主張する浦島先輩を残して、いったん撤退した僕らは当然すぐに浦島先輩と再会することになった。

 浦島先輩は中の時間で一週間ほど漫画の作業に没頭したはずなのだが……クマを作った先輩は僕を見るなり泣きついてきた。

 そして―――先輩はなぜか懐かしい体型に戻っていたのである。

 タックルの威力も体重も2倍増だったが、僕はプライドをかけて踏ん張った。

「ふんぬ! えぇ!? どうしました先輩! 懐かしいフォルムに戻ってますけど!?」

「ああ……私ストレスで太っちゃう系なので」

「……それで済むんですか?」

「そんなことよりワタヌキくぅぅぅぅぅん! あれはダメだよぉぉぉぉ! 反則だぁぁぁぁぁ!」

「そ、そんなにダメでした?」

 てっきりご満悦で出てきてくれるものだとばかり思っていたのに、体型の激変に加えてこの取り乱しようとはどういうことだ?

 狼狽えて僕が尋ねると、先輩は盛大に視線をさ迷わせたが、結局白状した。

「快適過ぎるんだぁ! あんな中で原稿なんてできるわけねぇよぉぉぉぉ」

「……」

 龍宮院先生もまたそうだろう? と頷いていた。

 まぁ助言を聞いた時にうっすらとした懸念はあったが、やっぱりダメだったか。

 人間、時間があればなんとかなるなんて単純なことではないのかもしれない。

 良かれと思ってやったことが必ずうまく噛み合うとは限らないなぁとしみじみしている僕に、攻略君も新たな提案を出してきた。

『うーむ……それじゃあ。一日が一年になる龍宮城はいったん閉鎖かな? 建物全体じゃなくて、専用の部屋だけとかにしておこうか?』

え? それが出来るなら、50階層のカフェの2階にでも作ればもっと楽だったじゃん?

『え? 何を言っているんだい? 竜宮城の方が絶対面白いだろう?』

「……」

 おいおい、攻略君? それはないだろう?

 しかし、ロマンという名の変な労力の掛け方を至上と教えたのは他でもない僕だった。

 こいつは教育がダメな方向で芽吹いたかな? とそんなことを考えると、ドッと疲れが精神に圧し掛かる。

 何事も……急いではダメなのかもしれない。

 見切り発車はすれ違いや失敗を招くもんなんだなって、僕は反省しながら一週間くらい龍宮城で寝ていたい衝動に駆られていた。
感想 3

あなたにおすすめの小説

ダンジョンのある生活《スマホ片手にレベルアップ》

盾乃あに
ファンタジー
進藤タクマは25歳、彼女にフラれて同棲中の家を追い出され、新しい部屋を借りたがそこにはキッチンに見知らぬ扉が付いていた。床下収納だと思って開けたらそこは始まりのダンジョンだった。  ダンジョンを攻略する自衛隊、タクマは部屋を譲り新しい部屋に引っ越すが、そこにもダンジョンが……  始まりのダンジョンを攻略することになったタクマ。    さぁ、ダンジョン攻略のはじまりだ。

最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~

華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』 たったこの一言から、すべてが始まった。 ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。 そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。 それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。 ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。 スキルとは祝福か、呪いか…… ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!! 主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。 ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。 ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。 しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。 一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。 途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。 その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。 そして、世界存亡の危機。 全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した…… ※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。

ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ

高遠まもる
ファンタジー
カクヨム、なろうにも掲載中。 タイトルまんまの状況から始まる現代ファンタジーです。 ダンジョンが有る状況に慣れてしまった現代社会にある日、異変が……。 本編完結済み。 外伝、後日譚はカクヨムに載せていく予定です。

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

私のスキルが、クエストってどういうこと?

地蔵
ファンタジー
スキルが全ての世界。 十歳になると、成人の儀を受けて、神から『スキル』を授かる。 スキルによって、今後の人生が決まる。 当然、素晴らしい『当たりスキル』もあれば『外れスキル』と呼ばれるものもある。 聞いた事の無いスキル『クエスト』を授かったリゼは、親からも見捨てられて一人で生きていく事に……。 少し人間不信気味の女の子が、スキルに振り回されながら生きて行く物語。 一話辺りは約三千文字前後にしております。 更新は、毎週日曜日の十六時予定です。 『小説家になろう』『カクヨム』でも掲載しております。

俺の家に異世界ファンタジーガチャが来た結果→現実世界で最強に ~極大に増えていくスキルの数が膨大になったので現実世界で無双します~

仮実谷 望
ファンタジー
ガチャを廻したいからそんな理由で謎の異世界ガチャを買った主人公はガチャを廻して自分を鍛えて、最強に至る。現実世界で最強になった主人公は難事件やトラブルを解決する。敵の襲来から世界を守るたった一人の最強が誕生した。そしてガチャの真の仕組みに気付く主人公はさらに仲間と共に最強へと至る物語。ダンジョンに挑戦して仲間たちと共に最強へと至る道。 ガチャを廻しまくり次第に世界最強の人物になっていた。 ガチャ好きすぎて書いてしまった。

現代ダンジョン奮闘記

だっち
ファンタジー
15年前に突如としてダンジョンが登場した現代の地球。 誰が何のために。 未だに解明されていないが、モンスターが落とす魔石はすべてのエネルギー源を代替できる物質だった。 しかも、ダンジョンでは痛みがあるが死なない。 金も稼げる危険な遊び場。それが一般市民が持っているダンジョンの認識だ。 そんな世界でバイトの代わりに何となくダンジョンに潜る一人の少年。 探索者人口4億人と言われているこの時代で、何を成していくのか。 少年の物語が始まる。

収奪の探索者(エクスプローラー)~魔物から奪ったスキルは優秀でした~

エルリア
ファンタジー
HOTランキング1位ありがとうございます! 2000年代初頭。 突如として出現したダンジョンと魔物によって人類は未曾有の危機へと陥った。 しかし、新たに獲得したスキルによって人類はその危機を乗り越え、なんならダンジョンや魔物を新たな素材、エネルギー資源として使うようになる。 人類とダンジョンが共存して数十年。 元ブラック企業勤務の主人公が一発逆転を賭け夢のタワマン生活を目指して挑んだ探索者研修。 なんとか手に入れたものの最初は外れスキルだと思われていた収奪スキルが実はものすごく優秀だと気付いたその瞬間から、彼の華々しくも生々しい日常が始まった。 これは魔物のスキルを駆使して夢と欲望を満たしつつ、そのついでに前人未到のダンジョンを攻略するある男の物語である。