妹は私から奪った気でいますが、墓穴を掘っただけでした。私は溺愛されました。どっちがバカかなぁ~?

百谷シカ

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10 人生の陰影と光

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 取り立てて人に話すような事はないとしても、私の人生は輝いていた。

 優しく誠実な夫と、可愛い娘。
 姉のように接してくれる大親友と王妃。

 そして、娘のフレデリカが6才になろうと言う頃だった。
 甥であるレジナルドが、ついに貴族学校に入学してきた。


「祖父の話では伯母様が本来、父と結婚される予定だったとか」

「……7才よね?」

「はい。やっと入学が許されました」


 私はユーイン伯爵の本気を見た。
 レジナルドは利発で優秀だったので、私以外の教師からも好印象を持たれるばかりか、あのバーサにまで気に入られた。子供らしからぬ口調や態度を面白がっているという面もあるけれど、まあ、いいでしょう。

 そういった関係で、その年の祝祭では、レジナルドの両親として妹とその夫、つまり遥か昔の元婚約者も宮廷に上ってきた。


「聞いてよ、お姉様! ルーシャンたら酷いのよ! 私が妊娠したとたん、なんて言ったと思う? 『君は跡継ぎを産み、私は愛に生きる。幸せだね』よ!? 一生忘れないわ!!」

「『はい』って答えたの?」

「そう言うしかないでしょう!? 相変わらずバカなのね、お姉様。ちょっといい地位についたからって、まさか殿方に意見できると思ってないでしょうね。破滅するわよ?」

「心配してくれてありがとう」

「でも、どうしてかしら。お姉様を棄ててまで私との愛を選んでくれた彼が、今では私に見向きもしないで、よりにもよって18才のメイドなんかと毎日、毎晩、四六時中ベタベタしてるのよ!? ねえ、お姉様! なんでなのッ!?」

「当然よ。だって、あなた老けたもの」


 実に8年ぶりの再会だった。


「なっ……!!」

「そんなに驚く事じゃないでしょう? 産後にきちんと療養したの? 全体的に凄く弛んでるし、それでいて浮腫んでるじゃない。運動しなさい」

「よっ、よくもそんな事が言えるわね! お姉様は私より年上なのよ!? お姉様なんだから! 先におばあちゃんになるのはそっちじゃない! 侯爵夫人になって着飾ったからって年はごまかせないのよ!? そうやって痩せてるのだって、今にみすぼらしい骨と皮になるんだから!」

「相変わらず、口は回るのね」


 感心していると、ふと背後に忍び寄る気配が……


「どうも、アラベラ。会うのは初めてだね」

「あ……」


 夫、つまり殿方の出現に妹が口を噤み、しなを作って俯いた。
 そして上目遣い。

 お淑やかな令嬢を装っていたかつての妹は、見る影もない。


「私たちの結婚式の時はちょうど臨月だったのだから、実に祝福すべき不在だった。それはそうとひとつ言いたい事がある」

「?」


 隣に並んだ夫の顔を、はたと見あげる。
 珍しく、気色ばんで、少し、鼻息が荒い。

 そして断言した。


「妻は王妃と同じ美容法でケアしているから年齢を重ねる毎に美しくなっているよ。君より10才若く見える」

「え゛」


 妹も驚愕しているようだけれど、私も驚いた。
 

「では、方々に挨拶があるので失礼する。行こう、ヒラリー」


 背中に背を添えられて促され、私は妹を残し歩き出した。
 振り返ると、妹は、真っ赤な顔で目を見開いて俯いていた。

 しかし、本当に老けたわ。
 不幸とは老化を促進させる重要な要素なのかもしれない。

 少し歩いて、私はまだ鼻息の荒い夫の横顔を見あげた。


「驚いたわ。普段、波風立てない人なのに」

「君と結ばれて可愛い娘まで産んでもらって幸せの絶頂にある私にはもうどうでもいい事になっていたから黙っていたが、私が学問に逃避し老人を装って教授と名乗ったのには実に腹立たしい過去があるんだよ」

「できたら要点を絞って。向こうの元帥と目が合った」

「親友が婚約者を奪った。それで絶望して髭を生やした」

「そうだったの。ロマンチックなあなたには世界が終わるような悲劇ね」

「結果的に君と幸せに暮らしているからといって、奴らのした事は許せない。よって、君の妹も同類だ。愛してるよ、ヒラリー」

「怒ってないで。ほら、元帥がこっち来るわ」

「ああ。今、深呼吸してる」

「それは鼻息」


 夫の悲しい過去はそれほど気にならなかった。
 今の私たちは幸せで、充実し、光り輝いていたから。

 ちなみにこの祝祭で、私の些末な過去であり妹の夫であるユーイン伯爵令息ルーシャン・バイアットは、ふたりの伯爵夫人とひとりの侯爵令嬢に手をつけ、あげくの果てには王妃に接触したため、国外追放された。

 大事件になった。

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