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第1章「蒼天騎士は、つねに雲の上にあるべし」
第7話「ロウ=レイのキス」
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(UnsplashのAlice Alinariが撮影)
クルティカは目を凝らして、王宮前広場を歩く男を見た。
身長は170タールちょっと。細身の体に豪華なマントをまとっている。歩くたびに肩まである金髪がふわふわしていた。
隣に立つ丸パン男はにがにがしげに、
「どうってことない顔だけどさ、女の子にはモテるよ。本人はもっとモテたいから、騎士団に入りたいらしいけどね」
クルティカはちらりと隣を見て、
「騎士団に入りたい?」
「本人はそう言っている。でも女を自分のために利用する男なんて、騎士になれるはずがない」
「女性を利用する……どういうことだ」
丸パン男はくしゃっと顔をゆがめた。
「女性を出世のために利用する。利用価値がなくなったら捨てる。
あいつは、世界中の女は全員、自分に利用されるためにいるって本気で思っているんだ」
「……本気か? 嫌なやつだな。騎士の器じゃない」
「でもさ、去年の秋に蒼天騎士団の試験を受けたらしいよ。裏から手を回して、内密に。でも試験に落ちたらしい」
ふん、とクルティカも鼻で笑った。
「蒼天騎士団には簡単には入れないよ。それにしても裏から手を回すって、どうやったんだ? アデム団長は頭が固いから、わいろも脅しも受け付けない。騎士としての実力があれば別だけど――」
クルティカはもう一度、花柱の前を歩く男に目を凝らした。
あいにく、ザロ辺境伯には騎士としての素質が少ないらしい。動きにキレがないのだ。
「蒼天どころか、どの騎士団だって受け入れないぞ」
「そうだろうけど……また最近、あれこれと手を打っているっていう噂だよ。どうしても騎士になりたいんだな」
「フン」
クルティカもつられて、にがにがしげに鼻を鳴らしたとき、ロウ=レイが辺境伯と会うのが見えた。
150タールの小さな体を軽く曲げる。左足を後ろへ引き、そのまま優美に頭を下げて膝を軽く折る。高位貴族のような優雅な動き。ふだんのロウ=レイからは想像できないほどのしとやかさ。
ロウのたっぷりした胸が、ふるんふるんと騎士団の革胴の中で揺れるのが感じ取れた。
よくよく見ればかわいいのだ、クルティカの幼なじみは。
ロウ=レイは微笑んで辺境伯を見上げた。
辺境伯は身長175タールほど。小さなロウは突っ立った木の周りをハタハタと飛び回る蝶のように見えた。
人を信じすぎて、危うさを感じさせるような蝶だ。
やがて、ロウが話しはじめた。だが、この距離では声は聞こえない。口が動いているのだけが見えた。
「……彼女、『ケ・セパ(ごきげんよう)、伯爵さま』って言ってる」
「えっ?」
クルティカは驚いて、となりの丸パン男を見る。
「この距離で、聞こえるのか?」
「聞こえないよ。でも僕は癒し手の修行で『遠目』の訓練を受けている。これくらいの距離なら、口の動きでわかるよ」
「そうか……それにしても『ケ・セパ』だって? 辺境語だろ、それ。ロウのやつ、いつ辺境語なんて覚えたんだ?」
「さあね。でも昨日や今日、覚えたばかりじゃないみたいだ。あの唇の使い方は、そうとう練習をしたしゃべり方だね。彼女は辺境出身?」
「ちがう。おれもロウも王都生まれ、王都育ちだ。辺境になんて、行ったこともない」
クルティカの混乱をよそに、丸パン男リデルはつづけた。
「今度は、辺境伯のせりふだよ。
『今日も美しいね、ロウ=レイ』
『お気に召したのなら、うれしく存じます。今宵のために、よそおいました』」
「……『よそおいました』? ロウがそう言っているのか?」
「そう」
クルティカは首をひねる。
ロウ=レイはふだん騎士団の男たちを向こうに回して、小汚い言葉を生き生きと使いこなす。乱暴乱雑な男たちに全く引けを取らない女だ。
それが、古語に近いと言われる辺境語をどうやっておぼえたのか。
なぜ覚えたのか。
クルティカの背筋をものすさまじい悪寒が駆け上がった。
「いやな予感しか、しないな……」
「え、なに? あっ! 大変だ、あのふたり……!」
騎士団寮の2階から、王宮前広場にいる辺境伯の薄い唇が見えた。邪悪な剣先みたいに赤い唇がするどく切れ込む。
辺境伯は、ゆるりと身体をかたむけるとロウ=レイに覆いかぶさった。
邪悪な唇がロウの柔らかな唇に乗った。
ロウがうっとりと目を閉じる。
クルティカは目を凝らして、王宮前広場を歩く男を見た。
身長は170タールちょっと。細身の体に豪華なマントをまとっている。歩くたびに肩まである金髪がふわふわしていた。
隣に立つ丸パン男はにがにがしげに、
「どうってことない顔だけどさ、女の子にはモテるよ。本人はもっとモテたいから、騎士団に入りたいらしいけどね」
クルティカはちらりと隣を見て、
「騎士団に入りたい?」
「本人はそう言っている。でも女を自分のために利用する男なんて、騎士になれるはずがない」
「女性を利用する……どういうことだ」
丸パン男はくしゃっと顔をゆがめた。
「女性を出世のために利用する。利用価値がなくなったら捨てる。
あいつは、世界中の女は全員、自分に利用されるためにいるって本気で思っているんだ」
「……本気か? 嫌なやつだな。騎士の器じゃない」
「でもさ、去年の秋に蒼天騎士団の試験を受けたらしいよ。裏から手を回して、内密に。でも試験に落ちたらしい」
ふん、とクルティカも鼻で笑った。
「蒼天騎士団には簡単には入れないよ。それにしても裏から手を回すって、どうやったんだ? アデム団長は頭が固いから、わいろも脅しも受け付けない。騎士としての実力があれば別だけど――」
クルティカはもう一度、花柱の前を歩く男に目を凝らした。
あいにく、ザロ辺境伯には騎士としての素質が少ないらしい。動きにキレがないのだ。
「蒼天どころか、どの騎士団だって受け入れないぞ」
「そうだろうけど……また最近、あれこれと手を打っているっていう噂だよ。どうしても騎士になりたいんだな」
「フン」
クルティカもつられて、にがにがしげに鼻を鳴らしたとき、ロウ=レイが辺境伯と会うのが見えた。
150タールの小さな体を軽く曲げる。左足を後ろへ引き、そのまま優美に頭を下げて膝を軽く折る。高位貴族のような優雅な動き。ふだんのロウ=レイからは想像できないほどのしとやかさ。
ロウのたっぷりした胸が、ふるんふるんと騎士団の革胴の中で揺れるのが感じ取れた。
よくよく見ればかわいいのだ、クルティカの幼なじみは。
ロウ=レイは微笑んで辺境伯を見上げた。
辺境伯は身長175タールほど。小さなロウは突っ立った木の周りをハタハタと飛び回る蝶のように見えた。
人を信じすぎて、危うさを感じさせるような蝶だ。
やがて、ロウが話しはじめた。だが、この距離では声は聞こえない。口が動いているのだけが見えた。
「……彼女、『ケ・セパ(ごきげんよう)、伯爵さま』って言ってる」
「えっ?」
クルティカは驚いて、となりの丸パン男を見る。
「この距離で、聞こえるのか?」
「聞こえないよ。でも僕は癒し手の修行で『遠目』の訓練を受けている。これくらいの距離なら、口の動きでわかるよ」
「そうか……それにしても『ケ・セパ』だって? 辺境語だろ、それ。ロウのやつ、いつ辺境語なんて覚えたんだ?」
「さあね。でも昨日や今日、覚えたばかりじゃないみたいだ。あの唇の使い方は、そうとう練習をしたしゃべり方だね。彼女は辺境出身?」
「ちがう。おれもロウも王都生まれ、王都育ちだ。辺境になんて、行ったこともない」
クルティカの混乱をよそに、丸パン男リデルはつづけた。
「今度は、辺境伯のせりふだよ。
『今日も美しいね、ロウ=レイ』
『お気に召したのなら、うれしく存じます。今宵のために、よそおいました』」
「……『よそおいました』? ロウがそう言っているのか?」
「そう」
クルティカは首をひねる。
ロウ=レイはふだん騎士団の男たちを向こうに回して、小汚い言葉を生き生きと使いこなす。乱暴乱雑な男たちに全く引けを取らない女だ。
それが、古語に近いと言われる辺境語をどうやっておぼえたのか。
なぜ覚えたのか。
クルティカの背筋をものすさまじい悪寒が駆け上がった。
「いやな予感しか、しないな……」
「え、なに? あっ! 大変だ、あのふたり……!」
騎士団寮の2階から、王宮前広場にいる辺境伯の薄い唇が見えた。邪悪な剣先みたいに赤い唇がするどく切れ込む。
辺境伯は、ゆるりと身体をかたむけるとロウ=レイに覆いかぶさった。
邪悪な唇がロウの柔らかな唇に乗った。
ロウがうっとりと目を閉じる。
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