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第二章
番外編 ツガイになる日 ⑤ fin
しおりを挟む脇目もふらず……ずっと俺だけを大切にしてきた鉄堅。はぁ、もう、動画とかどうでも良い。失敗しても、痛い思いだけをしてもいい。こんな可愛いやつ、他にいないから。
花の香りによってくる蜜蜂みたいに、鉄堅が近づいてくる。
「葉月ちゃん、いい匂いがする」
「発情期……きたかな」
「うん」
「じゃ、今日しよう、今したい」
葉月は、そばにきた鉄堅の襟元を、ぐいっと、つかんで、自分に引き寄せ、口についばむみたいなキスをした。鉄堅の切れ長の真っ黒な瞳のなかに、葉月が映り込む。
愛おしそうに、葉月の背中に手を回し、抱き寄せ、今度は鉄堅が焼け付くようなキスを返した。
可愛い俺の伴侶。葉月は、鉄堅の真っ黒な髪を、指先ですいた。昔に比べてずいぶんと伸びた前髪。俺以外の者には、冷たく鋭い瞳をするくせに、俺にだけ、砂糖菓子みたいに甘ったるい目を向ける。
「思いっきり噛めよ」
鉄堅の耳元で、煽るみたいに囁いたら、労りのこもった、心配そうな顔で見つめられる。鉄堅の指先が、噛み場所を探るみたいに、俺の首を撫でた。
「んっ」
「葉月ちゃん……愛しているよ、ずっと好きだった、これからもずっと好きだよ」
「うん」
鉄堅の牙が、葉月の首に突き刺さる。容赦ない痛みにさらされて、鉄堅の腕をつかんですがりついた。かたく抱き止められ、だがしかし、逃がさない、激しい求愛行為に、くらくらする。
ガリッと噛まれた首から、ジンジンとした痛みと、自分の中の子宮が疼くような感覚があった。俺は確かにオメガで、子を孕む性で……いつかこの男の……鉄堅の子を産みたいと心から思う。
「うっ……うぅっ」
あまりの痛みに声が漏れる。痛い、でもこの痛みが唯一無二を持つ覚悟だ。こんなこと許すのはお前だけなんだからな。解ってるのか? 鉄堅、お前しかこの先愛さないんだからな。
身体に熱が駆け巡る。鉄堅の熱と俺の熱が合わさって、熱くてたまらない。
お互いの匂いが重なって行くのがわかった。フェロモンが混ざり会う。あぁ、なんていい匂いなんだろう。痛くて身動きできないのに、心地よいなんて変なの。ずっとくっついていたい。このまま、石になったって構わない。
長い時がたったような、あっという間だったような、鉄堅の牙が俺からゆっくりと離れる。いたわるように、名残惜しそうに首をなめられるの、ゾクゾクする。
「くすぐったいよ」
抗議してみるものの、鉄堅はまるで犬になったみたいにしつこく俺の首の噛み痕をなめてる。ピリピリする痛みのなかに、ゾクゾクが混ざってなんかすごく、やばい衝動が沸き上がってくる。変な声がでそう。
怖いような、逃げたいような、心臓がバクバクして、どうしていいか解らない。理性がきれそうになる。もういっそ、このまま……なし崩しされてもかまわない。
だがしかし、流石そこは鉄堅だった。ぐだぐだに湯だったタコみたいに、力が入らない俺をだかえ、ベットへ運んで行く。その際、何度かキスをされて、離れ難くて、シャツをつかんだ。
「葉月ちゃん、フェロモンが不安定でつらいよね、ごめんね、寝て……そばにいるから」
「うん、お前は? なんともないの?」
「葉月ちゃんから、いい匂いがしすぎてくらくらするだけだよ」
優しい声。お前もいい匂いだよ。なんだろね、これがお互いのフェロモンしか必要なくなるってことなのかな。こんな最上の香りを知ったら、他なんか要らないね。
大好きだ。なにもかも。
心が満たされて、俺たちは今日、ツガイになった。
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