不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる

六志麻あさ

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第7章 勇者の意志

12 始まる流転

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 ナダレの提案を受けるべきか、それとも──。

 心が、乱れる。

 だけど考えるのは後だ。
 今は別にやらなきゃいけないことがある。

「とにかく、遺跡を進もう」

 俺は気を取り直して夜天に言った。

 もともとの目的は遺跡で『鍵』を見つけることだった。
 ナダレの話に乗らなくても、『扉』を閉じることができれば、それで魔族の侵入を防げるかもしれない。

 まずはこの遺跡を探ってから、ナダレの話はあらためて考えよう。
 俺はさらに進んだ。

 曲がりくねった回廊を進み、途中で何度か魔族や魔獣に出くわしながら倒し──、

「ここが最深部か」

 ついに遺跡の最奥にたどり着く。

 いや、正確には『最奥』じゃない。
 行く手に透明な壁が立ちはだかり、それ以上は進めないのだ。

 壁の向こうに祭壇のようなものがあり、そこには巨大な鍵のオブジェがあった。
 見た目通りなら、あれが目指す『鍵』だろうか。
 なのに、

「駄目だ、進めない……!」

 俺は目の前の透明な壁を殴りつけた。

「だったら──ぶった斬るまでだ!」

 そう思って夜天で斬りつけるが、透明な壁にあっさり跳ね返される。

 攻撃スキルを使っても、駄目だった。

 こうなったら──やるか、あれ。
 以前に災禍級魔獣スラッシャーFを倒した、あのスキルを。

「いっけぇぇぇぇっ、【退魔聖燐咆たいませいりんほう】!」

 振り下ろした夜天から七色の輝きがほとばしった。

 俺の手持ちの中で最高の攻撃力を誇る、聖剣とのコンボスキル。

 ぐごおぉぉぉぉううんっ!

 すさまじい爆音と爆光が遺跡内にこだました。
 そして──、


「……駄目か」

 愕然と立ち尽くす。
 眼前の透明な壁にはヒビ一つ入らない。

「なんて頑丈なんだ──」
「戦士や騎士系のEXジョブを取得しない限り、とても歯が立ちそうにないな」

 と、夜天。

「『鍵』がすぐ向こうにあるかもしれないっていうのに……くそ」

 俺は歯がゆい思いで、もう一度壁を殴りつけた。

「嘆くことはねーよ。『鍵』なんてなくても、この世界を救う方法はあるさ」

 背後から声がした。

 振り返ると、そこに一人の少年が立っている。

 逆立った緑色の髪に、野性的だが整った顔立ち。
 身にまとう黒衣が炎のように揺らめいている。
 背から伸びるのは皮膜状の翼。

「っ……!」

 息を、飲む。

 そいつと向き合った瞬間、全身が砕けそうなほどのプレッシャーが押し寄せたのだ。

 すさまじいまでに攻撃的な気配。
 大気を焼き尽くすのではないかと感じるほどの、濃密で圧倒的な魔力。

 間違いない。
 こいつは──。

「レグルドだ。察しの通り、高位の魔族さ」

 名乗る少年魔族。

 やっぱり、高位魔族か……!
 俺は素早く跳び下がり、夜天を構えた。

 全身が、震える。
 一周目の俺ならともかく、今のレベルでこいつに立ち向かえるだろうか。

 おそらくは、歯が立たないだろう。

 どうする?
 逃げるにしても、そう簡単にはいかない。

 それに──逃げたとして、こいつが街に出たら。
 どれほどの犠牲が出るか……。

「そう、身構んなよ。俺様はてめーの敵じゃない」

 レグルドがニヤリと笑った。

「何……?」
「てめーは勇者の資質を持ちながら、勇者になることを選ばなかった。ファルセリアに不干渉ってスタンスだろ? そして俺様たちはファルセリアを征服しようと考えている。その最大の障壁である勇者が誕生しないのであれば、これほど喜ばしいことはねぇ」

 嬉しげに語るレグルド。

「中位程度の連中は大した考えもなしに、攻撃衝動だけでてめーを襲ったようだけど──俺様たちは違う」
「……何が言いたいんだ」

 問いつつ、俺は夜天を握り直す。

 相手がいつ攻撃してきても対応できるように──。
 神経を極限まで研ぎ澄ませる。

「取り引きさ。勇者候補殿」

 レグルドが笑った。

「俺様たち魔族にとっても、てめーにとっても──双方にメリットがある話だと思うぜぇ」
「双方にメリットだと……?」
「さっきのナダレとかいう奴の話よりも、な。奴はてめーに隠していることがある。利用する気なんだろう、てめーを」

 と、レグルド。

「俺様たちの方が誠意のある話ができる。話に乗ってみねーか、魔族側に?」
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