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第一章
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次の日は予定道理クッキーを買った。今の鉄堅は、たぶん俺から貰ったもの喜ばないだろうけど、手ぶらで行くのもなんだしな。病院でずっと鉄堅に付き添いしているおばさんが食べてくれたら良いやと思った。きっと俺なんかよりずっとつらいだろうし、甘いもの食べて、少しでも元気になってくれたら良いな。
病室のドアをノックするが、返事がなかった。
(あれ?おばさん居ないのかな?)
ちょっとだけ、扉を開けて中を覗いてみる。やっぱりおばさんが居ない。
どうしようかな、勝手に入って良いかな、迷っているとふと、扉に小さな張り紙がしてあるのに気づいた。
【葉月ちゃんごめんね、買い物に行ってきます、鉄堅をよろしく 鉄堅の母より】
「あ、そーゆこと、なら入って良いよね、お邪魔しま~す」
ベットへ近づくと、鉄堅は読みかけの本をお腹の上に置いて寝ていた。
(寝顔……初めて見た)
お泊まりもしたことあるし、修学旅行では常に同じ班だし、寝顔を見る機会なんか山程有ったのに。
(寝てると、案外可愛い顔してるんだな)
目を覚ましたら、俺のこと思い出してくれたらいいのに。
物語によくあるじゃん、王子様のキスで魔法が解けて目覚めるとか……でも、事故は魔法じゃないもんな。そんな都合良くいかないか。
それにキスなんて、したことないし、初めてするキスが寝てる相手なんて虚しいじゃん。
鉄堅は赤ちゃんの時に俺にしたって言うけど、覚えてないし、そんなのノーカンだよ。
でも、俺達、もしこのまま鉄堅が俺のこと好きにならなかったら、キスもしないで別れるのかな。
付き合った日数なんか、ほんのちょっぴりだし。好きだって気づいたのだって、ついこないだだし。
地球上の生物の営みからしたら、こんなのほんの一瞬の煌めきみたいなもんだよな。
長い時を刻む筈だったけど。
「……好きにならなきゃ良かったのかな」
ポソッと呟く。
やっぱり、恋愛なんか終わるものなのかな。永遠に誰かを好きでいることなんか出来ないのかな。
「お前、あんまり俺をほっとくと、他に行っちゃうぞ、後で後悔したって知らないぞ」
少しだけ、文句を言ってみる。他になんか行けないこと、自分が一番よく解ってるけど。
鉄堅の睫がふるふると揺れて、その思慮深い瞳がゆっくりと、葉月を捕らえた。
「君……なぜ、泣いているの」
「あ、や、いま、あくびしたんだよ、あーー眠い、俺も昼寝したいなーっと」
「母は?」
「おばさん、買い物に行ったって、さっきたぶん、俺と入れ違いだったかも」
「そう」
「あーーっと、そうだ、クッキー食べる? お茶飲む?」
「いや、いらない」
「そう? ここのクッキー美味しいんだけどな、やっぱ、お前、甘いもの苦手だった? プリンとかも嫌い?」
このよく喋る、葉月という青年はなんなのだろう? 鉄堅は、不思議だった。母は幼馴染みだと言っていたが、幼馴染みにしては、自分の事を知らなすぎるし、友達にしては、妙に距離が近い。
目鼻立ちのはっきりきた、派手な顔に、色素の薄い肌、少し茶味を帯びた柔らかそうな髪、男にしては華奢な体躯。声は高めで、つらつらとよく喋る。鉄堅は、騒がしい人が苦手であるが、何故か葉月にはそれほど嫌悪を感じなかった。
自分になど、構わなくても、クラスの中で人気者になれそうな、人。
《もう一度好きになって欲しい》
なんて言っていたが、好きになるのは別に自分で無くても良いだろうと思った。
「君……僕の事を恋愛的な意味で好きなのか?」
「エッ!! あ、うん、そーだよ」
急に真っ赤になって、うつむいたその様子は、可愛らしいと思えなくもなかった。
「君と僕は付き合っていたのだろうか?」
「う、うん……たぶん」
「たぶん?」
なんだそれは、はっきり両想いという訳では無かったのだろうか? 記憶の欠片もないあたり、僕は本当にこの人を好きだったのだろうか。
「僕は、君を好きだったなんて、思えない」
「……」
言い返してくるだろうと思ったのに、葉月は青ざめてうつ向いた。まるでこちらが虐めてるみたいな気持ちになって、ムカムカした。
「僕は騒がしい人が好きじゃない、君みたいによく喋る人を好きになるとは到底思えない」
「そ……っか、前はさ、俺達あんまり喋らなかったんだよ」
「え?」
「全然、喋らなかった」
「喋りもしないのに好きになるのか?」
「だよな、うん、俺もお前が何で俺のこと好きなのか解らなかったんだ」
「……なんだそれは、本当に付き合っていたのか?」
「ん……まぁ、もう昔の事だし、もうお前は俺を忘れちゃったんだし、だからもう、いいよ」
もういいとは、どういう意味だ? 鉄堅は、葉月の気持ちが解らず戸惑った。
もう、どうでもいいなら、何故毎日学校を休んでまでして会いに来るのだろう。
無駄だと思った。だから、言った。
「もう、来なくていい」
だって、お互いにメリットがない。きっとこの子もそう言われた方が楽になるだろう。だけど、葉月はブンブンと首をふった。
「何でそんなこと言うんだよ、来るよ」
青ざめた顔でしがみつくみたいに、だが、鉄堅は冷静に拒絶した。
「もう来ないで欲しい」
そう言うと、葉月はまた口を開いて、異を唱えようとしたが、しかし、その口はふるふると震えやがて、音もなく閉じられ、歪み、酷く傷ついた顔で、笑った。
「解った、しつこくしてごめん」
カタンと小さな音を立てて席を立ち、病室を出ていくその後ろ姿は消え去りそうな程儚げで、なぜだか胸が苦しくなった。
病室のドアをノックするが、返事がなかった。
(あれ?おばさん居ないのかな?)
ちょっとだけ、扉を開けて中を覗いてみる。やっぱりおばさんが居ない。
どうしようかな、勝手に入って良いかな、迷っているとふと、扉に小さな張り紙がしてあるのに気づいた。
【葉月ちゃんごめんね、買い物に行ってきます、鉄堅をよろしく 鉄堅の母より】
「あ、そーゆこと、なら入って良いよね、お邪魔しま~す」
ベットへ近づくと、鉄堅は読みかけの本をお腹の上に置いて寝ていた。
(寝顔……初めて見た)
お泊まりもしたことあるし、修学旅行では常に同じ班だし、寝顔を見る機会なんか山程有ったのに。
(寝てると、案外可愛い顔してるんだな)
目を覚ましたら、俺のこと思い出してくれたらいいのに。
物語によくあるじゃん、王子様のキスで魔法が解けて目覚めるとか……でも、事故は魔法じゃないもんな。そんな都合良くいかないか。
それにキスなんて、したことないし、初めてするキスが寝てる相手なんて虚しいじゃん。
鉄堅は赤ちゃんの時に俺にしたって言うけど、覚えてないし、そんなのノーカンだよ。
でも、俺達、もしこのまま鉄堅が俺のこと好きにならなかったら、キスもしないで別れるのかな。
付き合った日数なんか、ほんのちょっぴりだし。好きだって気づいたのだって、ついこないだだし。
地球上の生物の営みからしたら、こんなのほんの一瞬の煌めきみたいなもんだよな。
長い時を刻む筈だったけど。
「……好きにならなきゃ良かったのかな」
ポソッと呟く。
やっぱり、恋愛なんか終わるものなのかな。永遠に誰かを好きでいることなんか出来ないのかな。
「お前、あんまり俺をほっとくと、他に行っちゃうぞ、後で後悔したって知らないぞ」
少しだけ、文句を言ってみる。他になんか行けないこと、自分が一番よく解ってるけど。
鉄堅の睫がふるふると揺れて、その思慮深い瞳がゆっくりと、葉月を捕らえた。
「君……なぜ、泣いているの」
「あ、や、いま、あくびしたんだよ、あーー眠い、俺も昼寝したいなーっと」
「母は?」
「おばさん、買い物に行ったって、さっきたぶん、俺と入れ違いだったかも」
「そう」
「あーーっと、そうだ、クッキー食べる? お茶飲む?」
「いや、いらない」
「そう? ここのクッキー美味しいんだけどな、やっぱ、お前、甘いもの苦手だった? プリンとかも嫌い?」
このよく喋る、葉月という青年はなんなのだろう? 鉄堅は、不思議だった。母は幼馴染みだと言っていたが、幼馴染みにしては、自分の事を知らなすぎるし、友達にしては、妙に距離が近い。
目鼻立ちのはっきりきた、派手な顔に、色素の薄い肌、少し茶味を帯びた柔らかそうな髪、男にしては華奢な体躯。声は高めで、つらつらとよく喋る。鉄堅は、騒がしい人が苦手であるが、何故か葉月にはそれほど嫌悪を感じなかった。
自分になど、構わなくても、クラスの中で人気者になれそうな、人。
《もう一度好きになって欲しい》
なんて言っていたが、好きになるのは別に自分で無くても良いだろうと思った。
「君……僕の事を恋愛的な意味で好きなのか?」
「エッ!! あ、うん、そーだよ」
急に真っ赤になって、うつむいたその様子は、可愛らしいと思えなくもなかった。
「君と僕は付き合っていたのだろうか?」
「う、うん……たぶん」
「たぶん?」
なんだそれは、はっきり両想いという訳では無かったのだろうか? 記憶の欠片もないあたり、僕は本当にこの人を好きだったのだろうか。
「僕は、君を好きだったなんて、思えない」
「……」
言い返してくるだろうと思ったのに、葉月は青ざめてうつ向いた。まるでこちらが虐めてるみたいな気持ちになって、ムカムカした。
「僕は騒がしい人が好きじゃない、君みたいによく喋る人を好きになるとは到底思えない」
「そ……っか、前はさ、俺達あんまり喋らなかったんだよ」
「え?」
「全然、喋らなかった」
「喋りもしないのに好きになるのか?」
「だよな、うん、俺もお前が何で俺のこと好きなのか解らなかったんだ」
「……なんだそれは、本当に付き合っていたのか?」
「ん……まぁ、もう昔の事だし、もうお前は俺を忘れちゃったんだし、だからもう、いいよ」
もういいとは、どういう意味だ? 鉄堅は、葉月の気持ちが解らず戸惑った。
もう、どうでもいいなら、何故毎日学校を休んでまでして会いに来るのだろう。
無駄だと思った。だから、言った。
「もう、来なくていい」
だって、お互いにメリットがない。きっとこの子もそう言われた方が楽になるだろう。だけど、葉月はブンブンと首をふった。
「何でそんなこと言うんだよ、来るよ」
青ざめた顔でしがみつくみたいに、だが、鉄堅は冷静に拒絶した。
「もう来ないで欲しい」
そう言うと、葉月はまた口を開いて、異を唱えようとしたが、しかし、その口はふるふると震えやがて、音もなく閉じられ、歪み、酷く傷ついた顔で、笑った。
「解った、しつこくしてごめん」
カタンと小さな音を立てて席を立ち、病室を出ていくその後ろ姿は消え去りそうな程儚げで、なぜだか胸が苦しくなった。
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