胎児の頃から執着されていたらしい

夜鳥すぱり

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第一章

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合コンと言う名の顔合わせ、他校の女子が5人連なった団子のように身体を寄せ合って店に入ってきた。ロイの隅のソファーに、先に陣取っていた俺達は、先頭の子にペコッと挨拶をした。
「こっち、こっち」
「ごめんねぇ、遅れたかも」
「大丈夫大丈夫」

急に賑やかになって、皆が浮き足だって、上辺の会話が交差する。

あぁ、何一つ覚えられない。名前も年も学年も、どこに住んでて、何が好きか、嫌いか、どんな先生がいて、勉強はできるのかできないのか、俺の周りを飛んでいく会話を一つも拾えずに、時間がたつのをぼんやりと待っていた。

幾度となく、求められる同意にただ振り子のように頷いて、すごいね、へーー、そーなんだを繰り返す。意味のないやりとり。

時々成瀬が、俺をみて、くすって笑って、上手く話を盛り上げてくれた。モテるはずだなぁと、成瀬の横で始終ぼんやり。

たぶん女の子達に興味を持てないだろうと思っていたけど、まさかここまでとは自分でも思わなかった。苦手なテレビがずっと付いていて消せないような、気まずさ。1人だけ場違いだなって、溜め息がでた。
そんな時、そういえば仰暒でさーと、誰かが言ったのに、ピクリと反応した。

「そういえば、仰暒でさーめちゃカッコいい人がいてね、名前なんだっけ?」
「知ってる知ってる、暮 鉄堅君でしょ?」
「そうそう」

女子達が、鉄堅の噂をしている。こんなところから鉄堅の名前がでるなんて、俺はひどく動揺して、ジュースを持つ手が震えてしまって、グラスを置くと手を机の下へ隠し震えを止めたくて握りしめた。村上が、不満そうな顔をしてる。

「なんだよー俺達が居るのに、他の男の話で盛り上がるなよ」
「あはは、暮君はアイドルみたいなものだから、雲の上の人とは付き合えないよ、同じ年の子なんか興味なさそーだしね」
「でも、生徒会の会長さんと付き合ってるってレイちゃんが言ってたよ。めっちゃ美人の」
「えーーうそぉ、ショック」

聞きたくなんかないのに、勝手に耳に入ってくる、さっきまで何一つ受け付けなかったのに。どうして。
生徒会の会長というのは、オメガなんだろうかと考えて、ぶわっと、鳥肌がたった。そんなことどうでも良いはずなのに。

鉄堅は、やっぱり簡単に他の人の所へ行くんだなと、あんなに俺の事を好きだと言ったくせに、もう他の人を好きなんだなと、アルファなんて、人の心なんてやっぱり、ころころ変わるんだなって、すごく、がっかりした。

俺に鉄堅を責める資格なんかないのに、この腹立ちはいったい何なんだろう。もう、母親の事も仕方ないと、納得したはずだったのに。また心の中に、黒い靄みたいな、嫌な気持ちがわく。

嘘つきだ、誰も彼も、俺も、皆が嘘つきだ。

たった1人をずっと愛する人なんかこの世に居るものか。

好きだと言ったその口で、もう他の人に好きだと言うんだ。だから、俺には関係ないことなのに。どうして、こんなに叫びたいくらいに悔しくて、腹が立つんだろう。まるでこれでは──嫉妬だ。

何で俺が嫉妬なんかしなきゃなんない。嫌だったはずだ、逃れたかったはずだ。

それなのに、どうしてこんなに怒りが沸くんだ、どうして自分じゃない誰かを選ぶ鉄堅を許せないんだ。

自分の中にこんな我が儘な感情があるなんて知らなかった。知りたくもなかった。




◆◇◆


青ざめてうつむいてしまった葉月に、成瀬の大きな手が伸びた。机の下で握りしめ、震えている葉月の手を握りこんだのだ。

急に色を失った手に、熱を与えられて、葉月は顔を上げ成瀬を見つめた。
「……」
「戸村大丈夫?」 
「あ……うん、ごめ」

答えた声がかすれて、眉を寄せた。動揺がバレる。みっともなくてまたうつむいた葉月の手を、またぎゅっと掴んで、成瀬は皆に笑顔を向けた。

「そろそろ場所移動しない? お腹いっぱいで眠くなってきた、カラオケは?」

成瀬が皆に話をふると、いいねーとワラワラと席を立つ。カラオケなんか行きたくない。もうこれ以上、鉄堅の話を聞きたくない。なかなか席を立たない葉月の横で、成瀬はヒラヒラと手を降った。

「じゃ、俺達はここで抜けるよ」
「は?」
「エーーなんで? 一緒にカラオケは?」
「悪い、実は俺と戸村は他にも約束あってさ」
「かーー、これだからモテ男は」
「そっか、残念、また遊ぼうね」
「うん、じゃ」

成瀬が無難に断って、集団から俺を引き抜いた。有り難いと思った。

「成瀬、悪りぃ、ありがと」
「もともと来たく無かったんだし、あいつらも解ってくれるよ、帰ろっか、戸村んちは、遠いんだっけ? 途中まで一緒にいこ」
「うん」

帰る道すがら、何か聞かれるかと思ったけど、成瀬は何も聞かなかった。それが妙に居心地よくて。薄っぺらな会話をするよりずっと良いと思った。
大きな乗り換え駅で、成瀬と別れて、1人電車に乗った。

真っ暗な車窓。映るのは自分の姿。見かけだけは、幸せそう。電車内の誰もがそう見える。でも、皆、心の中で言葉にならないもどかしい気持ちを抱かえて生きてるのだろうか。

学校での友達は、言葉が軽い。気持ちが入ってないから。鉄堅みたいに一言一言、くそ重い感情を詰めて投げてくる言葉に、もう出会わない。それで良いと思ってた。重い言葉は受け取りたくない、軽くて良い。ずっとそう思ってたはずなのに。

今の周りにいる人達の言葉は、さらさらと自分の周りを流れていくだけ、怒りも嫉妬も沸かないのに。それを心地良いと感じてたのに。

あいつの言葉だけが、心に突き刺さり、ぶち当たり、俺を痛め付けた。痛かった、苦しかった、嫌だった、でも、その重さがもしかしたら、本物だったのかもしれないと、気づいてしまった。

いま、もう俺に興味を失った鉄堅と喋ったら、軽い言葉に変わっているのだろうか。

葉月は、車窓に映る自分をじっとみつめた。

聞きたくない。そんな嘘か本当か解らない、くるくる回る頼りない誰にでも与える軽い言葉を、鉄堅に吐かれたら、自分はきっとまた怒ってしまう。

怒るだけならいい、もしも、嫌だと思ってしまったら、それが怖い。

「大丈夫、もう会わないのだし」

車窓に映った頼りなげな自分に声をかけた。大丈夫、もう、二度とあいつとは会わないし、話さないのだから。だから大丈夫。

永遠の愛なんかないって絶望と、もしかしたら有るのかもしれないなんて期待を繰り返すのは嫌だ。心を乱されたくない。離れても鉄堅は俺の気持ちをかき乱す。長い年月をかけた、あいつの言葉が今も、ずっしりと心に残ってた。

好きだなんて

嘘つきの言葉なんか、覚えていたくない。




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