ダンジョン学園サブカル同好会の日常

くずもち

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第120話炎と背中

「なんというか……本当に面倒ごとに巻き込まれるな月読さんは」

 しかもよく死にかけている。

 今回はしかし、上位精霊がいる限り20階までで死ぬようなことはないと思うが、全て精霊頼りでは心もとなくもあった。

 よほど連携が取れてないと、バッチリ守れないのは人間も精霊も同じことだ。

 それがレベルが全く違うのなら取り残される可能性は大いにある。

 アレは強力だが自我の薄い存在でもある。慣れていなければ完璧な連携は難しいという話だった。

 その時、攻略君が驚きを口にした。

『彼女は11階にいるようだが……少しまずいよこれ』

「……どうまずい?」

『モンスターハウスだ。モンスターが無限湧きする部屋だね。そこにいる』

「……! どんだけ運が悪いの!?」

 罠から罠にダイブしていて猛烈にヤバい。

 攻略君はしかしすでに何とかなると踏んでいるようで、ややお気楽な雰囲気だ。

『まぁ人生、そういうものだよ。だが最悪でもないだろう?』

「そうかなぁ?」

『そうとも。なにせ君が見ていたんだ。急ごう。なに壁とか適当にぶち抜いてしまえば、すぐだよすぐ』

「それは結構大変なんじゃないかな!?」

 こいつはもたもたしている暇はなくなってきたようだ。

 パラメーター的に急ぐのは苦手だというのに、日々のマラソンの成果を全力で発揮しなければいけないようだった。

 いや……活かすべきは大工の方かな?

 「……」

 ユラリとハンマーを構え、僕は眼前の壁をなんということはないが見つめた。


*****


「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……あなたって、こんなに強かったのね」

 月読カノンは、今まさに大ピンチの真っただ中にいた。

 そんな中でもまだ生きていられているのは、自分を守るために頑張ってくれている一匹の兎の活躍に他ならなかった。

 強いことは分かっていたが、まさかここまでとは思わなかった。

 トラップで飛ばされた未知の階層は、夥しい数のモンスターが次々に現れる地獄のような部屋だったのだ。

 出てくるモンスターを片っ端からウサギキックで粉砕していく白玉の戦いっぷりはすさまじく、カノンでは全く歯が立たないモンスターを歯牙にもかけない。

 カノンはしかしついて行くのがやっとで、自分がまだ生きていることが不思議な状況だった。

 だが全方位を埋め尽くす、レベルの違うモンスター達は途切れる気配がまるでない。

 あまりにも湧き出して、討伐を手伝うだけでレベルが上がってしまったほどだったがそれでも勝てる気はしなかった。

 結局、まだまだこの階層は早かったのだと強く再確認している真っ最中である。

 白玉もいくら強いとはいえ、何度もこのまま戦い続けたら消耗は避けられないだろう。

 だが脱出する目途は立たず、カノンには物量に押し潰されるのは時間の問題に思えた。

「……本当についてない」

 そもそもなんでこんなことをしているのか、カノンも自分でもよくわかってはいない。

 カノンが探索者の学園に入学したことすら、自分の意思であったのかも定かではなかった。

 月読の家は古くから続く名家で、神々との間を取り次ぐ巫女の家系が源流だと言われる不思議な力が元々あったらしい。

 それがダンジョンが生まれ、世に出始めてからその力が強くなり始めたのだという。

 カノンも例にもれずに特殊なスキルに目覚め、その力を制御するために家の勧めに従ってダンジョン学園の門を叩くことになった。

 理屈はわかる。

 実際月読の家の能力の知識は、ダンジョン探索者に現れるスキルや魔法と通じるものがあったらしい。

 元々占い師のようなことをやっていた家系はだいぶん落ちぶれていたみたいだったが、ダンジョンの発生により近年存在感を増したという事もあって、その手の力への理解を深めるためにダンジョンとより深く関わるのは、一族の総意とも言えた。

 ただカノン自身は、そんな難しいことは考えてはいなかったと思う。

 誰かの力になりたいだとか、誰かに恥じない生き方をしたいだとか。

 ただ一番は結局のところ、力に振りまわされているばかりの自分をいったん家を出て冷静に見たかっただけなのかも知れない。

 だが、結局どうにも……そんなことを気にする必要がないくらいカノン自身には力なんてなかったし、なにもできなかったらしい。

 その結果として、カノンの目の前には絶望が迫っている。

「―――ここまでか」

 白玉の攻撃を抜けてカノンに襲い掛かって来たモンスターを今度こそとても避けられそうにない。

 走馬灯というのか、その攻撃は妙にゆっくり見えて、カノンはやけに長くその時を待つことになった。

 瞬きもしないで、迫る牙とモンスターの口の中を見ている。

 しかし、死の瞬間は結局最後までやってこなかった。

 代わりにカノンの視界に割り込んできたのはハンマーの頭と、激しく燃え上がる炎の火花だった。

「……えぇ?」

 カノンは声を漏らす。

 モンスターは粉々に砕け散り、彼はメラメラ燃えながらいつかと同じようにカノンに背中を向けていた。



「おお……ぎりぎりセーフ」

 僕は小声で呟く。

 まったく僕がダンジョンの壁を粉砕しなれていなかったら、ひどいことになるところだった。

 だが―――間に合った。

 流石僕だとこの時ばかりは自画自賛させていただこう。

 そして今回のMVPはもちろん光の精霊白玉君だ。

 ウサギの姿で頑張っているようだが、これだけグルリと囲まれたら守りながら戦うのはさぞ難しかっただろう。

 しかし安心しなさい―――私が来た。

 最近言ってみたいセリフ上位を口の中で呟いて、数だけ多いモンスター共を前に僕は頭を燃え上がらせた。

「これがモンスターハウスか……随分と趣味の悪い罠じゃないか」

『まぁ。便利ではあるんだよ? そのうちモンスターハウスを使ったレベル上げプランがあったんだがね?』

「……そんな予定があったかー」

 この攻略君。また恐ろしい攻略を考え付くものだった。

 モンスターハウスの有効活用法はともかく……今はただのトラップだから、意識を切り替えて遠慮なくぶっ壊すとしよう。

 山ほどいるモンスターは、脅威じゃなくても心臓に悪い。

 こいつはさっさと脱出を急いで、浦島先輩と合流した方が良さそうである。

 ただ救助しに来た月読さんはさっきからこちらをじっと見ていて落ち着かない。

 そしてどういうわけか月読さんは彼女にしては珍しくずいぶん呆けた顔をしていた。

「エキスポの怪人……」

 ……なるほど?

 そのいかにも怪しげな名を呼ぶのはやめて欲しい。

 だけど今は訂正している場合じゃないのが困りどころだった。
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