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中野 翠陽(なかの みはる)

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第5章「崩落」

第65話「『御身たいせつに、陛下』」

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(UnsplashのValery Sysoevが撮影)


 コオオオオッ! という風の音を引き連れて、蒼天騎士団の守護魔獣、大ガラスが騎士団寮の窓へ突っ込んできた。
 紅い瞳が輝いている。
 アデムはすばやく剣を腰帯にさと、窓枠に脚をかけた。

「ラーレ!!!」

 ケネス王が蒼白な顔になり、側近を振り捨てて窓へ駆け寄る。

「ラーレ! よせ、お前をうしなって俺が生きていけると思うか!?
 死ぬな、生きるんだ!」
 
 
 アデムは振り返り、最後にもう一度だけケネス王を見た。
 両目に痛みをたたえ、『うるわしのアデム』は、あざやかに笑っている。

「御身たいせつに、陛下」

 そう言うと、ひらり! と窓から空へ身を躍らせた……。

「ラーレ!!!」

 ケネス王の悲痛な叫びが割れるように響いた。
 その瞬間、巨大な黒いカラスが大きく羽根を広げて蒼天のなか、アデムを拾い上げた。

「……よかった、間に合わないかと思ったわ、大ガラス」
「まったく、もう少し早く呼べばいいのに、と思っていました」

 大ガラスは機嫌が悪い。
 アデムは巨大なカラスの背中にしがみつきながら笑った。

「そう思ったのだけれど、あまり早く召喚してケネスに邪魔されても困るし」
「ばかな。私は蒼天騎士団の守護魔獣です。騎士団長の召喚にしか応じません。
 たとえ国王の命令でも、守護魔獣を動かすことは不可能ですよ」
「ええ、そうね……」

 アデムは耳元でなる鋭い風音を聞きながら、後ろを振りかえった。
 ついさっき、飛び出したばかりの騎士団寮の窓に、ケネスが立っているのが見える。
 茫然として、目の前で起きた事が理解できていないようだった。
 アデムが振り返っているのに気づいた大ガラスが尋ねる。

「今なら、まだ戻れます。戻ってケネス王の愛人になったほうがいいのでは?」
「……もどりません。私を信じなかった男に、用はない」
「どうかな。お前は結局、最後のところで情に流されやすい人間と見えますが」

 大ガラスの言葉に、そっと涙をぬぐっていたアデムがかすかに笑った。

「愛情ですべてが解決する、と思うほど若くはないのよ、もう」

 ききっと大ガラスが笑い声を立てた。

「若くはない? たかが30年ほど生きただけで、若くはない?
 情に疲れるのは、せめて数百年生きてから言ってもらいたいものです」

 ゆるやかに王宮を離れ、目前に王都の城壁をのぞむ。大ガラスは尋ねた。

「さて、アデム。これが最後です。城壁を、越えますか?」

 アデムは一瞬だけ目を閉じた。
 記憶があふれ出してくる。

 十六の年、はじめてケネスに会った時のこと。
 兄である前王のかわりに王位を獲ると決めたケネスと、そのかたわらに騎士として立つと決めた月夜。
 王都を奪還して、初めて王宮に入った日のこと。
 そして騎士団長として、黒風騎士団長のヴァン・ジルからはじめて青と白の騎士団マントを授けられた朝。

 ひとつひとつがあたたかく、柔らかい色彩でアデムに迫ってきた。
 何という大切な記憶だったことか。
 これらすべてを捨てて、王都を去ることの何とつらい事か。

 だが、ラーレ・アデムは後ろを見ない女だ。
 ケネスの騎士として生きると決めた瞬間から、騎士ではない自分をすべて捨て去ってきた。
 ただひたすらに王に忠誠を誓い、王のために生きてきた。

 だからいま、命を賭してケネスの花嫁を奪還しに行くのは当然のことなのだ。


 アデムは静かにうなずいた。

「大ガラス様、越えましょう、この壁を」

 耳元で風音が鳴った。
 いつだって、道は開けるものだ。
 困難のさなかでも必死に目を開け、置かれた状況をただ認めて一穂の光を探り取るものだけに
 諦めないもののもとにだけ、 道は光となって降りそそぐ。

 今、アデムの頭上で夏の朝日が明るく輝いているように。


「大ガラス、我らはトーヴ姫を後ろから追うのではなく、『西の町城』へ先回りして
 一行を待ちかまえるのよ。相手の準備が整わないうちに撃つ……!」
「いい考えです。先手必勝、前のめりの戦法はいつでもいい結果を生むものです。
 ちょうどいい頃合いでしょう。『目覚め』も近い……」

 大ガラスの漆黒の背中にしがみつきながら、アデムはひっそりとつぶやいた。


「愛していたわ、ケネス。愛していたのよ」


 最後の一言は、風にちぎれて消えていく。
 そしてアデムと大ガラスは、西の町城を目指して蒼天へ消えていった。
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