胎児の頃から執着されていたらしい

夜鳥すぱり

文字の大きさ
48 / 120
第二章

46 夏休みの企画

しおりを挟む


無事に追試回避という大きな壁を乗り越えた鉄堅と葉月は、恋人になって初めての夏休みを、共に過ごすことを選んだ。


本来なら鉄堅は塾へ勉強に。葉月はロイへバイトに行くはずだったが、話し合って、一年の夏休みはゆっくりと二人で過ごすことにしたのだ。

「鉄堅は、どこ行きたい?海とか行きたい?」
「葉月ちゃんと海!?」

海と云えば、水着、水着といえば、半裸。却下である。葉月の麗らかな半裸を誰が他の人間に見せるものか。

「海は……ちょっと」
「そうだな、お前はどっちかっていうと山派ぽいもんな」
「葉月ちゃんと山!?」

山と云えば、山小屋、狭い空間で葉月ちゃんと過ごす甘い夜……星空を見上げて、二人で過ごすロマンチックな夜。

「山にしよう」
「やっぱ、山派だったか、お前、木とか鳥とか好きそうだもんな」

木も、鳥も特に好きという訳ではなかったが、大丈夫、何を聞かれても答えられるくらい今から勉強する。

「山菜料理とか美味しいかなぁ」

デートスポットの雑誌をペラペラと、めくりながら、葉月が呟く。その様子をじっと見詰めて、鉄堅は、ドキドキが止められなかった。

小さい頃から好きで、大好きだった人が、自分とお出かけのプランを立てている。

こんな贅沢が夏休みは毎日のように続くのだ。夏休み万歳。

「青春18きっぷとか買ってさ、二人で電車乗れるだけ乗って遠くまで行ってみたいよな、何処まで行けるかな」
「何処まででもついていくよ」
「いやまぁ、9時間くらいが限界かな……関西方面なら名古屋とか、京都?朝イチでさ」
「なんて夢みたいな話なんだろう、葉月ちゃんと朝イチで9時間も電車に乗れるなんて、考えただけで胸が一杯だよ」
「……いちいち大袈裟なんだよ」

葉月が、鉄堅に突っ込むと、鉄堅はへにゃりと、しまりの無い顔で照れ笑いをする。嬉しくて嬉しくて気が狂いそう。

「恋人って、凄いね……こんなに幸福で幸せで僕はこの先、葉月ちゃんが居なくなったらもう本当に絶望で溶けて消えてしまうと思う」
「塩をかけたナメクジじゃ有るまいし、人は溶けねぇよ、気持ち悪いな」

ナメクジを想像してしまって、葉月は眉根を寄せた。うう、気持ち悪い。ヌメヌメしたの嫌いなんだよな。

「で、どーすんの、早く決めちゃおうぜ、キャンプとかも良いけど、お前んちキャンプセットとかある?」
「葉月ちゃんとキャンプ!?」

二人で光るランタンを見つめながら、テントの中で眠るのを想像して、鉄堅は頭に血が上りすぎてクラクラした。なんと云う幸せの暴挙。

「川遊びとかも楽しそうだもんな、魚とか捕まえたり」
「はぁ、もう妄想が追い付かない、現実を受け止めきれない」
「しっかりしろよ、2人で決めてるんだから」
「葉月ちゃんが決めて、葉月ちゃんとなら僕はもうどこだって天国だよ」
「エーーもぅ、頼りにならねぇな」

葉月の、頼りにならない発言に、ハッとして、鉄堅は姿勢を正した。

「まって、旅費とか交通手段とかは僕が計算します」
「うん、そーしろ。青春18きっぷは買うとして、5枚綴りだから、いっそ2セット買ってさ」

「まって、葉月ちゃん学割を使って大阪方面なら普通片道キップでも特かもしれない」
「え?どゆこと」

「JRの場合、営業キロが101キロ以上で、後戻りしない限り何回でも乗車券の区間内の途中下車が可能なんだ、しかも営業キロ(km)が101キロ以上200キロで有効期間が2日間に延びるから、それ以降は200キロ毎に有効期間が1日ずつ増える仕組みで……」
「え?え?」

ちょっと葉月が頭に疑問符を浮かべ始めたので、鉄堅は、噛み砕いた。

「つまり、東京駅から大阪駅までのキップを買うと、4日間使えるってこと」
「え!?スゲー」

「青春18きっぷみたいに、あっちこっち戻ったり路線変えたりはできないけど」
「えーーそんなん、迷うじゃん、わーーどうしよう」
「だね、迷うね」

うーん、うーんと唸りながら考えてる葉月を、最高に愛おしいと思いながら、鉄堅はこの幸せがいつまでもいつまでも続くことを願った。なんて、幸せで幸福な……恋人の時間なんだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

僕の恋人は、超イケメン!!

八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

【短編】初対面の推しになぜか好意を向けられています

大河
BL
夜間学校に通いながらコンビニバイトをしている黒澤悠人には、楽しみにしていることがある。それは、たまにバイト先のコンビニに買い物に来る人気アイドル俳優・天野玲央を密かに眺めることだった。 冴えない夜間学生と人気アイドル俳優。住む世界の違う二人の恋愛模様を描いた全8話の短編小説です。箸休めにどうぞ。 ※「BLove」さんの第1回BLove小説・漫画コンテストに応募中の作品です

推しにプロポーズしていたなんて、何かの間違いです

一ノ瀬麻紀
BL
引きこもりの僕、麻倉 渚(あさくら なぎさ)と、人気アイドルの弟、麻倉 潮(あさくら うしお) 同じ双子だというのに、なぜこんなにも違ってしまったのだろう。 時々ふとそんな事を考えてしまうけど、それでも僕は、理解のある家族に恵まれ充実した引きこもり生活をエンジョイしていた。 僕は極度の人見知りであがり症だ。いつからこんなふうになってしまったのか、よく覚えていない。 本音を言うなら、弟のように表舞台に立ってみたいと思うこともある。けれどそんなのは無理に決まっている。 だから、安全な自宅という城の中で、僕は今の生活をエンジョイするんだ。高望みは一切しない。 なのに、弟がある日突然変なことを言い出した。 「今度の月曜日、俺の代わりに学校へ行ってくれないか?」 ありえない頼み事だから断ろうとしたのに、弟は僕の弱みに付け込んできた。 僕の推しは俳優の、葛城 結斗(かつらぎ ゆうと)くんだ。 その結斗くんのスペシャルグッズとサイン、というエサを目の前にちらつかせたんだ。 悔しいけど、僕は推しのサインにつられて首を縦に振ってしまった。 え?葛城くんが目の前に!? どうしよう、人生最大のピンチだ!! ✤✤ 「推し」「高校生BL」をテーマに書いたお話です。 全年齢向けの作品となっています。 一度短編として完結した作品ですが、既存部分の改稿と、新規エピソードを追加しました。 ✤✤

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

沈黙のΩ、冷血宰相に拾われて溺愛されました

ホワイトヴァイス
BL
声を奪われ、競売にかけられたΩ《オメガ》――ノア。 落札したのは、冷血と呼ばれる宰相アルマン・ヴァルナティス。 “番契約”を偽装した取引から始まったふたりの関係は、 やがて国を揺るがす“真実”へとつながっていく。 喋れぬΩと、血を信じない宰相。 ただの契約だったはずの絆が、 互いの傷と孤独を少しずつ融かしていく。 だが、王都の夜に潜む副宰相ルシアンの影が、 彼らの「嘘」を暴こうとしていた――。 沈黙が祈りに変わるとき、 血の支配が終わりを告げ、 “番”の意味が書き換えられる。 冷血宰相×沈黙のΩ、 偽りの契約から始まる救済と革命の物語。

処理中です...