胎児の頃から執着されていたらしい

夜鳥すぱり

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第二章

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待ち合わせの駅に着くと、成瀬は、駅の改札を出た通路の壁に寄りかかって立っていた。さすがに、イケメンであるがゆえに、すれ違う女の人がチラチラ見ていた。

「成瀬すまん、遅れて」
「君達ね、遅いんだけど」
「ごめんて、ちょっと話こんじゃって」
「ふーーん」

成瀬は、葉月にぴっとりと寄り添っている鉄堅に意味ありげな視線を向けた。

「嫉妬でもされちゃった?恋人君に」
「うっ」

動揺する葉月をスッと後ろに隠して、鉄堅はにっこりと微笑んだ。

「僕たちは運命ですからね、嫉妬なんて、どちらかというとされる方かな」
「へぇ、言うねぇ。ま、どうせこうなることは解ってたさ、はいこれ」

成瀬は問題用紙の入った袋を鉄堅に渡した。鉄堅の後ろからヒョコっと葉月が顔を出す。

「さんきゅ、成瀬」
「うん、まぁ、頑張って。恋人君の教え方が下手くそだったら、俺が教えてあげるからね、手取り足取り」
「なっ、変な言い方をするなよ」

鉄堅が、絶対零度の瞳を、成瀬に向け、葉月の肩を抱いた。

「僕が教えたら葉月ちゃんは100点満点とれますから、ご心配は無用です」
「え……ちょ、鉄堅それはどうだろ」
葉月が言い過ぎだと講義するが、成瀬はぷっと笑った。
「楽しみにしてるよ、じゃぁね」

颯爽と帰っていく後ろ姿を、葉月が見ていると、鉄堅がぬっと、割り入ってその視線を遮った。
「?」
「帰ろう葉月ちゃん」
「うん」

どちらからともなく手を取って握った。昨日よりも今日の方がより心が近く成っていく。

話して、誤解したり、喧嘩したり、心配したり、でもその根本に愛が有って、それさえ知ってれば、乗り越えた時にその愛が育つんだ。

「恋をすると成長するって言うけど、ほんとだな」
「どうしたの?」
「んーーなんか、凄いなって、こんな風に色々な気持ちが俺の中にあったんだなってビックリしてる」
「うん」
「人と向き合うって、もっと辛いだけかと思ってた、どうせ解りあえないし、通りすぎれば忘れるって。でも全然ちがった」
「解り合えた?」
「気持ちは全部は解らないけど、その奥に何が有るかってことなのかな」
「葉月ちゃんが成長してる!」
「何だよ、俺だって成長するよ、そのうち背だって抜かすからな」
「ふふふっ」

繋いだ手をぶらぶらとさせながら、駅のホームにたつ。
こういうの、恋人ぽいなと葉月は思った。些細な気付きとか、ちょっと思ったこととか、何でもない小さな事も、話して、聞いて、笑い合える、そんな幸せな時間。

友達の時と明らかに違う。

大事にされて、大事にして、甘えて、甘えられて、幸福のシーソーみたい。

繋いだ手をギュッとすれば、ギュットにぎり返される。一番に心が通う、この満足感は、友達とは違う。寄りかかって良いんだと、全部をみせても良いんだと。
こんな存在、少しだけこわい。失えないから。

でも、もしもと葉月は思う。

鉄堅が、幸せになるなら、もしも自分がいない方が幸せになるなら、自分の気持ちは消し去れるかもしれない。

「お前が幸せならなんでも良いって思う時がくるとは思わなかったなぁ」
ボソッと呟くと、鉄堅は、ギュッと手を強めに握った。

「僕もだよ、葉月ちゃんが幸せなら何でも良い、それだけ願ってる」
優しく笑うその瞳が、どれだけ得難いかもう知ってる。今ある奇跡みたいなこの時を、一つ一つ大切にしたいと、葉月は思った。



◆◇◆




数日があっという間に過ぎ去った。


さて、鉄堅の献身的なサポートのお陰もあり、葉月は無事に追試を乗り越えることができた。

「やったーー!!ぼぼ90点、俺は天才だ」
「凄いよ葉月ちゃん」

心配して学校にまでついてきてた鉄堅に、抱きついて喜ぶ。校門の外で待っていた鉄堅は、テストを手に持ち、借り物競争の走者みたいに一目散に走って飛び付いてきた葉月を、そりゃもう手放しで褒め称えた。

「葉月ちゃんが頑張ったからだよ、凄いよ」
「お前のおかげだ!!ありがとーー鉄堅!!」
「役に立てて光栄だよ」
「役に立った、立った!!もーーほんとにお前は最高の彼氏だ」
「は、葉月ちゃんっ!!」

90点の喜びで変なテンションになっていた葉月は、鉄堅に抱きついてすりすりと胸に頭を擦り付けた。
鉄堅も鉄堅で、葉月のお褒めの言葉を頂いた事で、テンションMAX。
ここが学校の校門だということを忘れて、ハートを飛ばす二人を校舎の窓から、成瀬は見ていた。

「あんなに喜んで、可愛いなぁ。それにしても鉄堅君は記憶が戻ったのか?あの様子じゃ、戻ろうが、戻らまいが関係ないか。さすが運命のツガイだね……羨ましいな」

惹かれ合う二人を見ていると、少しだけ心がジンと震えた。幸福な夢みたいな理想のカップル、自分が夢見る理想がそこにあって、あぁ、こんなこと、実際に有るんだなと思った。
アルファとオメガの本能はもっと性的な衝動的な身体の反応だから、あんな風に、心が先に繋がるのは珍しい例だろう。

自分の父と葉月の母もあんな風なのだろうか。あんな風ならいいなと思った。素直に心からそう思えた。
成瀬は二人から視線を外し遥か上空の青い青い空を見上げ、全ての人に平等に降り注ぐ太陽の光をあびて、暑い夏だなと目をほそめた。

そして、自分の心の中に、しっかりと失恋の烙印が押されたことを、受け入れた。

「さよなら俺の初恋」

寂しいけど、辛いけど、後悔はない。清々しく、ふられた。強固な運命をみれた、それだけで良い。幼少期からの運命への感情が、憎しみなのか憧れなのか嫉妬なのかわからなかった感情が、幸福な色をしていたことを知って、少しだけホッとした。
これで自分も普通の恋ができるだろう。長い呪いから解放された様な気持ちで成瀬は歩きだした。


















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