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9 初めての恋を教わった後で
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新婚生活は素晴らしかった。
朝、目覚めると恋しい人が隣に寝ている。
そして朝からあれこれと話をして、昼はそれぞれの務めを果たし、夜にはまた語り合い、愛しあって並んで眠る。かつて夫婦という形に疑問を抱いた時期もあったけれど、結婚は最高な人間関係の一形態と言えた。但し、相手による。
私の幸せは、日を追うごとに膨んだ。
そして幸せな日々の過行くのは、なんと早い事か。
宮廷での仕事も素晴らしかった。
夫は権力やなにかしらの手腕があるわけではないけれど、誠実な人柄と思慮深さ、そして哲学の知識を、国王陛下から信頼されている。大臣から相談を持ち掛けられる事も多いようだ。
日中は私も王妃の監督する貴族学校で教師として過ごし、賢く愛らしい王子と王女と他所の子たちに礼節や教養、簡単な学問を教えた。
「若いのに、とても落ち着いているわね。ヒラリー」
王妃はよく、そう言って私に微笑んだ。
最近は私の膨らんだ腹部を撫でながら、
「あなたとブルック侯爵の子なら、とても賢い子が生まれるでしょうね」
という、とてつもなく嬉しい事を言ってくれる。
王妃は私より8才年上で、王子と王女、それぞれひとりずつ出産していた。身近で過ごす事もあり、王妃が妊婦である私の世話を焼いてくれるという場面も度々訪れ、驚きは一入だった。
私の体調を気遣うその筆頭は、心配性で優しい夫だけれども。
嬉しい事はもうひとつあった。
バーサ・オールダムは令嬢ではなかった。バロウズ伯爵夫人だという。
彼女は王妃の侍女のひとりで、貴族学校の教師を発掘するために寄宿学校へ忍び込んでいたそうだ。
そして、私の結婚が決まった時も、陰ながら強く推薦してくれたらしい。
「本当はもう数人教師が欲しいのだけれど、私もバーサが恋しいし、あなたとも親しいようだし、戻ってきてもらってもいいかもしれないわね」
王妃が微笑んで呟いた一言は、すぐ現実になった。
「ああ、ヒラリー! 結婚式ぶりね。まあまあ、こんなに大きくなっちゃって」
侍女に復帰したバーサは、微笑む王妃の脇で低くしゃがみ込み、私のお腹に両手をあててキスをした。
「まるで父親ね」
「両親が逞しいタイプではないもの。ひとりくらい頼もしい大人がいたっていいでしょう?」
「私は強くて健康よ」
「ああ、木登りが趣味だしね」
「木登り?」
王妃が目をぱっちりと開けて、驚きを表現している。
「そうですよ、陛下。ふたりはトゥーレの木の上と下で出会い、トゥーレの木の下で永遠の愛を誓ったんです」
「まあ! ロマンチックだわ」
「会話はぜんぜんそんな感じじゃないのですけど、本人たちはときめいているんでしょう。聞いてるとそれなりに面白いんですよ」
「頭のいいふたりだものね」
息の合うふたりは再会早々、私を噂の種にする遊びを覚えてしまったらしかった。でもそれが愛情からくるものだとわかっているので、それなりに嬉しい。
こうして過ごすうち、私はだんだんと3姉妹の末っ子のような立ち位置に変わっていった。妊婦で多くの気遣いを受けた事も深く関係しているだろう。
「楽しみね。名前は決めたの?」
侍女の姿になってもバーサはバーサだった。
大親友との再会を夫も喜んでくれて、寝室での会話も弾む。
「あなたが知っていたなんて驚きだわ」
「私のように訳ありの人物が他にもいるとの事で、最初に学長から告げられたんだよ。まさか、君を通して友情を築く事になるとは思わなかったけどね」
「バロウズ伯爵ってどんな方なの? バーサはとても魅力的よ? ずっと離れて暮らすなんて、恋愛体質ではない私ですら考えられないわ。不安じゃないの?」
「君は妊娠して感情的になっているよ」
「そう? 母親としてはいい傾向だわ」
「まあ君は勉強が好きというだけで、心が豊かな人だからね」
「ありがとう。それで、バロウズ伯爵ってどんな方なの? 宮廷にいる?」
「亡くなったよ」
「えっ!?」
ベッドで枕を背にして並んで座り、眠くなるまで手をつないで今日あった出来事を語り合う。そんな素敵な時間に、私は叫んだ。
「彼女は完全な政略結婚で、王妃の侍女になるために老齢のバロウズ伯爵と結婚したんだ。なかなかの政治的手腕だと思うよ」
「そうなの?」
「バロウズ領は国が管理しているし、王妃にも信頼されているし、人生それぞれだけど彼女は幸せ者だね」
「以前言っていたわよね。性質や境遇が似通った人間が自然と集まるものだって。私たちは幸せで、国王夫妻も幸せで、バーサも幸せでしょう? 国は安泰で良い事だけど、バーサにも結婚相手が必要だわ」
「君が婦人の恋に気を揉むようになるとはね」
「私だって恋する乙女だったのよ。ちょっとの期間だったけど」
「私はずっと、年を重ねる毎に、君に新しい恋をすると思うよ」
「ロマンチックなのはあなたのせいね」
優しいキスをして、どちらともなくベッドに潜り込む。
「おやすみ、愛しいヒラリー」
「おやすみなさい、私のアルジャノン。愛してるわ」
「良い夢を」
額にも、優しいキス。
愛を育むという素晴らしい新婚生活は、胎児同様、期待に満ち溢れている。
朝、目覚めると恋しい人が隣に寝ている。
そして朝からあれこれと話をして、昼はそれぞれの務めを果たし、夜にはまた語り合い、愛しあって並んで眠る。かつて夫婦という形に疑問を抱いた時期もあったけれど、結婚は最高な人間関係の一形態と言えた。但し、相手による。
私の幸せは、日を追うごとに膨んだ。
そして幸せな日々の過行くのは、なんと早い事か。
宮廷での仕事も素晴らしかった。
夫は権力やなにかしらの手腕があるわけではないけれど、誠実な人柄と思慮深さ、そして哲学の知識を、国王陛下から信頼されている。大臣から相談を持ち掛けられる事も多いようだ。
日中は私も王妃の監督する貴族学校で教師として過ごし、賢く愛らしい王子と王女と他所の子たちに礼節や教養、簡単な学問を教えた。
「若いのに、とても落ち着いているわね。ヒラリー」
王妃はよく、そう言って私に微笑んだ。
最近は私の膨らんだ腹部を撫でながら、
「あなたとブルック侯爵の子なら、とても賢い子が生まれるでしょうね」
という、とてつもなく嬉しい事を言ってくれる。
王妃は私より8才年上で、王子と王女、それぞれひとりずつ出産していた。身近で過ごす事もあり、王妃が妊婦である私の世話を焼いてくれるという場面も度々訪れ、驚きは一入だった。
私の体調を気遣うその筆頭は、心配性で優しい夫だけれども。
嬉しい事はもうひとつあった。
バーサ・オールダムは令嬢ではなかった。バロウズ伯爵夫人だという。
彼女は王妃の侍女のひとりで、貴族学校の教師を発掘するために寄宿学校へ忍び込んでいたそうだ。
そして、私の結婚が決まった時も、陰ながら強く推薦してくれたらしい。
「本当はもう数人教師が欲しいのだけれど、私もバーサが恋しいし、あなたとも親しいようだし、戻ってきてもらってもいいかもしれないわね」
王妃が微笑んで呟いた一言は、すぐ現実になった。
「ああ、ヒラリー! 結婚式ぶりね。まあまあ、こんなに大きくなっちゃって」
侍女に復帰したバーサは、微笑む王妃の脇で低くしゃがみ込み、私のお腹に両手をあててキスをした。
「まるで父親ね」
「両親が逞しいタイプではないもの。ひとりくらい頼もしい大人がいたっていいでしょう?」
「私は強くて健康よ」
「ああ、木登りが趣味だしね」
「木登り?」
王妃が目をぱっちりと開けて、驚きを表現している。
「そうですよ、陛下。ふたりはトゥーレの木の上と下で出会い、トゥーレの木の下で永遠の愛を誓ったんです」
「まあ! ロマンチックだわ」
「会話はぜんぜんそんな感じじゃないのですけど、本人たちはときめいているんでしょう。聞いてるとそれなりに面白いんですよ」
「頭のいいふたりだものね」
息の合うふたりは再会早々、私を噂の種にする遊びを覚えてしまったらしかった。でもそれが愛情からくるものだとわかっているので、それなりに嬉しい。
こうして過ごすうち、私はだんだんと3姉妹の末っ子のような立ち位置に変わっていった。妊婦で多くの気遣いを受けた事も深く関係しているだろう。
「楽しみね。名前は決めたの?」
侍女の姿になってもバーサはバーサだった。
大親友との再会を夫も喜んでくれて、寝室での会話も弾む。
「あなたが知っていたなんて驚きだわ」
「私のように訳ありの人物が他にもいるとの事で、最初に学長から告げられたんだよ。まさか、君を通して友情を築く事になるとは思わなかったけどね」
「バロウズ伯爵ってどんな方なの? バーサはとても魅力的よ? ずっと離れて暮らすなんて、恋愛体質ではない私ですら考えられないわ。不安じゃないの?」
「君は妊娠して感情的になっているよ」
「そう? 母親としてはいい傾向だわ」
「まあ君は勉強が好きというだけで、心が豊かな人だからね」
「ありがとう。それで、バロウズ伯爵ってどんな方なの? 宮廷にいる?」
「亡くなったよ」
「えっ!?」
ベッドで枕を背にして並んで座り、眠くなるまで手をつないで今日あった出来事を語り合う。そんな素敵な時間に、私は叫んだ。
「彼女は完全な政略結婚で、王妃の侍女になるために老齢のバロウズ伯爵と結婚したんだ。なかなかの政治的手腕だと思うよ」
「そうなの?」
「バロウズ領は国が管理しているし、王妃にも信頼されているし、人生それぞれだけど彼女は幸せ者だね」
「以前言っていたわよね。性質や境遇が似通った人間が自然と集まるものだって。私たちは幸せで、国王夫妻も幸せで、バーサも幸せでしょう? 国は安泰で良い事だけど、バーサにも結婚相手が必要だわ」
「君が婦人の恋に気を揉むようになるとはね」
「私だって恋する乙女だったのよ。ちょっとの期間だったけど」
「私はずっと、年を重ねる毎に、君に新しい恋をすると思うよ」
「ロマンチックなのはあなたのせいね」
優しいキスをして、どちらともなくベッドに潜り込む。
「おやすみ、愛しいヒラリー」
「おやすみなさい、私のアルジャノン。愛してるわ」
「良い夢を」
額にも、優しいキス。
愛を育むという素晴らしい新婚生活は、胎児同様、期待に満ち溢れている。
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