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第一章
33 誰
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次の日、葉月は鉄堅の誕生日プレゼントに、スマホケースとリングマグネットを買った。色は無難にスカイブルーにした。もう何にも悪いことなんか無いみたいな、青空の色。
お揃いにしたから、葉月のスマホも同じスカイブルー。リングマグネットも同じ。
結局お見舞い用に花束も買って、あながち田沼達の助言が的外れでもなかったことを、知る。花なんて、贈るの初めてだ。明るい色が良いって聞いて、黄色とかピンクとか。お店の人が似合うって言ってくれて、照れ笑い。たぶん、俺の恋人もそう言うと思う。なんたって、あいつは、いつもおれのこと、可愛いとか綺麗とかさいつも褒めるから。
妙にそわそわする。
病院について、鉄堅の入院している個室へと向かう。801号室、八階建ての最上階、エレベーターで8階について、外を見ると、まるでホテルみたいに景色が良かった。
病室の前で、扉をノックすると、中から返事がして、鉄堅のお母さんが出てきた。葉月の顔をみて一瞬顔を強張らせ、動揺を隠すようにふわりと笑った。
「あら、葉月ちゃん来てくれたの、ありがとう」
お礼を言ってくれたけれど、何だか様子が変だ。迷惑だっただろうか。
「あのね、葉月ちゃん、鉄堅ちょっと、記憶が混濁してるみたいなの、許してやってね」
「混濁?」
不思議に思いながら、花束をおばさんに渡すと、おばさんはありがとうと、花瓶に水を汲みに出ていった。
二人っきりになって、窓際のベットへ近づく。
余りにも静かだから、寝てるのかと思ったが、鉄堅は包帯でぐるぐる巻きになりながら、本を読んでいた。
「あ……鉄堅、痛そうだな」
大丈夫かと聞く訳にもいかず、痛くない訳もないのに、葉月はおづおづと、ベットサイドにある黒い椅子に座った。
「どうも」
「?」
何だか違和感。どうもって、それだけ?
「あの、今日はお前の誕生日だろ? 散々だったけど……誕生日プレゼント持ってきたんだ、ほら」
青い袋にラッピングされたスマホケースを渡そうとするが、鉄堅はぴくりとも動かない。
もしかして、手が動かせないのか? と思ったけど、ぺらりと指先で本をめくるから、動かせない事もないようだ。
「そこへ、置いておいてください」
「え? 見ないの?」
「というか、貴方は誰ですか?」
「は?」
なんの冗談だろうと思いつつ、鉄堅をまじまじとみてしまった。鉄堅は、葉月に興味なさそうに、本をぺらりとめくった。
「誰って、俺のこと言ってるのか……?」
「学校の友達ですか? すみません、記憶が混濁していて思い出せないので、申し訳ないですが、帰っていただいて良いですか」
「……」
思考が停止する。言葉が出ない。鉄堅に限って、こんな時にこんな冗談を言うヤツじゃないのが、解るだけに、すぐに本気なのだと解った。
記憶が混濁しているとお母さんは言っていたが、これは世に言う記憶喪失なのではないだろうか。
「俺のこと……忘れたの?」
「申し訳ないですが」
「……っ、そう、そっか、大事故だったしな、記憶なんか無くても、生きてるだけで、良かったし……そっか、そう。あ……じゃ、俺、帰るよ、ごめんなうるさく……して」
これ以上は涙が落ちてしまう。さすがに、生死の境から帰ってきたばかりの鉄堅を責めるなんてできない。でもこのままここにいたら、何でだよって叫んでしまう。思い出せって、しがみついて、嫌だって泣いてしまう。
「じゃ、鉄堅……また来る」
逃げるように、席を立った。その拍子に、プレゼントが膝から落ちたけど、拾う余裕がなくて、そのまま病室を出た。
おばさんに挨拶もせず、こんな失礼なことないと思うのに、今は誰とも話したくなかった。
青空の下、訳も解らず走った。無事で良かったし、生きていて良かったのに。涙が止まらない。
良かったはずだ、それだけで良いって神様に感謝したはずだ。
「そうだよ、生きてたんだから、きっとそのうち思い出すし、思い出さなくても……俺は好きだし、俺たち運命のツガイなんだし、きっと、すぐ、前みたいに戻れる」
でもさっきの鉄堅、知らない人みたいだった。冷たい声で帰れと言われた。
「はぁぁ、昔の俺ってこんなだったのかなぁ……こんな冷たい声で鉄堅のこと避けてたのかなぁ、これは、堪えるなぁ」
好きな人に冷たくされるのって、こんなに苦しいんだ。知らなかった。
青空を見上げる。何にも悪いことなんか無いみたいな、綺麗な青空が広がっているのに。葉月は思いっきり、空気を吸い込んだ。
「よし、頑張ろう、鉄堅も頑張ったんだ、俺も頑張ろう」
パチンと両頬を手の平で叩いて気合いを入れる。もう泣かない。泣くもんか。生きてただけで良い。それで良い。だから大丈夫。
お揃いにしたから、葉月のスマホも同じスカイブルー。リングマグネットも同じ。
結局お見舞い用に花束も買って、あながち田沼達の助言が的外れでもなかったことを、知る。花なんて、贈るの初めてだ。明るい色が良いって聞いて、黄色とかピンクとか。お店の人が似合うって言ってくれて、照れ笑い。たぶん、俺の恋人もそう言うと思う。なんたって、あいつは、いつもおれのこと、可愛いとか綺麗とかさいつも褒めるから。
妙にそわそわする。
病院について、鉄堅の入院している個室へと向かう。801号室、八階建ての最上階、エレベーターで8階について、外を見ると、まるでホテルみたいに景色が良かった。
病室の前で、扉をノックすると、中から返事がして、鉄堅のお母さんが出てきた。葉月の顔をみて一瞬顔を強張らせ、動揺を隠すようにふわりと笑った。
「あら、葉月ちゃん来てくれたの、ありがとう」
お礼を言ってくれたけれど、何だか様子が変だ。迷惑だっただろうか。
「あのね、葉月ちゃん、鉄堅ちょっと、記憶が混濁してるみたいなの、許してやってね」
「混濁?」
不思議に思いながら、花束をおばさんに渡すと、おばさんはありがとうと、花瓶に水を汲みに出ていった。
二人っきりになって、窓際のベットへ近づく。
余りにも静かだから、寝てるのかと思ったが、鉄堅は包帯でぐるぐる巻きになりながら、本を読んでいた。
「あ……鉄堅、痛そうだな」
大丈夫かと聞く訳にもいかず、痛くない訳もないのに、葉月はおづおづと、ベットサイドにある黒い椅子に座った。
「どうも」
「?」
何だか違和感。どうもって、それだけ?
「あの、今日はお前の誕生日だろ? 散々だったけど……誕生日プレゼント持ってきたんだ、ほら」
青い袋にラッピングされたスマホケースを渡そうとするが、鉄堅はぴくりとも動かない。
もしかして、手が動かせないのか? と思ったけど、ぺらりと指先で本をめくるから、動かせない事もないようだ。
「そこへ、置いておいてください」
「え? 見ないの?」
「というか、貴方は誰ですか?」
「は?」
なんの冗談だろうと思いつつ、鉄堅をまじまじとみてしまった。鉄堅は、葉月に興味なさそうに、本をぺらりとめくった。
「誰って、俺のこと言ってるのか……?」
「学校の友達ですか? すみません、記憶が混濁していて思い出せないので、申し訳ないですが、帰っていただいて良いですか」
「……」
思考が停止する。言葉が出ない。鉄堅に限って、こんな時にこんな冗談を言うヤツじゃないのが、解るだけに、すぐに本気なのだと解った。
記憶が混濁しているとお母さんは言っていたが、これは世に言う記憶喪失なのではないだろうか。
「俺のこと……忘れたの?」
「申し訳ないですが」
「……っ、そう、そっか、大事故だったしな、記憶なんか無くても、生きてるだけで、良かったし……そっか、そう。あ……じゃ、俺、帰るよ、ごめんなうるさく……して」
これ以上は涙が落ちてしまう。さすがに、生死の境から帰ってきたばかりの鉄堅を責めるなんてできない。でもこのままここにいたら、何でだよって叫んでしまう。思い出せって、しがみついて、嫌だって泣いてしまう。
「じゃ、鉄堅……また来る」
逃げるように、席を立った。その拍子に、プレゼントが膝から落ちたけど、拾う余裕がなくて、そのまま病室を出た。
おばさんに挨拶もせず、こんな失礼なことないと思うのに、今は誰とも話したくなかった。
青空の下、訳も解らず走った。無事で良かったし、生きていて良かったのに。涙が止まらない。
良かったはずだ、それだけで良いって神様に感謝したはずだ。
「そうだよ、生きてたんだから、きっとそのうち思い出すし、思い出さなくても……俺は好きだし、俺たち運命のツガイなんだし、きっと、すぐ、前みたいに戻れる」
でもさっきの鉄堅、知らない人みたいだった。冷たい声で帰れと言われた。
「はぁぁ、昔の俺ってこんなだったのかなぁ……こんな冷たい声で鉄堅のこと避けてたのかなぁ、これは、堪えるなぁ」
好きな人に冷たくされるのって、こんなに苦しいんだ。知らなかった。
青空を見上げる。何にも悪いことなんか無いみたいな、綺麗な青空が広がっているのに。葉月は思いっきり、空気を吸い込んだ。
「よし、頑張ろう、鉄堅も頑張ったんだ、俺も頑張ろう」
パチンと両頬を手の平で叩いて気合いを入れる。もう泣かない。泣くもんか。生きてただけで良い。それで良い。だから大丈夫。
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