胎児の頃から執着されていたらしい

夜鳥すぱり

文字の大きさ
8 / 120
第一章

7

しおりを挟む
熱い、苦しい、嫌だ、身体が言うことを聞かなくて、悔しくて、涙が溢れた。もがいても、もがいても抜け出せない繭の中に閉じ込められてる様だった。

「葉月、葉月しっかりするんだ」

父親の声が聞こえた、重い目蓋をあけると、心配する父が、俺を覗き込んだ。

「父さん……苦しい」
「大丈夫、これを飲むんだ」
「うっ、うぇ、ゴクッ」
「大丈夫だから、ここにいるから」
「ううっ、父さん、ごめんなさい。オメガなんかに産まれて、ごめんなさい」
「何を謝るんだ、謝るんじゃない、葉月は葉月だ、俺の大切な息子だよ」
「うっ、ううっ、ごめ……」

深い穴の底へ落ちていくように、俺はまた意識を失った。でも、さっきまでの恐怖は和らぎ、閉じ込められた世界からは抜け出せたような、安心があった。何度も心の中で謝った。オメガなんかに産まれてごめんなさいと。

父親は、謝るな、大丈夫だからと頭を飽くことなく撫でてくれた。高校生にもなって、迷惑かけてごめんなさい。

謝っても謝っても、申し訳なかった。


それからどれくらいの時間が経ったのか、薬が効いたお陰で、葉月は目覚めた。

汗をかいたベットは、湿っていて、シャワーを浴びたいと思った。

部屋の中には既に父がいなくて、時計をみると、夜の4時だった。もう明け方だ。

この時間にシャワーは流石にうるさいかと、仕方なく、リビングへいって水を飲もうと、ベットから降りた。

その時、ぱさりと、自分の身体から落ちたのは、真っ白な上着。

「これ……鉄堅の? なんで」

なぜ、鉄堅の上着が自分のベットにあるのか謎だった。もしかして、助けられたとき、掴んで離さなかったのだろうか。

顔が、カァッと赤らんだ。

恐がって、服を離さないなんて、そんな子供じみた事を自分が鉄堅にしたと思ったら、恥ずかしくて何とも言えない気持ちになった。

落ちた服を拾う。何故か、ふいにそれを抱き締めたいと思った。身体が勝手に動いて、鉄堅の服を抱き締めると、凄く安心したような、満たされたような気持ちが心に広がって、動揺した。

これが、本能なのだろうか。

オメガが本能でアルファを求めるというのは、こういうことなのかと、ガッカリした。

あぁ、やはり自分は、父を捨てた母と同じオメガだったのだ。

いつか自分も母のように、優しい人を裏切る人間になるのだろうか。

どんなに抗っても、アルファに惹かれてしまうのだろうか。

鉄堅の上着を抱き締め、葉月はポロポロと泣いた。




◆◇◆



 朝の6時過ぎ。学校に行く準備をしていると、ボサボサ頭の父が起きてきた。

「葉月、起きたのか」
「うん……昨日は、ごめんね、俺あんまり記憶がないけど、ひどかったかな」

どんな恥態を晒したか解らないけど、普通でなかっただろうと情けなくて、うつむいた。

「ひどくなんか無かったよ。ただ、熱があったから、鉄堅君も心配してたよ」
「鉄堅……やっぱり、俺を助けてくれたの?」
「覚えてないか? 路地でうずくまってたお前を家まで運んでくれて、運んだあとは、私に連絡をくれたよ。自分は家の外の玄関でずっと私が帰ってくるのを待っていてくれたんだ。中々できることじゃない、お礼を言わないとな」

「外? だって、上着着てなかったのじゃ?」
「あぁ、薄着で、外にいた。春先とはいえ、夜10時を過ぎていたから、寒かっただろうね、遅くなった事を詫びたけど、大丈夫の一点張りで、本当に立派な態度だったよ」

夜の10時って、1時間も外に居たって事だ。そんなこと、頼んでないのにと、また無意識に反抗的な事を考えてしまって、奥歯を噛み締めた。

そうじゃない。

頼んでないとか、そんな風に思ったらいけない、むしろ、頼んでないのにやってくれたことを感謝しないといけない。

「鉄堅君に、お礼を言わないとな、葉月?」
「うん」

お礼を言わなくちゃいけない。上着を奪ったことを謝らないといけない。

「父さん……俺、シャワー浴びたら鉄堅の家に行ってくるよ」
「大丈夫なのか? 今日は無理せず学校は休んだ方がいいぞ」
「うん、上着を返したらすぐ帰ってくるよ」

熱はもう無いし、あの鉛を飲んだような気持ち悪さも無かった。薬って凄いなと思う。たった1粒で、こんなに楽になるんだ。

シャワーを浴びたあと、普段着を着て、紙袋に折り畳んだ鉄堅の上着を入れた。

お菓子か何かも持っていった方が良いかなと一瞬思ったけど、朝だし、後で父が菓子折りを買ってきてくれるといっていたので、とりあえず、制服だし無いと困るだろうと思って、それだけを持って家をでた。

鉄堅に会ったら、何て言おう。

あの日、中学卒業間近のあの日以来、喋ってない。

《離れるならツガイになって》
《ずっと好きだった》
《これからもずっと好き》

鉄堅に言われた言葉を思い出して、脳内で勝手にリフレインされる言葉が、心の中で暴れて、顔が赤くなる。

はぁっと、気持ちを整えて歩き出す。







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

僕の恋人は、超イケメン!!

八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

【短編】初対面の推しになぜか好意を向けられています

大河
BL
夜間学校に通いながらコンビニバイトをしている黒澤悠人には、楽しみにしていることがある。それは、たまにバイト先のコンビニに買い物に来る人気アイドル俳優・天野玲央を密かに眺めることだった。 冴えない夜間学生と人気アイドル俳優。住む世界の違う二人の恋愛模様を描いた全8話の短編小説です。箸休めにどうぞ。 ※「BLove」さんの第1回BLove小説・漫画コンテストに応募中の作品です

推しにプロポーズしていたなんて、何かの間違いです

一ノ瀬麻紀
BL
引きこもりの僕、麻倉 渚(あさくら なぎさ)と、人気アイドルの弟、麻倉 潮(あさくら うしお) 同じ双子だというのに、なぜこんなにも違ってしまったのだろう。 時々ふとそんな事を考えてしまうけど、それでも僕は、理解のある家族に恵まれ充実した引きこもり生活をエンジョイしていた。 僕は極度の人見知りであがり症だ。いつからこんなふうになってしまったのか、よく覚えていない。 本音を言うなら、弟のように表舞台に立ってみたいと思うこともある。けれどそんなのは無理に決まっている。 だから、安全な自宅という城の中で、僕は今の生活をエンジョイするんだ。高望みは一切しない。 なのに、弟がある日突然変なことを言い出した。 「今度の月曜日、俺の代わりに学校へ行ってくれないか?」 ありえない頼み事だから断ろうとしたのに、弟は僕の弱みに付け込んできた。 僕の推しは俳優の、葛城 結斗(かつらぎ ゆうと)くんだ。 その結斗くんのスペシャルグッズとサイン、というエサを目の前にちらつかせたんだ。 悔しいけど、僕は推しのサインにつられて首を縦に振ってしまった。 え?葛城くんが目の前に!? どうしよう、人生最大のピンチだ!! ✤✤ 「推し」「高校生BL」をテーマに書いたお話です。 全年齢向けの作品となっています。 一度短編として完結した作品ですが、既存部分の改稿と、新規エピソードを追加しました。 ✤✤

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

沈黙のΩ、冷血宰相に拾われて溺愛されました

ホワイトヴァイス
BL
声を奪われ、競売にかけられたΩ《オメガ》――ノア。 落札したのは、冷血と呼ばれる宰相アルマン・ヴァルナティス。 “番契約”を偽装した取引から始まったふたりの関係は、 やがて国を揺るがす“真実”へとつながっていく。 喋れぬΩと、血を信じない宰相。 ただの契約だったはずの絆が、 互いの傷と孤独を少しずつ融かしていく。 だが、王都の夜に潜む副宰相ルシアンの影が、 彼らの「嘘」を暴こうとしていた――。 沈黙が祈りに変わるとき、 血の支配が終わりを告げ、 “番”の意味が書き換えられる。 冷血宰相×沈黙のΩ、 偽りの契約から始まる救済と革命の物語。

処理中です...