不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる

六志麻あさ

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第6章 勇者の戦い

4 聖騎士ベルク

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「彼方くん?」

 声がして振り返ると、雫が立っていた。

「それに、その方は……?」
「初めまして、レディ」

 ベルクが爽やかな笑みを浮かべる。
 外見上はイケメン王子だから、やたらとそういう表情が様になった。

「僕は──」
「雫に近づくな」

 俺は雫の前に立ち、ベルクをにらんだ。

「彼女には指一本触れさせない。同じ場所に居合わせることも許さない」
「あの、彼方くん──」
「悪い。この場で説明できないんだけど、こいつには近づかないでくれ」

 俺は雫に言った。

「危険人物だ」
「ひどいな」

 ベルクが苦笑した。

「僕らは隣り合った世界に生きる者同士──いわば隣人じゃないか。彼女とも仲良くなれると──」
「近づくな、と言ったはずだ」

 一歩踏み出そうとしたベルクを、俺は視線で制した。

 異世界人に対しては、とにかく気を許すことはしない。
 徹頭徹尾──『敵』という認識で対処する。

「なるほど、そこまで必死になるということは……」

 ベルクが納得したようにうなずいた。

「君の想い人だね。他の男が近づかせたくないというのも、可愛らしいヤキモチを焼いているわけだ」
「いや、そういうのじゃなくて」

 ベルクのズレた認識に、俺は辟易する。

「君には、この世界で愛する人がいるんだね。なるほど。勇者を断ったのは、彼女を悲しませないため……」

 ベルクはあいかわらず一人で納得している。

「愛の為せることだったのか。だが、僕らの世界だって魔王軍の侵攻で、愛し合う人たちが引き裂かれ、無数の悲しみが生まれようとしている。君も愛を知る者なら、わかるだろう。その悲しみが。絶望が。どうか愛と正義のために立ち上がってくれないか」
「愛、愛、って連呼するなよ。恥ずかしい奴」
「彼方くん、この方はお友だちですか?」
「断じて違う」

 俺は雫に振り返った。

「断じて違う」
「わざわざ二回言わなくても」

 ベルクもさすがに憮然としたようだった。

「場所を変えよう、ベルク。ここでは邪魔が入る」

 俺は油断なく身構えたまま提案した。

 とにかく雫がいる場所で、これ以上ベルクと話すのはまずい。
 何かのきっかけで襲いかかってきたら、雫も巻き添えを食うかもしれない。

 彼女には【加護】のスキルをかけてあるから、生半可な攻撃なら傷一つ負わない。
 だけど、さすがにベルクの攻撃はそのレベルを超えているはずだ。

「──お前の話はそこできっちり返答させてもらう」
「分かった。じゃあ、行こうか」
「雫、お前は先に帰っていてくれ」
「彼方くん……?」
「こいつとは、ちょっとわけありなんだ」

 雫が心配そうな表情を浮かべた。
 俺は大丈夫だ、というように笑顔を返す。

「途中になってしまって悪いな。いずれ埋め合わせはするから──」
「いえ、楽しかったです」

 雫が微笑んだ。

「また来ましょうね」
「ああ、またな」

 ベルクとの『話し合い』が終わった後で──。
 また雫と会うんだ。
 絶対に、会うんだ。



 俺がベルクを案内したのは、とある廃工場だった。

 人の気配はまったくない。
 以前から、異世界人との話がもつれたときは、ここを使おうと決めていた。

 ──いざ戦いになったときでも、巻き添えを出さずに済むし、簡単には目撃されないからな。

 そう、俺はすでにベルクとの戦いの覚悟を決めていた。
 フィーラとの因縁に決着をつけたように。

 次はベルクとの決着をつける──。
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