不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる

六志麻あさ

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第6章 勇者の戦い

5 本性

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 俺は廃工場でベルクと対峙していた。

 頭上から夏の太陽がじりじりと照りつける。
 全身にじっとりと汗がにじむ。

 いや、汗が出るのは暑さのせいだけじゃない。

 俺自身の気持ちの高ぶりや緊張感、そして──。
 奴へのさまざまな思いが、そうさせるんだ。

 かつて感じた友情。
 その後に裏切られた絶望。

 怒り。
 苦しみ。
 恨み。
 憎しみ。

 そして、そのどれとも違う、俺自身にも正体のわからない濁った感情──。

「俺は知っているんだ。お前は、本当は虚栄心の塊だと」

 俺はベルクに言い放った。

「本当は、お前自身が勇者になりたかった。だけど、勇者になれるのは異世界人だけだ」
「……突然、何を言い出すんだい、カナタくん?」

 戸惑ったようなベルク。
 だけど、その顔はわずかにこわばっていた。

「お前は──ずっと嫉妬していたんだな。自分こそが世界の英雄になりたくて」

 俺はそんなベルクをまっすぐに見つめる。

「だから、俺を裏切った」
「カナタくん、さっきから何を──?」

 もちろん今言ったことは、あくまでも『一周目』のベルクの話だった。

 だけど、勇者への嫉妬心なんかは今のこいつの心に、すでに存在する感情。
 だから──思い当たる節はあるはずだ。

 こいつにとって、もっとも知られたくない思い。
 ずっと封印してきた思い。

 俺はそれを無遠慮にさらけ出してやった。

「言えよ。『僕は勇者になりたいのになれない。カナタくんが羨ましいです。妬ましいです』ってな」
「っ……!」

 ベルクの顔色が変わった。
 やはり痛いところを突いたらしい。

「カナタくん、それはちょっと言いがかりじゃ……」
「知っている、と言ったはずだ。俺はお前の心の奥底を」

 まっすぐにベルクを見据える。

「──黙れよ」

 ベルクの顔から笑みが消えた。

 代わりに現れたのは、憤怒。
 それも当然の反応だ。

 ──善人ぶりたいお前にとって、本性を言い当てられるのは何よりも苦痛だったろ、ベルク?

「俺が嫉妬だと? 世界中から英雄とたたえられ、国民から愛され、慕われ──すべてを手にしたこの俺が? お前ごとき、ただの平民に?」

 ベルクは、言葉遣いまで乱暴になっていた。

「友だちになってやろうと思ったのに……英雄王子と異世界の勇者、きっと様になる組み合わせだと思ったのに。世界中がもっと俺をたたえると思ったのに」
「なるほど、それがお前の本音か」
「アリアンの言うとおりだな。もういい、お前は殺す」
「やっと本性を現してくれたな」

 俺は苦笑すら浮かべ、身構えた。

「次の勇者候補を探す見切りがついたか。だから、自分の本音を聞かせたわけだ」

 あるいは──ただ、自分の気持ちを制御できなくなったのか。

「うるせーんだよ!」

 言葉遣いがさらに乱暴になり、ベルクが突進してきた。
 背負っていたケースから剣を取り出し、斬りかかってくる。

「来い、夜天!」

 俺は聖剣に呼びかけた。
 前方の空間に闇が広がる。

「な、何……!?」

 驚いたように跳び下がるベルク。

 闇の中から染み出すようにして、一振りの剣が姿を現す。
 空間を飛び越えてやってきた勇者の聖剣──夜天だ。

「馬鹿な!? なぜ聖剣をお前が持っている!?」

 ベルクが愕然とした顔で叫んだ。
 俺は無視して夜天を構える。

「呼ばれたのはいいが……あれはベルクだな?」

 たずねる夜天。
 こいつは俺が『一周目』で過ごしてきた人生を、知識として持っているのだ。

「仲間と戦うつもりか、彼方」
「仲間じゃない」

 夜天の問いに俺は首を振った。

「あいつは敵だ。かつての友で、今は敵。これからも──」

 聖剣を握る。
 奴を斬る、という意思を込めて。

「力を貸してくれ、夜天。俺の『一周目』に決着をつけるために」
「了解だ、マスター」

 相棒の声は頼もしかった。
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