王女なのに虐げられて育った私が、隣国の俺様皇帝の番ですか？-または龍神皇帝の溺愛日記-

シュシュは強くなった

「処刑、ですか」

「ああ。シュシュの命を狙った以上生かしておくわけにはいかない。毒殺未遂の件は表向きにはなかったことになっているし、シュシュは胃腸炎を拗らせただけということになってはいるが…あの侯爵令嬢にはシュシュに盛った毒の何倍もきつい毒杯をくれてやる。まあ、表向きには病死という扱いにはなるがな」

シュシュに侯爵令嬢をどうするのかと聞かれたので、少し迷ったが正直に答える。シュシュは黙って聞いてくれた。

「…ニタ」

「どうした？」

「マルティーナ様を処刑する前に、一度だけお話をさせていただきたいのです」

シュシュの言葉に驚きシュシュを見つめるが、シュシュはどうやら本気のようだ。

「…何故だ？」

「弱い自分と向き合うためです。もう、二度とニタのお側を離れようなどと考えないように」

シュシュは、強くなった。強くなんてならなくてもいいのに。

「…わかった。あまり時間もないし、今すぐでよければ」

「はい。ありがとうございます、ニタ！」

ー…

皇宮の地下牢を進む。マルティーナ侯爵令嬢は、牢の中で項垂れていた。

「おい」

「…皇帝陛下！会いに来てくださったのですね！やはりあんな人族の小娘が運命の番だなんて何かの間違いだったのですね！私が皇帝陛下の本当の運命の番なのでしょう！？」

「口を塞げ。話しかけてくるな、気分が悪い。俺はシュシュの付き添いでここにいるだけだ。調子に乗るな」

「…メランコーリッシュ王女！」

俺が話しかけると猫撫で声で甘えてきた侯爵令嬢だったが、シュシュを視界に入れると鬼のような形相になる。不愉快だ。

「なんで生きてるのよ！なんで死んでくれないの！あんたが生きてたら、皇帝陛下が目を覚ましてくれないじゃない！あんたみたいな人族には過ぎた方なのよ！自覚がないの！？」

「…マルティーナ様。私はもう、貴女のような方には屈しません。ニタは正気ですよ。本気で私のことを愛してくれているのです。そして、それは私も同じこと。ニタを心から愛しています。きっと運命なんてものがなくても私達は、出会うことが出来れば惹かれあっていたでしょう。だからこそ私達は運命の番なのです。ニタが素晴らしい方だということは誰よりも私こそが理解しています。その上で、私はニタに相応しくないから身を引くのではなく…ニタに相応しい人間になれるように努力したいのです」

侯爵令嬢は最初こそシュシュに文句を言っていたが、シュシュの強い視線に射抜かれた侯爵令嬢は言葉を失い、シュシュの言葉を受け止める形になった。シュシュから何を言われたのか理解すると、狂気に身を浸した。イライラした様子で頭を掻き毟ると、牢の檻に掴まってシュシュに手を伸ばし危害を加えようとする。俺はすかさずシュシュを抱き寄せて守る。その様子に、侯爵令嬢は慟哭する。

「シュシュ。これ以上は会話にならないだろう。行こう」

「はい、ニタ。マルティーナ様。色々言いたいことはありましたが、これだけは言わせてください。…ありがとう」

シュシュの意外な一言に俺も侯爵令嬢も目を点にする。

「シュシュ…？」

「あんた、なんのつもり…？」

シュシュは答える。

「だって、マルティーナ様のお陰で私は命を狙われかねない立場にいると自覚が持てましたし、ニタに相応しい人間になろうとより強く思えました。ニタにどれだけ愛されているか、少しは自覚出来ましたし、ニタをどれだけ愛しているかよく分かりました。だから、ありがとう」

ふわりと微笑むシュシュはとても綺麗だ。

侯爵令嬢は今度こそ狂ったように叫び声を上げ、俺たちは地下牢を後にした。