ダンジョン学園サブカル同好会の日常

くずもち

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第119話そして事故は起る

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 他人の戦闘を見る機会というのは案外少ない。

 カメラ君の巧みなカメラワークによって、迫力抜群の戦闘シーンは間違いなくハイレベルなものだと僕もそうは思う。

 ただ―――

「ワタヌキ君感想は?」

「うーん……普通?」

「確かに!……私も非常識になれすぎたかねぇ?」

「新常識じゃダメですかね?」

「ダメでしょ。でも……何だかねぇ」

 浦島先輩同様、釈然としない表情をおそらくは僕も浮かべていた。

 彼らのパーティはきっと全然間違ってはいない。

 しかしいざまじまじと見てみると、不完全なスキルとダメージを防ぎきれない装備。

 それを身に着けて、自分よりも強いモンスターと勝ち目の薄い勝負を延々と繰り返すのはうっかりすると死にそうで怖いと、そう感じてしまうのはどうしようもなかった。

 前衛でモンスターを食い止め、後衛がダメージを与える。

 実に手堅い、セオリー通りの動きは僕とてものすごく覚えがある。

 彼らが出てくるモンスター相手に器用に立ち回っている様子は様になっていて、僕より全然うまいはずだ。

 だがそれでもこのままいくとぐだって負けそうな感じだが……そこにすかさず光の魔法が突き刺さる。

 高火力が魔法使いの華で、自分達よりレベルが高い強力なモンスターを真っ向から叩き潰す火力は見ごたえ抜群だった。

 僕らは目を細め、その威力に息を呑んだ。

「……威力高いですね」

「……そうだね」

「でも、今はあの火力が話をややこしくしてるんですね……」

「うん。あれも精霊が悪さしてる?」

「……悪さではなくないですか?」

「いやいや、魔法がヒットするたびに全員のあの微妙な顔を見てから言いなよ」

「あー」

 月読さんの魔法のおかげで勝っているなんてことを、当人たちが素直に認められるわけもない。

 だが事実強いんだから、階層攻略はサクサク進むと。

 ほぼほぼモンスターを瞬殺できれば、探索スピードは遥かに増す。

 10から20階くらいまでの迷宮タイプは、どんどん地下に誘導されている節があるなんていうのは都市伝説だと思っていたが、これを見るとあながち間違いではないかと疑いたくなった。

 悪い流れが出来ているのは否定できない。

「うーん。いいように引きずり込まれてるなぁ」

 浦島先輩の呟きに僕は同意した。

「ドンドン進みますね。なんとなく、パーティとしてみると10階くらいまで楽勝っぽいですけど」

「あの魔法の火力頼みならね。でもパーティとしてっていうのはどうかな? 10階を歩ける練度とはとても思えないよ。私らは君が案内してくれているから、かなり楽に感じるけどさ。……ダンジョンて本当はもっと、意地の悪い場所なんだよ」

「……」

 浦島先輩の言葉は、かなり実感が籠っていて、僕は何も言えなかった。





 追跡を続けて、破竹の勢いで進むパーティは、運にも恵まれて9階層にたどり着いた。

 そこで早速彼らは真っ赤に燃え上がるオオトカゲに遭遇していて、当然の様に格上だった。

「こっちだ! こっちにこい!」

 スキルのウォークライで注意を引きつけ、草薙君は走る。

 だが一瞥した火蜥蜴がキシャ!っと一声吼え、放った熱波に吹き飛ばされた。

「こっちを見なさい! 勝負をしましょう!」

 すかさずあえて注意を引くように叫んで魔力を高める月読さんに、すぐに火蜥蜴の視線は向かう。

 そして完全に脅威を月読さんだと定めた火蜥蜴は、口から炎の息を吐き出した。

「……来い!」

 だが、魔法のタイミングはまず間に合わない。

 炎のブレスが月読さんを飲み込んだが―――そこに一瞬、光る兎が姿を現すのが見えた。

 ウサギは炎をかき消して霧散させると、素早く姿を消す。

 後はノーガードの火蜥蜴が口を開けて、固まっているだけだった。

「ありがとう! これで終わりよ!」

 そして放たれた光の矢は火蜥蜴の身体を貫いた。

「やった!」

 ―――だが、完全に仕留めきれていない。

 最後の最後で、吐き出された火炎弾を月読さんは慌てて避けるが、よろめいて倒れ、床に転がるとその時トラップが発動した。

「……これは、いけない!」

 グオンとゾッとするような音がして、足元が消失。

 月読さんは出来上がった空間の穴に落ち、姿を消した。

「カノン!」

「!」

「いったいなに!?」

「転移型のトラップだ。……おそらくさらに下に行ったはずだ。あの転移は落とし穴っていわれてるやつに間違いない」

 ハバキリ君が悔し気に語る落とし穴の転移トラップは、触ると強制的に下層に叩き落される厄介な罠だ。

 だがここは9階層。

 守護者の階層には転移系のトラップではいけないから、11階以降に飛ばされた可能性がある。

 それは高い確率での死を意味していた。

 パーティメンバーの全員が、一瞬沈黙してしまったのも無理はない。

 だが、ここで彼らのリーダーである草薙君が沈黙を破った。

「じゃあ……守護者を倒さないとカノンを助けに行けないんだな」

「ああ、そういうことだ……」

「い、一端、救助を頼んだらいいんじゃない?」 

 だが、反対意見を挟んだのは天音さんだった。

 さすがに無茶ではないかという彼女の意見は、正しい。

「ダメだ。それじゃあ間に合わない。階層が深すぎるんだ……」

「……! でも、守護者の討伐だなんて私達にできるの?」

「……わからないが、今までの戦闘の感じ……俺は勝算はあると思ってる。二人は?」

「……うん、そうだね」

「……そうだな」

「じゃあ……決まりだ。どうせいつかは挑まなきゃならないんだ。今日、守護者を突破して―――カノンを助ける」

 表情を引き締め、頷くパーティの中に今度は反対する声は一つもなかった。



「いや! そうだなじゃないよぉ!?」

 僕は思わず叫んだ。

 一つ上の階でバジリスクという鶏っぽいモンスターをテイムしながら、映像の展開を見ていた僕らはだんだんと見ていられなくなり……とうとう浦島先輩の動きが止まった。

「あ、ダメだわこれ。ワタヌキ君。行こう。モンスターの捕獲はこれまでってことで」

「すみません……。僕が鉄巨人の方行きますか?」

「いや。落ちた方の彼女、ワタヌキ君ならサーチできるよね?」

「……できます」

 僕は頷く。攻略君に聞けば落下地点もわかるはずだ。

 浦島先輩は頷き、手早く指示を出す。

「OK。なら守護者の方は私が行くよ。命大事に、救護者最優先ね。場合によっちゃカフェに連れてって、蘇生薬ぶっかけなさい」

「……了解です。じゃあ先輩よろしくお願いします」

「任せときなさい。せっかくだから私も本気出してみるよ」

「……先輩?」

 こんな階層で本気? そう思って困惑すると、すさまじい魔力が先輩を中心にあふれ出る。

 そして生み出される転移の魔法陣の数はすさまじく膨大だった。

「……最近、テイム頑張ってるからね。一斉召喚ってやつ。ヒヤー! こりゃえげつない魔力持ってくね! いい機会だから、限界把握しておくよ!」

「精神力注意ですよ先輩! 結構それ身体にきついレベルです!」

「……大丈夫! しかしテイムは無限にできるって話なのに、連れてくるのは有限っぽいのは注意だね。連れ歩きメンバーは厳選しなきゃだ」

「「「「「「にゃー!」」」」」

 発生した転移陣からポンポコ出てくるのはまず、すさまじい数のケットシーと悪魔達。

 そして僕もまだ直に遭遇していないようなモンスターも混じっていた。

 彼らは召喚に応じると、すぐさま浦島先輩にひれ伏した。

「ふぅ……よし! 撤退用の導線確保ね。生徒に見られないように、隠形に長けた子でメンバー決めて! ケットシーは一名、連絡用にワタヌキ君に付いてって」

「ニャ」

「ああそれとワタヌキ君、カメラ君貸してよ。余裕があったらついでに鉄巨人の攻略動画撮影してくるから」

「……! カメラ君。浦島先輩の言うことを良く聞くように」

「ありがと。じゃあ、急ぎめで行きましょう」

 もちろん最悪の事態になんてならない可能性はあるが……その可能性は限りなくゼロに近い。

 僕はすぐさま10階に転移して、月読さんの探索を攻略君に頼む。

 月読さんの方はまだ安全だと思うが……急ぐに越したことはなかった。
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