「おれの姫は美少女剣士、ただし『突発性・沸騰派』」 随時更新してます💛

中野 翠陽(なかの みはる)

文字の大きさ
6 / 95
第1章「蒼天騎士は、つねに雲の上にあるべし」

第6話「クズで女たらしの辺境伯」

しおりを挟む
(UnsplashのJunior REISが撮影)

「お前が……おれ付きの癒し手だって?」
 『絶対に癒せない癒し手』が、おれの癒し手に決まった? クルティカは思わずうめいた。
 丸パン男は武具室の剣や槍、盾を適当につつきながら、

「そう。きみは僕の担当」
「冗談だろ。寿命がもっと削られそうだ」
「安心して。僕は癒し手だよ」
「古龍の呪詛は、癒し手じゃあ治せない。そうだろ?」
「まあ、ねえ……」

 男はもっちりした指で自分の顎を撫でる。じつにうまそうな外見だが、癒し手としては邪悪だ。なにしろ、不運しか呼ばない男なのだから。

「たしかに、すぐ効果が出る治癒呪文はないよ。古龍の呪いは『高位呪詛』だから。
 でも、どこかに必ず方法があると思う。例えば、ホツェル王国の守護神、『双頭の龍』の涙を飲む、とか」

 クルティカはうめいた。

「『双頭の龍』なんて、想像上の生き物だ。頭がふたつある龍なんて、突然変異でも生まれるはずがない。
おまえの根拠のない楽天ぶりは、どこから来るんだ?」


 すると丸パン男はくるりと向きなおり、やわらかい指をクルティカに突きつけた。

「逆にさあ、きみの『根拠のない最悪主義』はどこから来るんだよ? 騎士団史上、最年少で騎士になった有名人じゃないか」

 クルティカはぼんやりと床に突き刺さった槍を眺めた。

「……ロウ=レイも同期入団だ。1歳しか違わないしな」
「はあ?」
 
 丸パン男、ルハラ・リデルはため息をついて見せた。

「彼女はきみの幼なじみだ。きみの入団試験についてきて偶然、合格させてもらったオマケ入団だって有名じゃん。だいたい女の子が騎士になるなんて珍しいんだ。
蒼天騎士団は、『うるわしの美女 アデム』さまが団長だから女騎士を採用したがるけど、やっぱり女じゃあ体力が足りない。物理的な能力の限界があるよ。扱える武具も限られているし」
「武具――それだ」

 クルティカは身体のどこかから希望が湧いてくるのを感じた。だが、すぐに期待を封じる。
 期待と願望は、判断を狂わせる。この世で信用できるのは論理と正確性だけだ。
 クルティカはつねに、良くかみ合う歯車のような正確性を優先させて生きてきた。

 だから、きっちりと確認しておきたい。頼りになりそうもない癒し手であっても知識はある。

「なあ。おれは今、剣を持てない呪詛を受けている。剣を持ったら黒化が一気に進んで、秒ごとに命が削られる。そうだな?」
「そうだよ」
「だけど、ほかの武具はどうなんだ? 
 たとえば槍。これを持ったら、やっぱり寿命は削られるのか?」

 丸パン男はぷるぷると首を振った。やわらかい頬の肉が、残像みたいに白く揺れた。

「剣以外の武具は問題なく使える。龍の呪詛は強力だけど一点集中型だから。
 今回の場合、問題になるのは『剣』だけ」
「ということは、槍なら使える?」
「理論的にはね」

 それを聞いて、クルティカはニヤリと笑った。 

「では、何の問題もない。戦士としては」

 そう言うと、すばやく槍を取った。
 二度、三度と槍を手の中で遊ばせてみた。右手から左手へ、左手から右手へ。そして槍を左手で持ったまま、右手を丸パン男、リデルの前に出した。

「診てくれ。右手の黒化は広がっているか?」
 リデルがあらためて、じっくりと眺める。

「大丈夫みたいだ。指先から手のひらの半ばくらいまでが黒化しているけれど、それ以上は進んでいないよ」
「ということは、槍は使える。剣以外の武具は使えるんだ」

 しかしリデルはクルティカを見て、気の毒そうに言った。

「槍や弓は大丈夫。だけど剣に似たものはダメだよ。レイピア(細剣)や短剣は危険すぎるね」
「使える武具が見つかれば十分だ――ん? だれだ、あれ」

 クルティカは槍を抱え込んだまま、武具室の窓から王宮前広場を見おろした。
 夕暮れの中、男がひとり、広場を横切っていく。
 キラキラと輝く衣装は見事だが、足取りに重みがない。周囲の視線を気にして、できるだけゆっくり、威厳があるように見せかけているが、動きの流れが悪くて腰が浮いている。

 だが、男がすれ違う女たちは、そう思わないようだ。みな目を輝かせて、見とれている。
 金髪をなびかせた外見は、たしかに見映えは悪くないが……。

 ふいに、クルティカの視界に、鮮やかな青色が横切っていった。
「え? ロウ?」

 ロウ=レイの羽織った蒼天騎士団のマントが、夕風にひるがえる。マントの下からのぞく純白の裏地が目に染みるほど清浄に見えた。
 危険なほどに、清浄無垢に。
 ロウが若い男に近づく。微笑んでいるようだ。

 クルティカの背中に、ぞわりとイヤな予感が走った。金色の太陽が沈みかけるなか、背筋のざわめきがどんどん広がっていく。

「……だれだ、あいつ?」
「ザロ辺境伯だよ。二年前に父親が死んで爵位と領地を継いだんだ。」

 隣にやってきた丸パン男が言った。

「ホツェル王国の北東、『聖なる森』の向こうに広がる辺境地域の領主。年は22歳――クズの、女たらしだよ」
「クズの、女たらし……」

 広場では、ロウ=レイがますます男に近づいていく。
 イヤなイヤすぎる予感が、クルティカの背筋から後頭部にかけて、すさまじい速度で駆け上がった。
 おもわず、長槍の柄にひびが入りかけるほど強く握りしめる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました

髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」 気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。 しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。 「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。 だが……一人きりになったとき、俺は気づく。 唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。 出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。 雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。 これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。 裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか―― 運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。 毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります! 期間限定で10時と17時と21時も投稿予定 ※表紙のイラストはAIによるイメージです

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...